2021年9月、韓国アイドルグループBTSがアメリカ・ニューヨークの国連本部で開かれた国連総会に出席した。普段は国連やSDGsにさほど興味のない人も含め、子どもたちを含む多くの人が、テレビやネットでこのニュースに釘付けになったのではないのだろうか。同時に配信されたプロモーションビデオでは、国連を背にした彼らが流暢な英語で楽曲を歌っており、BTSがアジア圏を抜け出し世界で活躍するアーティストであることが顕著に垣間見えた。
英語の授業が「嫌い」な生徒は約3割
国際化社会において「英語を話せること」がビジネスやさまざまな場面において、子どもたちの可能性を広げることは明らかである。英語上級者となればその半数以上が年収1000万円以上というデータも存在するくらいだ。日本でも「学校教育において国家戦略として取り組むべき課題」として外国語教育が挙げられており、「英語を話せる人材をいかに育てるか」はもはや国策と言っても過言ではない。
しかしながら、学習指導要領が改訂されたのも束の間、昨今のコロナ禍においては授業のオンライン化や言語活動の制限などが重なり、学校教育現場は混乱を極めている。
このような状況の中、小学校英語教員に向けた勉強会も頻繁に開催されている。その中でワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(以下、IBS)が主催する勉強会では、小学校3年生から6年生までの400人を対象にした英語に関するアンケートの最新データが提示されたのでご紹介しよう。
結果を見ると、各学年とも英語の授業が「嫌い」という生徒が3割程度いることがわかる。ここで注目したいのは低学年の段階から「嫌い」が3割をこえることだ。新学習指導要領に定められているとおり、小学校3・4年生では英語は「教科」ではなく「外国語活動」として位置づけられており、英語を「聞いたり」「話したり」慣れ親しむことを目的にしている。
それにも関わらず、慣れ親しむ段階で3割もの児童がすでに英語の授業を嫌いと言っているのだ。しかも、学年が上がるにつれ一向に「嫌い」の割合が減ることもない。つまり、一度「英語嫌い」となると、学年が上がっても「嫌い」のままである可能性が高いのではないだろうか。
さらに「英語の授業が嫌い」と答えた児童にその理由を尋ねると「覚えにくい」「わからない」「アルファベット」「むずかしい」というワードが目立つ。従来のABCにはじまるアルファベットの読み書きに子どもたちが苦手意識を持っているということだ。
では、どうすればわが子が英語を嫌いにならず慣れ親しんでくれるのか。
英会話教室や英語教材に頼ることもできるが、その子に合った方法を見つけるまで時間がかかる。そもそも、ようやく日本語が確立される時期である小学校3年生から早急に英語を始める必要があるのか。親自身の英語力が堪能であればまだしも、そうでなければ何が正解なのか迷うことだらけだ。
そこで、前述の英語教員向け勉強会を主催したIBS研究員の本郷雅英氏に家庭における英語環境づくりのポイントを聞いた。
「世界中の約3分の2の人々は二つ以上の言語を使って生活しています。またその中には子どものころから2つ以上の言語に触れて育つ人々もたくさんおり、それぞれの言語に十分に触れる環境があれば、乳幼児でさえ母語と第二言語の両方を習得して使い分けられる能力をもっています。第二言語学習そのものが母語の発達に負の影響を及ぼすこともないと考えます。
また、お子様が英語に苦手意識を持つ理由としては、英語で何かを人に伝えることが楽しいと感じられないことにあると思われます。「楽しい」という気持ちは学習のモチベーションを維持するうえで、とても重要です。ご家庭においては少しずつでも構いませんので、お子様と一緒に英語のアニメを見たり、英語の歌をうたったり、楽しい遊びの一環として英語にふれることが大切です」
「好きなことや興味のあることを通じて英語に触れること」は一見、簡単そうに見えても、子どもの興味関心は移ろいやすく「わが子が夢中になることといえばゲームや動画ばかり」と嘆いていないだろうか。実はそのゲームや動画にこそヒントがあるのだ。
子どもが英語を好きになる親の行動3パターン
・ゲームや動画など子どもが興味を持つものを英語学習に積極的に活用する
・見せっぱなし、やらせっぱなしにせず、親が子どもの気持ちに寄り添う声掛けをする
・英語でコミュニケーションする楽しさを日常の中で生み出し、小さな成功体験をつくる
ゲームを活用して英語を学ぶ
YouTubeなどの動画配信は無料公開されている海外コンテンツも豊富でも侮れない。幼少期であれば『pepper pig』や『Blippi』など子どもにわかりやすい状況やテーマで子どもたちを英語の世界へ引き込んでくれる。子どもがもう少し大きくなればBTSのように歌って踊れるアーティストの動画であれば、英語の意味はわからなくともその歌を口ずさむことで英語の発音が身についてくる。
さらにルールが理解できる年齢になったら『マインクラフト』や『フォートナイト』といったオンラインゲームを活用して英語に慣れ親しむこともできる。子どもたちの目的はあくまで「ゲームがうまくなりたい」であって英語はそのツールでしかない。ただゲームの中で使われる英語は教科書とは違い、その状況ごとに出てくる英単語やフレーズが次々と変わってくる。子どもたちは文脈や相手の反応も含めて手探りで英語を学んでいるのだ。
ゲームや動画を活用するときに大切なのは、ゲームや動画に任せきりにするのではなく、親が積極的に声をかけることだ。「~ってどういう意味なの?」「これは何?お母さんに教えて!」など、英語が話せずとも親がゲームや動画に興味関心を示すことで、子どもはより一層好きなことに夢中になり、それが学びを深めることに繋がる。
親の介入が難しい場合は、子どもたちがゲームや動画を一方的にやるだけ、見るだけにならないようインタラクティブ(双方向)なコンテンツを活用する手もある。
最近ではオンラインゲームを教材として活用した英会話が盛況だったりする。オンライン上で英会話講師と一緒にゲームに取り組み、その場面に合わせたフレーズを講師が言い、それに合わせて子どもが英語で返答を行い共にゲームを進めていく。講師が場面に応じ、効果的なフレーズを発してくれるのでより英語でゲームを行う効果が高まる。
ゲームに抵抗があるご家庭は、科学の力やクラフトワークなどアカデミックな内容で行われるプログラムはいかがだろう。「ダヴィンチマスターズクラブ」では小学校低学年向けにすべて会話を英語で行うオールイングリッシュプログラムを採用している。「科学の力を使ってアイスクリーム作りに挑戦!」や「スライム&スーパーボールづくり」など子どもたちが喜ぶテーマを使い、身近にある化学反応について教えてくれる。
子どもたちにとって大切なのは親や近くにいる大人が寄り添い、反応することで、「英語を使ってコミュニケーションができる」という成功体験である。
この成功体験は非常に重要で、「英語を話せる先に何ができるか」を自然と子どもたちに考えさせることができる。その先に何があるかを見いだせた子どもたちが世界で活躍する真の国際人となるのではないだろうか。