行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は、さまざまな事情からPTSDを発症してしまった女性たちのケースを紹介します。

※写真はイメージです

 10月1日、宮内庁が秋篠宮ご夫妻の長女の眞子さんについて「複雑性PTSD」であると公表し、物議を醸したのは記憶に新しいです。厚生労働省のホームページによるとPTSDとは《とても怖い思いをした記憶が整理されず、そのことが何度も思い出されて、当時に戻ったように感じ続ける病気》です。

 婚約者である小室圭さんが9月27日に帰国し、10月18日に秋篠宮ご夫妻へ挨拶、そして20日に眞子さんが宮中三殿に参拝し、結婚を報告。26日には婚姻届を提出され、小室さんと会見に臨まれました。1つ1つの出来事が報じられるたびに、お二人の結婚についての賛否両論が再燃する状況です。

 筆者は男女問題専門家として婚活、浮気、離婚などを手広く扱っており、相談しに来るのは恋人、夫婦、そして不倫同士などの男女です。開業17年の中で相談者が「PTSDです」と打ち明けてくれたケースは一定数、存在しますが、やはり「よほどの事情」がある場合です。今回は該当する相談の中からトラウマの中身が中絶、DV、 (夫の)不倫のケースを紹介しましょう。PTSDを発症するほどの事情とは何なのでしょうか?

初めて会った男性に“やり逃げ”されて

 まず1人目は中絶という重い十字架を背負った明菜(仮名・36歳)さん。

「今でもトラウマに苦しんでいます。不安な気持ちに押しつぶされそうで吐き気がするんです。(事件から3か月後に)異変を感じて病院に行ったらPTSDとの診断でした。『あの男』のせいです!」

 明菜さんはそうやって怒りを露わにします。筆者が明菜さんの相談を受けたのは2年前のこと。そして2年という月日が経っても、まだ当時の記憶に悩まされているようです。

 明菜さんの被害は2つあります。まず1つ目は“やり逃げ”。「友人を介して初めて会った彼です」と振り返りますが、その彼から何度も食事に誘われ、断っていたけれど、とうとう断り切れなくなり、食事に付き合ったときのこと。「結構、お酒には強いほうなんですが……」と苦笑いしますが、二人きりで緊張していたのでしょうか。いつもより早く、酔いが回り、足元がおぼつかずに千鳥足に。

 男性が「きちんと家まで送っていくよ」と言うのでタクシーに乗り込んだのですが、実際に着いたのは明菜さんではなく男性の家。男性が明菜さんをベッドに寝かせると身体を引き寄せ、キスをしてきたので「やめてください!」と抵抗したのですが、「応じなかったら一部始終を共通の友人に言いふらす」という意味で、「エッチさせてくれたら誰にも言わないから」と脅してきたのです。泥酔状態の明菜さんが逃げ出すのは無理。そのままストッキングと下着を下げられ、手を入れてきたそうです。

 結局、意識が朦朧とするなか、男性にされるがまま。上着は来たまま、最後(姦淫行為)までさせられたのです。隙を見計らって玄関から脱出することができたのは、男性が眠りについた後。当日は急いで逃げ帰ったので男性宅の建物名を確認する余裕はありません。また消したい記憶なので居酒屋からの道順を思い出すこともできない状況でした。

「どういうことなの!?」明菜さんは翌朝、LINEで怒ったのですが、男性は「俺たち、付き合っているんだからいいだろ?」の一点張り。そのうち、「知らない! やってない! 全く身に覚えがない!」と逆ギレし始めたのです。

 そして明菜さんは話にならない男性に見切りをつけ、警察へ相談しに行ったのは1か月後。当日のショックがあまりにも大きすぎて一歩を踏み出すのに時間がかかったのでした。しかし、明菜さんの勇気ある行動は徒労に終わりました。警察で加害者の名前を尋ねられたとき「わかりません」と答えるしかなかったそう。なぜなら、男性とのつながりはLINEだけ。しかもLINEの表示名はニックネームで、本名ではなかったからです。

 さらに「どこでですか?」という質問に「周辺の景色は覚えているんですが」と返したところ、「それだけじゃね」と一蹴。挙句の果てには「話を盛っているでしょ?」と疑われたので明菜さんは「もういいです!」とあきらめたのです。これでは男性との間で「被害届を取り下げる代わりに慰謝料を払って!」という駆け引きを行うことはできません。

 明菜さんは恥を承知で共通の知人に打ち明けたところ、「忘れたほうがいい」と慰めにならない言葉をかけられたそう。最終的には「断り切れなかった私も悪いから」と気持ちの整理をし、すべてを忘れることに決めたところ、さらなる災難が襲ってきたのです。

望まない妊娠に中絶を決意

「たった1回でするなんて……」明菜さんは愕然としますが、追い打ちをかけたのは妊娠の事実でした。男に襲われた日以降、胸の張りと急な吐き気に悩まされ、そして予定どおりに生理がこないので「おかしい」と疑ったものの、疑念を持つたびに不安感が最高潮に達します。明菜さんが筆者を頼ってきたのはなかなか妊娠検査薬の使用に踏み切れずにいたときでした。「あのときの後遺症なのかも!? 妊娠であってほしくない!」と。

 そこで筆者は「万が一、陽性の場合、何もせずに放置するほうが危険ですよ」とアドバイス。被害に遭った日から2か月後、背に腹は変えられずに検査薬を使ったところ、灰色だった疑問は黒色だと判明したのです。これは男性が避妊せずに行為に及んだことを意味します。明菜さんのお腹の中にいるのは望まざる性交渉の結果、授かった子ども。本来、妊娠は喜ばしいものですが、明菜さんの心は悲しみで埋め尽くされていました。犯した男の子どもを出産する。明菜さんの中にそのような選択肢は存在しませんでした。「堕ろす」の一択だったのです。

 本来、手術の同意書には子の母親(明菜さん)だけでなく、父親も署名をしなければなりませんが、現在、男性は明菜さんの電話を着信拒否、メールを受信拒否、LINEをブロックし、音信不通の状態。「あなたにも半分の責任があるんだから書いてよね」と頼める術がありませんでした。

 そのため、明菜さんは筆跡を変え、父親の欄には男性の仮名、仮住所を代筆で署名。その同意書を手にし、付き添いもなく、たった1人で病院へ向かったのですが、妊娠の診断を受けたのと同じ病院で2週間後、中絶の手術を受ける様は悲惨としか言いようがありません。結局、明菜さんがひとり被害を受け、男性に何の責任もとらせず、泣き寝入りするしかなかったのです。

「相手が何もなかったように過ごしていると思うと……悲しいです。あれから2年。時間が解決してくれると日々、忘れるように過ごしてきましたが、いつの間にか人を避けるような生活になっていました」

 被害の影響でほとんど食べ物、飲み物を口にできず、まともに眠れない日々を送り、すっかりやせ細ってしまったため、心療内科を受診すると冒頭の通り、PTSDと診断されたのです。明菜さんは当時、正社員で働いていた会社を退職。新卒で就職した職場を去るのは苦渋の決断だったようですが、投薬の副作用で毎朝、起床し、出勤することができなくなったので仕方がなかったようです。実家に戻った現在も自傷行為の衝動によって身動きが取れない日があるので、働くことも含め、社会復帰するのは時間がかかりそうです。

夫のDVに「殺される!」妻は離婚を決意したが

 次に2人目は夫からのDVで人生を狂わされた美冬さん(仮名・39歳)。

「1か月間、何をしていても涙が止まらなかったんです。変だなと思い、地元のメンタルクリニックで診てもらったんです。強いストレスによる自己防衛でしょうと。PTSDの反応で起こる症状だと言われました。『恐怖』を忘れるために今でも出された薬を飲み続けています」

 美冬さんは3年前の悪夢を回顧してくれました。母親に付き添われ、実家近くの診療内科を受診したのですが、彼女の身に何があったのでしょうか? 彼女は当時、夫、そして12歳の息子さんと一緒に暮らしていました。

 美冬さんいわく、事件のあった日、泥酔した夫が帰宅したのは家族が夕食を済ませたころ。酒の勢いで「全部、お前らのせいだ! わかってるんだろうな!!」と怒鳴りつけてきたのです。美冬さんは帰宅に合わせ、夫の分の食事をテーブルに並べていたのですが、夫はその料理を皿ごと投げ捨て、美冬さんに向かってグラスを投げつけ、さらにキッチンカウンターに置かれた台所用品をはたき落としたそう。

 息子さんが美冬さんの悲鳴を聞いたのは自分の部屋。急いで部屋を出て、リビングに向かうと夫に向かって「絶対に許さないからな!」と言い放ったのです。しかし、夫は実の息子に対しても一切容赦せず、「てめー! 何様のつもりだ!!」「くそ野郎が生んだ子供はくそ野郎だ」「(学費を)自分で払って自分で行きゃいいじゃないか! ええ!!」と吐き捨てたそうです。

 美冬さんは夫の怒りが鎮まるまで息子さんの部屋で待機したのですが、震える手でスマートフォンを操作し、夫の罵声をボイスメモで録音しておいたそう。そして夫が寝静まると、破壊された家財や家電、家具などを写真に撮るなど、「何かのとき」のために手を打っておいたのです。

このままじゃ殺される! と思って家を出てきました!! 主人はお酒を飲むと暴力を振るうので、今回ばかりは警察に相談したんです。そして刑事さんの勧めもあって実家に戻ってきました。このまま離婚したいんですが、どうしたらいいでしょうか?》

 筆者は相談窓口としてLINEのIDを公開しているのですが、これは3年前に美冬さんが筆者へ送ってきたLINEの内容です。夫の暴力に耐えかね、息子さんを連れ、親元に戻ったのですが、別居から3か月後、実家からLINEで助けを求めたのです。

 しかし、夫が家族に手を上げて怪我をさせたのは今回が初めてではなく、すでに4回目。そして過去2回は病院へ行き、診察を受け、そして診断書を発行してもらったそうです。第三者である医師が記入した診断書が美冬さんの手元にあります。なぜ1、2回目のDVで離婚を決断せず、4回も我慢を続けたのでしょうか?

 実は息子さんがちょうど中学受験に臨むタイミングで、8年間、住み慣れた家、使い慣れた部屋、そして住み慣れた地域で受験勉強に集中させたかったからです。しかし、夫のせいでこの有様。過去3回の標的は美冬さんだけでしたが、今回は息子さんにも被害が及んだのです。お世辞にも勉強に適した環境ではありません。ここに至っては自宅に残るほうが受験に悪影響でしょう。

 美冬さんがマイホームを捨てる決断をしたのは息子さんを守るためです。筆者へLINEを送ってきたのは薬が合い、調子が戻り、元気が出てきたときでした。筆者は「これだけ証拠があるのなら」と背中を押したのですが、これは早とちりでした。美冬さんは夫に対してこうLINEを送ったのです。《あなたのことは見限りました。もう戻るつもりはありません。別れてください》と。まさか1通のLINEが裏目に出るとは……。

 美冬さんの懇願に対して夫が「はい、そうですか」と応じるはずがありません。夫は離婚の可否について答えることなく、「お前は母親失格だ!」と責め立てたのです。事件の当日、夫が息子さんに対して暴言を吐き、暴力を振るっている間、美冬さんは息子さんの部屋に逃げ込みました。夫は「母親なら身をていして守るだろ! “殴るなら私を殴りなさいよ”くらい言えねぇのか!」と言うのです。責任を転嫁すべく「母親なのに子どもをかばおうとしなかったほうが悪い」と論点を替えてきたそう。

 しかし、美冬さんが被害に遭ったのはこれで4回目。過去の暴力を思い出し、思わず逃避行動に走り、そして身動きがとれなくなっても無理はありませんし、加害者である夫が言うべき言葉ではありません。しかし残念ながら、美冬さんには「どの口で言うのか」と反論する余裕はありませんでした。夫からLINEが届くたびに拒絶反応──胸が痛み、息が苦しく、目が回りそうになり、寝込んでしまうように。

 美冬さんは十分な証拠を揃えていながら、離婚の話を中止せざるをえませんでした。結局、息子さんは受験を断念し、実家の学区の公立中学へ入学。今だに離婚は成立しておらず、美冬さんが働くこともままならず、夫からの仕送りもないため、両親におんぶにだっこの状態が続いているようです。美冬さんが離婚交渉に耐え得るほど心身ともに回復するには、なおも時間がかかりそうです。

妻の妊娠中にもかかわらず夫が不倫

 そして3人目は夫の不倫という悪夢に震える涼子さん(仮名・38歳)。

「話せば長いんですが……」と前置きし、「PTSDに似た症状に悩んでいます。『そのこと』を思い出すと吐き気を催してしまいます」と苦しい胸の内を教えてくれた涼子さん。彼女が筆者の事務所へ電話をかけてきたのはコロナ真っただ中の1年前。彼女はどんなトラブルに巻き込まれたのでしょうか?

 緊急事態宣言中、涼子さんの夫の勤務先は電車ではなく車通勤を推奨していたそうです。しかし、宣言が解除されても夫は車通勤を継続。これは女性とドライブデートをするためだったのです。デート後にホテルで情事に及び、宿泊せず、日付が変わる前に帰宅。涼子さんは「手慣れた感じがします」と嘆きますが、これは涼子さんが興信所に依頼したから判明した事実です。興信所は夫の車にGPSを設置。そして駐車したホテルのフロントで待ち伏せすると……夫が女性を連れて入室し、3時間後に車へ戻る写真を入手。

 しかし、不倫中も夫婦の間に性生活があり、夫はベッドの上で涼子さんのことを十分に愛してくれていたので、1回目の不倫は見て見ぬふりをしたのですが、すぐに2回目の不倫が露見したのです。夫はパソコンにスマホのバックアップをとっているのですが、涼子さんがそのパソコンにログインしたところ、動画が表示されたそう。場所は宣言中で誰もいない浜辺。波音をBGMに女性の腰から尻に手を回したり、頬にキスをしたり、互いの頭をくっつけたりする姿を夫が自ら撮影したようです。

 さすがの涼子さんも今回は黙認できず、「私という存在がいながら、こんな女に手を出すなんて!」と問い詰めたのですが、夫は「たまたま近くに簡単に身体の関係を持てそうな相手がいたんだ。彼女は僕に妻がいることを知っているし、いつまでも続くとは思わず、軽い気持ちだった」と懺悔したのです。

 涼子さんは夫に「彼女と2人で会わせてほしい」と頼み、直接会ったところ、女性は「そろそろ終わりにしてって頼んだばかり」と口にしたので、復縁はないと判断しました。涼子さんは夫を許したのですが、これはすべて猿芝居。前もって夫と女性は話を擦り合わせ、どのように言い逃れを図るのかを決めていたのです。

 3回目の不倫が発覚したのは涼子さんの妊娠中でした。夫はスマホを2台持ちしているのですが、涼子さんが筆者に「主人が誤って仕事用を自宅に持ち帰るんです」と相談してきたので、「仕事用は緊急時に備え、ロックしていないことも多いですよ」と助言。案の定、自由に閲覧可能な状態になっていました。

 涼子さんが見たLINEには例の女性からの「愛している」「早く一緒になりたいね」「世界で一番大事な人」など甘い言葉のオンパレード。涼子さんは「私に知られないよう仕事用を使うなんて!」と激怒しましたが、夫はまだ抵抗したのです。「それは半年前のだよ? 今はもう恋人じゃないよ。一時的に盛り上がっただけだ。お前が信じようが信じまいが」と逆ギレ。筆者の助言も虚しく、懲りない夫は女遊びをやめることはありませんでした。

 それから1年。久々に涼子さんから筆者へ連絡がありました。当時、胎児だった子どもを無事、出産したのですが、「主人への怒りが子どもへ向かってしまいそうです」と言います。産まれてきた子どもは夫にそっくり。そのため、心の底から可愛がることができず、ふとした瞬間に子どもの顔が夫に見えたとき、胸が痛く、息が苦しく、そのまま倒れてしまいそうな衝動にかられるそうです。

 ただでさえ初めての育児に悪戦苦闘しているなか、動悸や息切れ、頭痛などの症状に悩まされ、苦しい日々を送っているそう。いっそのこと離婚し、子どもを夫に押し付けることができればいいのですが、子育てを何も手伝わず、涼子さんにワンオペを強いる夫が親権を望むとは思えません。涼子さんが育てるしかありませんが、現在、金銭的には何不自由ない生活を送っています。

 無理に離婚し、少々の養育費に甘んじるより、このまま結婚生活を続けたほうが安定していますし、それしか選択肢がないのが現状です。不倫をする夫への嫌悪感、そんな夫の子どもを愛せない罪悪感、夫の経済力に頼るしかない無力感、そして夫の不倫を大目に見るしかない絶望感が今でも涼子さんを苦しめているのです。

 ここまでPTSDの症状に苦しむ3人の女性相談者を紹介してきました。彼女のたちの希望は男に慰謝料等の責任をとらせること、離婚するように夫を説得すること、そして夫に不倫をやめさせることです。しかし、これらの交渉事には多大なストレスが生じ、巨大なプレッシャーに苛まれ、心身のバランスを崩す恐れがあるので、まずはきちんと症状を治すことが先決です。筆者は彼女たちの快癒を願うばかりですが、長い年月が必要でしょうから、今後も引き続き、見守りたいと思います。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/