東京都議選の選挙運動期間中に無免許運転で人身事故を起こして書類送検された木下富美子・東京都議会議員に対する批判が強まっています。
都議会はこれまで木下都議に対する2度の辞職勧告を決議し、さらに説明を求める召喚状を送付しました。しかし、木下都議は体調不良を理由に応じていません。そのため、都議会は、10月14日に木下都議に対して考えを直接、説明することを求める召喚状(期限は11月25日)を再び送付しています。
木下都議は再選以降、体調不良などを理由に公の場に姿を見せていません。ここで、木下都議問題に関する一連の流れについて整理してみます。
7月2日 板橋区内で無免許運転をし乗用車に衝突し逃走。男女2人に軽傷を負わせる。
7月4日 都議選で再選される。
7月5日 選挙期間中の無免許事故が明るみに出る。
7月6日 都民ファーストの会から除名処分。1人会派「SDGs東京」を立ち上げる。
7月23日 都議会が辞職勧告決議を全会一致で可決。
9月17日 警視庁が自動車運転処罰法違反と道交法違反の疑いで書類送検。
9月28日 2度目の辞職勧告決議が都議会で可決。
10月4日 都議会が召喚状を送付。
10月13日 召喚状に応じず。
10月14日 都議会が2度目の召喚状を送付。
木下都議は自身のホームページにおいて、7月8日付、9月28日付にそれぞれ「都民の皆様へ」と題した文書を公開。今回の交通事故を起こしたことを認め、反省の弁を述べるとともに議員歳費、進退、体調などについて自身の考えや状況を説明しています。現時点において辞職する考えは表明していません。
無免許運転で人身事故を起こせば法定刑が加重
ただ、木下都議が無免許運転で人身事故を起こしてしまったことはかなり重いと言わざるをえません。
無免許運転は2013年の道路交通法改正により、罰則が強化されました。また、2013年に自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(通称、自動車運転死傷行為処罰法)が新設。自動車運転死傷行為処罰法6条では、人身事故を起こした運転者が無免許であったときは法定刑が加重されます。
木下都議が一般人であればここまでの批判は浴びないかもしれません。しかし、誰よりも法令順守が求められる公職の立場においてはあまりに軽率すぎる行動でしたし、反省の弁を述べるだけで有権者の納得を得られることは難しい状況に見えます。
都議会による木下都議への召喚状の送付は除名に向けた動きとの報道があります。これは、地方自治法135条に基づき、強制力のある懲罰「除名」を適用することの意味だと考えられます。
<地方議会における除名>
「除名は懲罰の一種であり(地方自治法第135条第1項)、その動議を議題とするには議員の定数の8分の1以上の者の発議によらなければならない(地方自治法第135条第2項)」
議員の3分の2以上が出席した本会議で、4分の3以上が賛成すると除名は成立し、木下都議は失職します。一方、木下都議の行為が地方自治法における「懲罰」に当たるかは議論の余地がありそうです。なぜなら議会の除名処分はあくまで本会議や委員会での問題行動が対象になるためです。今回の無免許事故は議会における直接的な活動ではないため、地方自治法第135条第2項のルールが適用されないという法的判断がありえるためです。
さらに、木下都議は体調不良で診断書を提出しています。あるテレビ番組を見ていたら一部のコメンテーターが「都議会が指定した場所で診断書をもらえばいい」というコメントをしていましたが、体調不良で移動困難と主張されたら強制することはできません。また、提出済みの診断書に疑いの目を向けることは、センシティブにもなりかねないという問題をはらみます。
簡単に辞めさせることができない
小池百合子・都知事は、議会から召喚状が届くことの意味を訴えて、辞職するよう求めました。しかし、本人が拒否する場合、辞めさせる手段はありません。リコール(解職請求)に関しても、当選後1年を経過しないと実施できないのです。
活動をしていない期間に支払われる議員報酬や政務活動費に批判が強まりますが、木下都議は、「議会欠席期間中の『議員歳費』は受け取るべきではないとの考えです」「しかしながら、公職選挙法により『議員歳費の返納』ができないため、公の活動への『寄付』に充てるなど、しかるべき対応をとって参りたい」との考えを自身のホームページで公表しています。
ただ、寄付の事実を有権者が簡単に確認するすべはありません。木下都議に支払われる報酬は以下の通りです。
・議員報酬81万7600円
・政務活動費50万円
・3カ月で395万2800円が支払い済
・12月には、ボーナスとして204万5022円が支払い見込み
議員報酬は議員としての立場を失わない限り発生し続けます。政務活動費は会派「SDGs東京」の活動に対して支払われます。会派「SDGs東京」の結成の経緯などについて東京都議会に確認したところ、東京都議会議会局管理部総務課からは以下のような趣旨の回答がありました。
「議員が会派を結成する場合は、議長に会派結成届を提出することで結成されます。複数人いる会派の所属でなくなった場合には、一人会派を立ち上げるルールになっているのでそれに倣ったということになります。議員報酬も政務活動費に関しても正規の手続きを経ているので止めることはできません」
報酬引き下げに口をつぐむ政治家
ここで、国会議員に目を向けてみましょう。日本国憲法下において、これまでに国会本会議における逮捕許諾に関する決議が議運で可決された例は20例、本会議で採決された例は18例、許諾例は16例あります。ただ、逮捕されただけでは議員資格を失うことはありません。
また、本会議で議員辞職勧告決議が採決されたことは6例あり、うち5例が可決されましたが、いずれも「辞職拒否」となっています。過去の辞任勧告決議案は可決されても全員が「辞任拒否」をしています。民意で選ばれた政治家は簡単に辞めさせることができません。
それでも、よく耳にするのが国会議員の歳費を減らせ(報酬を減らせ)という意見です。実際はどうなのでしょうか。政治家自らの処遇に関わる問題ですから、なかなか踏み込みません。議員が自らの首をしめるような公約には賛同できないのです。
また、国会法では「議員は一般職の国家公務員の最高の給与額(地域手当等の手当を除く)より少なくない歳費を受ける」と規定されています(国会法第35条)。
国家公務員の最高位といえば、事務次官を思い浮かべる人が多いでしょう。国会議員の報酬はその給与を下回ることはできません。つまり、勝手に下げることができないことが明示されているのです。
次の衆議院選挙の投開票が10月31日に行われます。いまの政治をどのように評価するのか、1人ひとりが真剣に考えなければいけません。選挙は、私たち有権者が社会や政治へ参加するよい機会になります。
尾藤 克之(びとう かつゆき)Katsuyuki Bito
コラムニスト、明治大学客員研究員
東京都出身。議員秘書、大手コンサルティングファームで、経営・事業開発支援、組織人事問題に関する業務に従事、IT系上場企業などの役員を経て現職。現在は障害者支援団体のアスカ王国(橋本久美子会長/橋本龍太郎元首相夫人)を運営しライフワークとしている。NHK、民放のTV出演、協力多数。コラムニストとしても、「JBpress」朝日新聞「telling,」「オトナンサー」「アゴラ」「J-CASTニュース」で執筆中。『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)、『即効! 成果が上がる 文章の技術』(明日香出版社)など著書多数。埼玉大学大学院博士課程前期修了。経営学修士、経済学修士。明治大学サービス創新研究所研究員。