「ジェームズ・ボンドは映画界の大名跡。6代目のダニエル・クレイグは歴代のボンド俳優の中で最長の15年にわたり、5作品に出演しました。本作で彼はボンドを卒業します」
そう話すのは、映画やドラマなどに詳しいライターの成田全さん。
現在公開中の映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は公開2週目で早くも動員91万人、興行収入2億9000万円を突破。全世界で大ヒットしている。
「イギリスの秘密情報部MI6に所属するジェームズ・ボンドが主人公の人気シリーズです。『007』というコードネームを持つ彼が並外れた才能と身体能力、秘密兵器を駆使して活躍するスパイアクションで、初代ボンドを演じたのはショーン・コネリーでした」(成田さん、以下同)
日本の伝統芸能「歌舞伎」との類似点
'62年公開の『007/ドクター・ノオ』から約60年、これまで6人の俳優がボンドを演じてきた。歌舞伎にも造詣が深い成田さんは“『007』シリーズは歌舞伎との共通点も多い”という。
「役名を俳優が受け継いでいくスタイルは、歌舞伎の世襲制のようなもの。007=ジェームズ・ボンドは大名跡であり、歌舞伎だと市川團十郎クラスですね」
視聴者を楽しませるガジェットがあるのも共通点のひとつ、と成田さん。
「『007』は機関銃が内蔵されたアストンマーチンや、万年筆型の盗聴器など、多彩でおしゃれなグッズが魅力的です」
一方、歌舞伎にも観客を驚かせる仕掛けがある。
「『東海道四谷怪談』で使われる早変わりの手法“戸板返し”(戸板の表裏に人形を張り付けて、ひっくり返す)や、瞬時に衣装が変わる“引き抜き”(2枚の衣装を着て、1枚を一瞬で引き抜く)など、斬新な舞台装置や演出が生み出されています」
歌舞伎では、こういったハッタリやごまかしの効いた演出のことを“外連味(
「タキシード姿でのアクションシーンや、映画の冒頭で流れるお馴染みのテーマソングなど観客が沸くお約束が盛りだくさん。『007』も、外連味たっぷりなんですよね」
最新作は、すでに全世界の興行収入が346億円を越えたダニエル版007。名実ともに最高のボンドとなった彼も、襲名直後は世間から激しいバッシングを受けていた。
「初代から5代目までのボンド俳優は身長186㎝以上でしたが、ダニエルは178㎝と少し小柄。さらに2代目のジョージ・レーゼンビー以外はキャリアのある俳優が演じましたが、彼はほぼ無名でした」
ダニエル・クレイグの1枚の写真
有名でもなければ、ハンサムでもダンディーでもない、とファンにもマスコミにも酷評されたダニエルだったが、
「ダニエル版ボンドの1作目である'06年公開の『カジノ・ロワイヤル』のワンシーン、海から水着姿のボンドが上がってくる姿がパパラッチされ、その写真が世界中を駆け巡りました。
髪が長くカリスマ性のなかったダニエルが精悍な短髪になり、しかも見事な筋肉ボディへと変貌していたんです。この写真1枚で評価がガラッと変わりました」
ヘビースモーカーだったというダニエルは、ボンド役のために禁煙。さらには食事制限やストイックなトレーニングによる肉体改造で徹底した役作りをしていた。
「全5作での激しいアクションで骨折などのケガも絶えず満身創痍でしたが、ボンド役を見事に演じきりましたね」
ボンド1作目のギャラは320万ドルだったダニエルも、最新作では2500万ドル(約27億)まで跳ね上がったという。
来春3月からブロードウェイで公開される舞台『マクベス』で主演を務めることが発表されたダニエル。“ボンド”という大名跡を下りた彼の向かう先は――。