「作っちゃったよ、マイナンバーカード。だってね、今もう3人に1人が持ってるって言うから」(佐々木蔵之介)
「そろそろ私もマイナンバーカード……」(田中みな実)
総務省は現在、『マイナンバーカード普及促進キャンペーン』として多数のCMを打っている。普及してほしいモノのはずなのに、普及しそうにないネガティブなワードを連想させる『マイナちゃん』なるキャラクターを使い、《え?まだ?》《そろそろ、あなたもマイナンバーカード》と訴求している。
「詐欺と同じやり口では?」
CMには、冒頭の佐々木蔵之介や田中みな実、そして黒柳徹子が起用されている。黒柳のテレビCMは、楽屋と見られる部屋で男性(かつて『ザ・ベストテン』で司会として共演していた久米宏ふう)と向き合いマイナンバーカードについて話すというもの。
「マイナンバーカード? もちろん作りましたよ」
「あなた、デジタル苦手だもんね。そういう人こそ作ったほうがいんじゃない? だって便利なのよ」
「(スマホを見せながら、自身もデジタルに疎いことを示すように)あなたこれ、わかる?」
同様にラジオCMでは、
「私、よくわからないんですけど、これ(マイナンバーカード)作ったら日本のデジタル化に乗り遅れないですむって言われたんで作りました」
新聞広告では、
「デジタルとか、よくわからないじゃない。そういう人こそ早く作ったほうがいいのよ」
そう黒柳はCM中に話している。これらについてネットでは……。
《いま、ラジオCMで黒○徹子さんが「よくわからないけど、デジタルの時代が来ているから、私みたいな年寄もマイナンバーカード作ったほうがいい」って内容を言ってたよ。それさあ、完全に詐欺師というか情弱の売り文句と同じなんですよ。。。》
《「よくわかってない人ほど作った方がいい」は詐欺の手口にもありがちな文句な気もするから、ちょっと不安になる…(マイナンバーカードのCM)》
《黒柳徹子さんのマイナンバーカードのCMが詐欺に騙されている人っぽくなっていてぞわぞわしたり。マイナンバーカードについての詐欺メールとかが乗っかりやすそうでもあり》
《ラジオで詐欺への注意喚起CMの後に流れた、マイナンバーカード推進広報がまんま詐欺被害者。還付金と云われてATMに来た人やん…》
「わからないけど作ったほうがいい」と、88歳という後期高齢者にあたる黒柳にこのようなセリフを言わせるCMに、不安や疑問、批判の声が寄せられている。
総務省が出した回答
'15年より始まったマイナンバー制度。ネットの声にあるように、事実マイナンバー(カード)関連の詐欺は多発しており、被害報告を含め、国民生活センターには数多くの相談が寄せられている。
【事例1】行政機関を名乗り、還付金の支払いにマイナンバーカードが必要との不審な電話があった
【事例2】漏えいした個人情報を削除するので、マイナンバーを教えるようにという不審な電話があった
【事例3】「訴訟履歴がマイナンバーへ登録されます」という内容の不審なメールが届いた
【事例4】「マイナンバーのカードは届いているか」と訪問があり1万円を支払ってしまった
【事例5】行政機関を名乗り、「マイナンバー制度が始まると手続きが面倒になるので、至急、振込先の口座番号を教えてほしい」との口座番号を取得しようとする不審な電話
【事例6】行政機関の職員を名乗り、「マイナンバー制度の導入に伴い、個人情報を調査中である」と、資産などの情報を聞き出そうとする女性の来訪
いずれも60代以上の高齢者から国民生活センターに寄せられた相談だ。マイナンバーの通知や利用手続きなどで、国や自治体、公的機関の職員が家族構成、資産や年金・保険の状況、口座番号を電話やメールで聞くことはなく、国民生活センターは注意を呼びかけている。
そもそもCMを作っている総務省自体が、ホームページにて《マイナンバー制度に便乗した不正な勧誘や個人情報の取得にご注意ください!》と呼びかけ、特設の窓口も設けている。
このような状況にも関わらず、「よくわからないけど作ったほうがいい」とは、いかがなものか……。
黒柳のマイナンバーカードのCMに、このような声があることをどう捉えているか、総務省に問い合わせると、以下の回答があった。
「マイナンバーカードは、オンラインでも安全・確実に本人確認を行える、極めて高い認証強度を持ったデジタル社会の基盤となるツールであることから、関係省庁とも連携しながら、その普及に取り組んでいるところです。広報を行うに当たっては、テレビCMに加え、雑誌などさまざまな媒体を活用し、利便性や安全性等について情報発信を行っております。
黒柳徹子さんのCMにつきましては、幅広い世代がマイナンバーカードを認知するきっかけとなり、関心持っていただくことで、他の媒体を通じ利便性や安全性等についても知っていただきたいという意図で作成しております。
いただきましたご意見を参考にしながら、引き続き、マイナンバーカードの利便性や安全性等について国民の皆様にご理解いただけるよう努力するとともに、丁寧な周知・広報に努めてまいります」(総務省住民制度課マイナンバー制度支援室)
くり返された「利便性や安全性」。はたしてこのCMでそれは伝わったのか。“デジタルが苦手”な人に「オンラインでも安全・確実」「極めて高い認証強度」は説明されたのか。
そして、そもそもマイナンバーカードは、「よくわからなくても作るべき」ものなのか。確実に、“言われたままに”作るべきものではないだろう……。