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 長引くコロナ禍で、すべてにおいて不安を抱えた若者たちが増えています。彼らは東洋一の繁華街・歌舞伎町になんらかの形で集まり、うごめいて―。そんな若者たちの心理と実態は?ホストクラブ経営者に直撃。

 緊急事態宣言やまん延防止等重点措置は解除されたものの、いまだ収息が見えない新型コロナの世界的大流行。だが、飲食店の利用が限られたなか、日本一の繁華街・歌舞伎町の夜は、解除前から活気づいていたという。繁華街事情に詳しい飲食店コンサルタントの岳野めぐみさんは、現在の歌舞伎町についてこう語る。

「昨年は多くの飲食店が店じまいをしましたが、最近は新規オープンする店が増えています。これまでと違うのは、経営サイドに本業がある点。IT関連の事業を本業にしつつ、別事業で歌舞伎町に飲食店を持つケースもあります」

 そうした店では、事前に会員権を売りさばき、ある程度の集客を見込んだうえでオープンする“商売上手な店”が多い、と岳野さん。

「今の歌舞伎町では、おいしさだけで飲食店を経営するのはかなり難しい。これまでとは違うカタチではありますが、にぎわいが戻りつつあります」

 歌舞伎町の飲食業に小さな希望が灯る一方、行き場のない若者であふれ、危険な状況にあるともいう。

「この夏、TOHOシネマズ横に集まって路上飲みやライブ配信をしたりしている“トー横キッズ”が話題になっていましたが、緊急事態宣言中は彼らが気軽に入れる飲食店も、ライブハウスもやっていなかったので、路上にいるしかなかった。これからも、犯罪防止のためにも、感染症対策をしたフリースペースなどを設けて居場所対策が必要だと思います」

 夜の繁華街は、事件に巻き込まれるリスクも高い。対策が急務だ。

お金ではないホストの目標

 歌舞伎町を代表する文化のひとつ“ホストクラブ”にも、コロナによる変化の波が押し寄せている。

「僕がホストになったころに比べて、大学生のホストがとても増えています。うちのお店のキャストも15人中4人が大学生です」

 そう話すのは、歌舞伎町のホストクラブALPHABETの代表を務める森永ここあさん。キャストの年齢層も10代後半~20代前半が多く、若年化しているという。

「やっぱり、コロナの影響が大きいですね。居酒屋などの飲食系アルバイトの求人がなかったり、授業がオンラインなので学業とホストが両立しやすくなったりと、学生でもホストがしやすい状況になっています。

 うちの店に限った話ではないのですが、いわゆるいい大学に通っている子も多い。慶應や早稲田、医大生もよく聞きますね。学生ではありませんが、昼はダンス講師をしている副業ホストもいて、働き方が多様化していますね

 3年ほど前から働く側の意識が変化し、コロナ禍で一気に加速した、と森永さん。彼らの多くが“バイト感覚”でホストクラブの門を叩くという。

「10年前までは多額の借金を背負っていたり、家庭環境が複雑だったり、切羽詰まっているホストが多くいました。僕自身も母子家庭だったり、普通に就職してからも貧乏を経験してきたので“お金を稼いで楽な暮らしをしたい”というのが、志望動機だったんです。

 でも最近は、基本的にお金に困っているという話はあまり聞きません。志望動機を聞くと『友達をつくりたい』『女の子としゃべりたい』と答える子が多いんですよね

 求人広告の内容も「とにかくお金が稼げる」と打ち出すよりも「友達がつくれる」など、和気あいあいとした雰囲気を醸し出すと、希望者が多く集まる。「よくも悪くも“仲のよさ”が、現代のホストの特徴」と、森永さんは分析する。

彼らの根底には“気軽に有名人気分を味わいたい”という承認欲求があるように感じます。とりあえずの目標は、都内を走るホストクラブのラッピングバスに自分の顔写真が載ること、という子も多いですね。そういった形で顔が広まれば、SNSのフォロワーが増えたり、街で女の子に声をかけられたりして、注目してもらえるのがうれしいと」

 最近はメディアで活躍するROLANDをはじめ、YouTuberとして名が知られているホストが増え、ホストクラブは華やかなイメージだけを持たれている、と森永さん。そのため、就職先としても、いわゆる昼の職業より、ホストを続けることを選ぶ学生も増えているという。

「2000年代の第一次ホストブームでは、スーツを着込んで派手なコールをして、毎晩大量のお酒を飲むのがホストの仕事でした。

 でも、うちのキャストはスーツも着ないし、髪型もキメキメじゃない。街にいる大学生と同じ服装で接客しています。もちろんお店によって傾向は違いますが、今のホストはギラギラしていなくて、フワフワしている子が大半ですね

もやし1袋に1000万円

 そして、彼らに会いに来る女性たちも、以前とはまったく客層が異なるという。

「昔は30代以上の女性が中心でしたが、今は10代後半から20代前半がメイン。彼女たちはパパ活で稼いだり、風俗で働いたりしてホストクラブに来てくれます。変な男に引っかかるよりはお店側の管理もあるからと、風俗で働いていることを親が黙認しているという子もいて、時代の変化を感じていますね」

 男女ともに夜の仕事に対する心理的ハードルが下がっているようだ。また、かつては自分のホストをナンバーワンにするために高級酒を注文し続けるのがホスト遊びだったが、その“遊び方”も大きく変化しているという。

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シャンパンをオーダーしても『推し(担当ホスト)に身体を壊してほしくない』と言って、開栓せずに持ち帰る子も珍しくないです。ほかにも、担当に自分のテーブルにい続けてほしいからと、ソフトドリンク1缶などに300万~400万円払ったりする子もいます。もやし1袋に1000万円支払われた、という話も。

 
彼女たちは“担当とただ一緒に過ごす時間”のために投資をしているんです」

 彼女たちにとってホストクラブは、お気に入りのホストをナンバーワンにする場所というよりも、好きな人と素敵な時間を共有する場所なのだ。

 こうした傾向から、令和のホストとその客たちには、ある共通点を感じる、と森永さんは語る。

どちらもコミュニケーションに飢えているんですよね。お客さんは『自分に共感してほしい』と思っていて、キャストは『誰かに認めてほしい』と思っている。

 
飲んで盛り上げることよりも、丁寧にお客さんの話を聞くのが僕らの現在の仕事ともいえるのに、コミュニケーションが苦手なキャストもいるので女の子の希望が叶えられないケースも増えています。昔は顔がよければ売れるとか、話術に長けていればのし上がれるなど、わかりやすい理由で売り上げがアップしました。でも最近は、容姿や話術は重視されなくなっていますね」

 キャストはスキルアップをしたいところ。しかし森永さんは「それがいちばん難しい」と話す。

「まず彼らに“欲”がないので、お金が儲かるというだけではやる気が出ません。運営側が彼らのやる気スイッチを見つけてあげて、モチベーションを維持しなければならない。

 昔は『3か月で成果が出せなければクビ』という世界でしたが、今は半年~1年かけて育てるようになりました。もちろん、怒鳴るのもご法度。僕も含めて、キャストの指導方法を模索している経営者はとても多いと思います」

 トー横キッズに、大学生ホスト……。歌舞伎町はコロナ禍の混沌を映す鏡になっているのかもしれない。

 森永ここあさん ●1994年、山口県生まれ。歌舞伎町ホストクラブALPHABET代表。元美容師でホスト歴は7年。4年前から経営者としての道を歩みだす。週末にガンダムのプラモデルを作るのが趣味。

 岳野めぐみさん ●縁多代表。上級SNSエキスパート(一般社団法人SNSエキスパート協会)、コミュニケーション認定講座1級。銀座で女将を経験し、歌舞伎町PRを経てSNSマーケティングで起業。SNS支援実績は300社。

〈取材・文/大貫未来(清談社)〉