橋幸夫(78)は「20世紀の氷川きよし」である。若い人はぴんとこないかもしれないが『潮来笠』でデビューしたときは、ロカビリーヘアと股旅演歌の意外性が話題になった。その40年後、氷川が茶髪と股旅演歌のギャップで成功するわけだ。
また、氷川が近年、ビジュアル系のサウンドで人気を得ているように、橋も『恋のメキシカン・ロック』などのリズム歌謡でブームをつくった。歌の多様性においても、両者は似ているのである。
橋幸夫の引退発表で感じた「生涯現役感」
そんな橋が引退を発表した。ただし、その時期は再来年の5月。80歳の誕生日で区切りをつけるという。会見では、
「もう筋力としてかなり衰えが来てました、来ております」
として「40代50代までの歌の馬力とそれから声帯の艶と、そういうものがこのまま維持できにくくなる、っていうことを実感した」と理由を説明。そう聞くと弱気だが、これから全国160か所をめぐるラストツアーを行い、歌手引退後は「時代劇をやりたい」と意欲も見せた。
それゆえ、これは“閉店セール”で盛り上げつつ、芸能人としての「生涯現役」を貫くための戦略なのではという見方が。たしかに、この人は一筋縄ではいかない。よい意味での商魂もたくましいのだ。
ザ・ぼんちにものまねをされたときには、それを自らパロディーにしたCMで話題に。ディスコブームが起きれば『股旅'78』で『マツケンサンバII』がヒットしたら『盆ダンス』でと、便乗にも前向きだ。
それを可能にしたのは、なんでも歌謡曲にしてしまえるコンビニエンスな才能。クラシック出身の淡谷のり子さんには“歌屋”と呼ばれ、こき下ろされたが、橋は史上最強の歌謡曲歌手でもあるのだ。
橋幸夫の金銭トラブルと組織票疑惑
ただ、商魂がたくましすぎたのか、金銭トラブルにも巻き込まれた。佐川急便の会長と仲がよかったことから、その出資で設立されたレコード会社・リバスター音産の副社長に就任。しかし、1984年にデビューしたアイドルグループ『セイントフォー』の所属事務所と、このリバスター音産がもめてしまう。
事務所側が橋を横領で訴えると会見したのだ。橋はこのグループのメンバーとも1、2回しか会っておらず、いわばお飾り的重役だったが、敵視されたことに激怒。これをメディアが面白おかしく書き立てた。
ちなみに、リバスターについては佐川急便の裏金工作のための会社だという報道もされた。やがて、政界を揺るがした汚職スキャンダル・東京佐川急便事件により、解散してしまう。
本業では、2005年の『スキウタ』騒動というのもあった。「紅白」が実施したアンケートで橋の曲が上位にランクされたものの、組織票疑惑がささやかれ、結局落選。橋は「もう2度と出ない」とコメントした。
そのかわり、最近は夢グループと連携してコンサートをやっている。素人っぽいCMで絶好調のあの通販会社と組んだのだ。
そして何より、橋の元気を世に知らしめたのが'18年の再婚だ。その2か月前に、同世代の妻と熟年離婚をしたと思ったら、50代の年下女性と2度目の結婚。今回の引退宣言も、このパターンなのではと勘ぐってしまう。
すなわち、枯れたと見せかけて、健在ぶりをアピールするという戦略だ。実際、このラストツアーが大人気となれば、来年の紅白だって夢ではない。歌手引退後に時代劇、という話にしても、主題歌のオファーがあれば、そのときの調子次第で引き受けそうな気もするのだ。