ある日突然、片耳が聞こえなくなる「突発性難聴」片側の身体に痛み、かゆみが生じる「帯状疱疹」コロナ禍でこんな症状が増えているという。この病気、治療にタイムリミットがあるんです。放置して重症になる前に知っておきたい初期症状。
ストレスが引き金!? 【帯状疱疹】
コロナ禍で患者の急増が懸念されている2つの病気をご存じだろうか? いずれもストレスが原因。自粛生活を余儀なくされ、仕事や収入で不安を抱えている人が多い今だからこそ気をつけたい。気づいたころには手遅れの可能性もある、見過ごしたくない2つの病気に迫った。
「子どもとプールで遊んでいたら、突然おでことまぶたがこれまで経験したことがない猛烈なかゆみに襲われ、その後、赤いポツポツが左半身のあちこちに出て、顔は『四谷怪談』のお岩さん状態。
かゆみだけでなく痛みも伴うようになったので病院へ行ったところ、帯状疱疹と診断されました。そのころ会社で異動があり、慣れない仕事で忙しく、さらに子どもの学校のPTA役員にもなったので、疲れとストレスがたまっていましたね」
そう語る30代のKさん。激しいかゆみと痛み、そして恐ろしく腫れ上がった顔は今も忘れられないと言う。
「帯状疱疹は誰もが発症する可能性がある」と医師の秋津壽男先生は注意を促します。
「帯状疱疹は小児期に感染した水疱瘡のウイルスが神経節に潜み続け、身体の免疫力が下がったときに暴れだすのが原因です。皮膚に赤い点のような水疱性の湿疹が連続し、帯状になることからその名がつきました。
ちなみに歴史上の人物が何の病気で亡くなったのかを探る歴史病理学の研究者によると、お岩さんも帯状疱疹だったのではないか、という説もあるそうですよ」
発疹に加えかゆみや痛みが出る帯状疱疹、どんな初期症状があるのだろうか?
「帯状疱疹は皮膚の神経の病気なので、赤いポツポツが出る3日前くらいから、皮膚を触るとヤケド直後のようなピリピリ感があったり、その部分を押すと芯のあたりが痛いといった不快な初期症状が出ます。
また人間の身体の神経は左右に分かれているため、右半身、もしくは左半身にだけ出るのも帯状疱疹の特徴で、脇や太もも、顔などは神経の幅が広く、幅20センチほどの発疹が出るので、症状の範囲がかなり広くなります。治療をせず放っておくと、ヤケドの痕のような状態になったり、帯状疱疹後神経痛になって、何年もペインクリニックへ行くほどのつらい症状が出ることもあります。
さらに顔に出た場合、目の中にウイルスが入るとヘルペス性角膜炎を起こして角膜が壊れ、失明するケースもあります。もっと怖いのはウイルスが脊髄や脳に入って髄膜炎を起こし、身体にまひが残ったり、死に至ることもあるんです」(秋津先生)
なんとも怖い帯状疱疹、予防する術はあるのか?
「発疹が出たら、ブツブツが3つくらいまでの早い段階で病院へ行ってください。ウイルスを殺す薬(内服、点滴)があるので、早ければ早いほど効果があります。また昨年『シングリックス』というワクチンが出て、これを2回打てばかなりの確率で予防できるようになりました。
ただ保険がきかないので1回2万円、それを2回なので4万円ほどと高額なのがネックですが、身近な人が帯状疱疹で顔が腫れ上がった状態を見て接種を決める方も多いですね」(秋津先生)
帯状疱疹は免疫力が下がることが発症原因。疲れやストレスをためないことがいちばんの予防法なのだ。
「ストレスをためないためにはどうしたらよいかとよく聞かれますが、私が患者さんにいつも言っているのは完璧を目指さず『100点を目指さず、60点でいい』ということ。そして『病気のときは人のことを考えずにわがままになりなさい。不義理をしなさい』と言っています。とにかく疲れをためず、適度にサボり、ポジティブシンキングをしてください」(秋津先生)
●帯状疱疹
(1)皮膚がピリピリするなど痛みや不快感があったら注意!
(2)発疹が出たら、ブツブツが3つくらいまでの間に病院へ!
(3)ワクチンで予防する選択肢もあり。とにかく疲れやストレスをためないこと!
原因はいまだ不明! 【突発性難聴】
「朝起きたら右耳が詰まっている感じがあって、耳抜きをしても治らない。おかしいなと出勤途中にネットで調べると、どうやら突発性難聴の症状。ためしにイヤホンで右耳と左耳を聞き比べたら、やっぱり右耳がおかしい。打ち合わせをしたら、男性の声が聞こえづらい。
これは変だと思い、会社帰りに近くのクリニックへ行ったところ、やはりそうでした。治療のかいあって、今では問題なく聞こえています。私はコンサートへ行ったりなど音楽を聴くのが大好きなので、本当に早く行ってよかった」
そう語るのは40代のHさん。一方30代のAさんもHさんと似た不調に悩まされていたが症状を放置したため、今も左耳が聞こえづらい状態のままだそう。「おかしいなと思ったときにすぐに行けばよかった」と悔しさをにじませる。
「突発と名前がついているとおり、昨夜までなんともなかったのに朝になったら片方の耳が聞こえなくなっていた、という方が多い病気です。原因はストレスや疲れではないか、耳の奥にある音を聞く蝸牛という器官の細胞が炎症を起こすからではないかなどといわれていますが、今の段階では不明です」(秋津先生)
原因不明なので予防法もなし。片耳がおかしいなと思ったら、選択肢は「すぐ病院へ」のみ!
帯状疱疹と突発性難聴は一刻を争う病気
「突発性難聴は、症状に気づいてから3日以内、遅くとも1週間のうちに治療を開始しないと、聴力がそのまま失われることがあります。治療をすると3分の1の人は元どおりになりますが、3分の1は前に比べて聴力が落ち、残り3分の1がまったく聞こえなくなってしまうといわれます。
厄介なのは、耳は2つあるので、突然聞こえなくなっても気がつかない人もいるんです。なので『おかしい』と思ったら携帯電話を右耳と左耳交互に当て、音が聞こえるか試してみてください。片耳を手で押さえただけでは音が回り込んで聞こえる場合があるので、この方法がおすすめです」(秋津先生)
初期症状には「耳鳴り」「聞こえにくい(高音から低音まで聞こえなくなる音の高さは人それぞれ)」「耳が詰まった感じ(耳閉感)」だそう。もし耳鼻科が近くにない場合は、内科などがある病院であれば薬で応急処置してくれる場合もある。
「突発性難聴は誰でもなる可能性がありますから、とにかく早く気づくことが大事。余談ですが、片目が見えていないまま過ごしている人も多いんですよ。なので毎朝起きたら『右目OK、左目OK、右耳OK、左耳OK、はい、じゃあ今日も頑張りましょう!』と、目と耳を個別にチェックしてください。
帯状疱疹も突発性難聴も、救急車を呼ぶ病気ではないけれど、『おかしいな』と思ったらすぐ、夜なら翌朝一番で、仕事を休んででも病院へ行ってください」(秋津先生)
コロナ禍で病院へ行くのをためらってしまう人も多いが、帯状疱疹と突発性難聴は一刻を争う病気。もしこんな症状が出たら、何をおいても病院へGO!
●突発性難聴
(1)突然片耳だけ聞こえづらい、詰まった感じ、耳鳴りがあればすぐに病院へ!
(2)症状が出たら3日以内、遅くとも1週間以内に病院へ!
(3)予防法はなし! 両耳が聞こえるかどうか毎朝チェック!
帯状疱疹や突発性難聴を患った芸能人
◆突発性難聴
●完治した人
・相田翔子(51)
26歳のころに発症。相田はメニエール病も発症したことがあり、完治したという
●残念ながら……症状が残ってしまった人
・堂本剛(KinKi Kids)(42)
'17年に左耳に発症。「完全に治ることはない」とファンにコンサートで告白した
・浜崎あゆみ(43)
'00年に左耳に発症。コンサートツアーを延期したものの完治に至ってはいないという
・藤あや子(60)
'10年に左耳に発症。仕事をすべてキャンセルし治療に専念した
・大友康平(65)
'12年に発症。手術をしたというが症状は改善されていないという
◆帯状疱疹
●完治した人
・薬丸裕英(55)
今年に入り発症。左目の上部、下部の痛みがきっかけで早期に気づいたという
・道重さゆみ(32)
'14年に発症。背中と腹に赤いブチブチができたと報告。休養し完治したという
●残念ながら……症状が残ってしまった人
・中森明菜(56)
'10年に発症。この病気がきっかけとなり無期限活動休止に入った
・ハイヒールモモコ(57)
'18年に発症。あごがピリピリしたことで気づいたという。3年たった今も症状は続いている
総合内科専門医。和歌山県立医科大学卒。品川・戸越銀座に秋津医院を開業、地域密着の診療を行っている。『主治医が見つかる診療所』(TXN系)にレギュラー出演中。著書に『放っておくとこわい症状大全―早期発見しないと後悔する病気のサインだけ集めました』(ダイヤモンド社)などがある。
《取材・文/成田全》