基幹病院のICUで看護師として働いている30代後半の女性の部屋。生活ごみの多い「コンビニ系」だった

部屋がゴミに埋め尽くされ、自分ではどうしようもできない。私に依頼してきた人のなかには、今回、片づけを請けてもらえなかったら死のうと思っていたという女性もいました。部屋が汚いという理由で死ぬことを考えている人もいます

 と語るのは、年間800軒以上のゴミ屋敷や汚部屋の清掃を請け負っている「株式会社 まごのて」の佐々木薫さん。

ゴミ屋敷になりやすい職業

 依頼者のほとんどは一人暮らし。女性が6割強を占める。

職業で圧倒的に多いのは医療従事者。特に夜勤があるような総合病院で働いている方が多いです。仕事のストレスで片づける心の余裕がないのでは。人の生死にかかわる現場にずっといるのですから」(佐々木さん、以下同)

 仕事はプロとして完璧にこなしているものの、家に帰ってコンビニで買ってきたごはんを食べたあと、ゴミをゴミ箱に捨てるのさえ面倒できないほど疲労していて、そのまま放置してしまう……それを日々、繰り返すことがゴミ屋敷化の第一歩となってしまうケースを多くみてきた。

『片づけが苦手』というのとは、ちょっと違う感じ。気持ちの落ち込みや人間関係のトラブルなど、わずかなつまずきがきっかけとなり、自分も気がつかないうちに普通の生活ができなくなっているんです。

 依頼者宅に伺う前に『ゴミの高さはどのぐらいまでありますか』と聞くと、『ひざまでの高さぐらいです』とおっしゃるんですが、その後、送られてきた写真を見ると胸の高さまであることも

 依頼者は「自分の家のゴミの現状を把握すらできていない」のも共通点だという。ゴミは少しずつ溜まっていき、それがいつしか見慣れた風景に。まるで長年ある家電か家具のように、違和感を覚えなくなってしまうのだ。

溜め込むタイプは大きく5つ

 ゴミ屋敷のゴミも住人によって、さまざまな特徴がある。

一番多いのがコンビニなどの生活ゴミが大半を占めるタイプ。私は『コンビニ系』と呼んでいます(笑)。趣味のものを溜め込む『倉庫系』、通販の段ボールといった梱包ゴミが多い『通販系』というタイプも

 ゴミの中から「同じものがたくさん出てくる」はゴミ屋敷あるあるだ。例えば、なくすと困るからといってハサミを複数買っている。佐々木さんたちがゴミを片づけると、大量のハサミがいたるところから見つかる。

ある男子学生の部屋では大量のモバイルバッテリーを発見。壁面のコンセントがゴミに覆われて見えないため、スマホの充電をモバイルバッテリーで行っていたんですね。それも買ってはゴミに埋もれてなくす……をくり返していたんです

 日ごろ、何も考えず複数買いをしがちな人はゴミ屋敷化の傾向があるのかもしれない。

高齢者に多いのが、まだ使えると溜め込む『もったいない系』。周りにおすそ分けするためにとっておいたジャム用の瓶やタッパーなど……そういう方は捨てられないので片づけが難しい。最近は子どもが親の家に手を焼き、片づけ依頼をしてくるケースも多いです」

 大多数は佐々木さんたちが掃除を済ませ、片づけの方法などを教えると、リバウンドせずにそのままキープできるという。

わが社ではなるべくご本人に作業に立ち会ってもらいます。起きてしまったことは仕方ないけれど、どうしてゴミ屋敷化してしまったのか直視してもらいたいから。すると、部屋をきれいにしたことで気持ちが変わり、生活もリセットできるようです」

80代の一人暮らしの男性宅。ゴミで足の踏み場がない

 ゴミ屋敷の住人が片づけ依頼をするきっかけは、引っ越しや人が訪ねてくる、マンションの点検など。

「引っ越しシーズンの春は依頼が一番多いですね。点検は口実ということもあり、『ゴミ屋敷になっているかも』という噂を心配したマンション管理会社が点検という名目で部屋に立ち入りを求めるケースもあります」

ゴミ屋敷住人の共通点

 ゴミ屋敷住人の性格的な共通点としては「内向的」。

「誰かが部屋に遊びに来るならその前に、片づけようかなって思いますよね。でも人とのつながりが薄く、孤立している人は部屋を片づけるそのきっかけがない。

 だからコロナ以降はなおさら、ゴミ屋敷化しやすい。同業者とも話すのですが、ゴミ屋敷の片づけ依頼が多いのは東京や京都。大阪は人口の割に少ない傾向です」

 コミュニケーションが豊かで、周りに心配な人がいればつい『おせっかい』を……そんな大阪人気質が影響しているからだろうか。

 数多くのゴミ屋敷住人に接してきた佐々木さんが、「ゴミ屋敷化を防ぐ」ための有効な手立てを1つあげてくれた。

朝は必ずカーテンを開けることを習慣にしましょう。できれば窓も。ゴミ屋敷のお宅は年中閉め切っていますから。

 たとえひとり暮らしで一日だれかと話すことがなくても、外出する機会がなくても、家のなかのオンとオフをカーテンひとつで切り替える。気持ちをリセットするきっかけを持つ習慣が大切だと思います」