来年から、75歳以上の医療費負担が1割から2割になる。窓口で払うお金がこれまでの2倍になるのだから、大きな違いだ。
医療費は今後ますます増える
値上げのいちばんの理由は、2025年に団塊の世代全員が75歳以上の後期高齢者になることで起こる、医療費の急激な増加。少子高齢化が進む今、一定以上の収入がある後期高齢者にも医療費を負担してもらうことは避けられない。
「しかし、今後は高齢者ではなく、現役世代の医療費増額も十分考えられます」と医療費に詳しいファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんは言う。
現在、後期高齢者の医療費は、その4割を現役世代が支払う保険料で支えている。今後、後期高齢者の医療費がさらに増えれば、現役世代にも増額という形でさらなる負担がのしかかってくる可能性がある。
これからますます家計を圧迫しそうな医療費を、できるだけ抑えるにはどうしたらいいのだろうか。
「医療費を節約したいなら、まずは予防が大切です。病気になってから医療費を払うよりも、運動や健診などの予防にお金を使うほうが合理的です」(黒田さん、以下同)
病気にならない身体づくりで予防に努めるのは大前提。ただ、このほかにも医療費を抑える方法がある。
病院代と薬代は安くできる
病院や薬局で払う代金を高いなと思っても、窓口で請求されるまま払っている人が多いと思う。でも、実はこのお金、工夫次第で安くすることができる。
例えば、どの病院に何時に行くかで、同じ病気でもかかる金額が変わってくる。また、薬局に行くときの持ち物や、支払う方法でも金額は違う。さらに、医療費の申告でお金が戻る制度を利用するという手もある。
値上げする前に知っておきたい医療費の節約術。財布の負担をしっかりと軽くしよう。
※本記事に記載されている金額は3割負担(70歳未満と現役並みの所得のある70歳以上)の場合のものです。
病院にかかる費用を節約!
《病院で5000円節約》知らぬ間に高額な特別料金をとられる!
『いきなり大病院に行かない』
軽い風邪や小さなケガでも、何となく大きな病院に行ったほうが安心だと思っていないだろうか。でも、いきなりベッド数400床以上の大病院に行くと、初診料のほかに保険適用外の特別料金がかかってしまうのだ。
その額なんと5000円以上。軽い症状で大きな病院に行く患者が増えると本来行うべき重症患者の治療などが滞ってしまうため、それを防ぐ対策だ。
「医療費を節約したいなら大きな病院ではなく、まずは近所のかかりつけ医に行きましょう」
設備の整った大病院での治療が必要だと判断されれば、紹介状を書いてもらえる。紹介状があれば特別料金は支払わなくてすむ。
大病院に行って長時間待たされたあげく、5000円もとられたのでは大損だ。病院は賢く使い分けよう。
《病院で1440円節約》「平日昼間」以外は高くつく!
『22時以降や日祝は病院や薬局に行かない』
急病でもないのに都合がいいからと、夜間や休日に病院にかかることを“コンビニ受診”という。気軽に行く人がいるが、これらの受診には特別料金が加算される。
例えば深夜の初診なら、平日昼間だと約860円のところが1440円増の約2300円に。2.5倍以上の金額を払うことになるのだ。さらに薬局でも、1.4~2倍の別料金がかかる。
夜間や休日の医療は救急のためにあるものと考え、病院にはできるだけ日中にかかるようにしたい。
「ただし、急を要する場合は無理せず受診を。判断に迷ったら、救急安心センター事業(#7119)などに相談もできます」
◆深夜、休日の受診にはこんなにお金がかかる!
深夜(22〜6時)
初診料 1440円アップ!
再診料 1260円アップ!
休日(日曜・祝日・年末年始)
初診料 750円アップ!
再診料 570円アップ!
《病院で1290円節約》初診料と検査料を何度もとられる!
『“はしご受診”はしない』
同じ病気やケガで、複数の病院を渡り歩く“はしご受診”。自分に都合のいい診断結果を求めて、新たな病院を受診し続けるのは、金銭的にも身体的にもデメリットが大きい。
通常1回目の診察では初診料がかかり、2回目以降は初診料の約4分の1の再診料ですむ。その差額は645円。はしご受診をすると毎回その金額を余計に払うことになり、例えば3回なら差額は1290円になる。
「はしご受診をすると、前の病院と同じような検査を繰り返し受けることになり、医療費の無駄につながります。薬も重複しがちなので、身体への負担も心配です」
勘違いされがちだが、はしご受診はセカンドオピニオンとはまったくの別物。セカンドオピニオンを利用したいときは、主治医にその旨を伝え、紹介状や検査結果を提供してもらおう。紹介状には保険が適用され1500円で作成してもらえる。セカンドオピニオンでは同じような検査や薬の処方が繰り返されることがないため、はしご受診と比べてグンと安くなる。
薬にかかる費用を節約!
《薬局で80円節約》薬局選びで値段が変わる!
『“門前薬局”を利用する』
「薬代は全国一律ですが、薬局で払うお金は薬局の立地や規模によって違いがあります。おすすめは病院のそばにあるいわゆる門前薬局。中でも処方箋を多く扱うチェーン店を選ぶといいですよ」
門前薬局は近くの病院でどんな薬が出されるかを把握しているので、処方される薬がそろっているのも強みだ。
薬局で払う調剤基本料は、地域貢献度などの加算があるので一概にはいえないが、主に大手チェーン店の門前薬局なら約50~60円、個人経営の門前薬局は約80円、病院から離れた場所にある個人経営の薬局は約130円と差がある。しっかり選びたい。
◆薬局代は「病院から離れる」と基本料金が高くなる!
病院の近くの薬局:50~80円
病院から離れている薬局:130円
《薬局で40円節約》薬の記録とチリツモ節約を同時に!
『お薬手帳を持っていく』
いつ、どこで、どんな薬を処方してもらったかを記録する「お薬手帳」。処方薬を受け取るときに持参しなかった場合、40円高くなってしまうので要注意。
「お薬手帳はアプリもあります。紙の手帳はうっかり忘れてしまいがちという人は、そちらを利用してみるとよいですよ」
提示するだけで始められる、手軽なチリツモ節約だ。
《薬局で5~8割減》安いジェネリックをちょっとだけ試す
『「お試し調剤」を使ってみる』
先発医薬品の2~5割という価格の安さが魅力のジェネリック医薬品。でも、いきなりすべてを切り替えるのは心配という人は、短期間だけ試せる「お試し調剤」を利用する手も。
「例えば1週間分だけ試してみることができます。ジェネリックが合えば、残りの分も同じものに変更してもらえますよ。変更には50円かかりますが、これでジェネリックに切り替えられれば、その後の薬代を安く抑えられます」
気になる人はぜひ!
病院・薬局両方で使える節約テク
《病院で、薬局で720円節約》自分で管理ができるうちは節約ポイント!
『薬の“おまとめ”をやめる』
例えば朝・昼・夜に飲む数種類の薬を、1回分ごとにまとめてくれる「一包化」や、複数の塗り薬を混ぜて1つにしてくれる「混合処方」。飲み忘れや塗り忘れを防ぐ便利なサービスだが、実はこれにもお金がかかる。
「例えば、飲み薬が43日分以上出ている場合、一包化すると薬代とは別に720円かかります。高齢の方で、薬の管理が大変な場合は必要ですが、自分で管理ができるうちは削れるお金です」
必要ないと思ったら、診察のときに医師に伝えるか、薬剤師に相談してみよう。
◆薬のおまとめはこんなにお金がかかる!
《飲み薬》例)43日分の薬を一包化した場合:薬代+720円
《塗り薬》例)2種類の軟膏を混ぜた場合:薬代+240円
《病院で、薬局でポイントゲット》使い方次第でさらにお得に!
『クレジットカードで支払う』
最近、クレジットカードで支払いができる病院や薬局が増えている。クレジットカードのポイントも貯まるので、普段から支払いに使っている人なら、カード払いがおすすめ。また、さらにポイントをためる“裏ワザ”もあるという。
「本来、医療費が高額になる場合は、事前に申請すると一定額の支払いのみですみます。でも、あえて全額カードで支払い、あとから申請することで、医療費の払い戻しとより多くのポイントをダブルで受け取る、という人もいます」
工夫次第でもらえるポイントも増える。ぜひ賢く使いたい。
自治体や国への申請でお金が戻る!
《申請で最大200万円が対象》市販薬や通院時の交通費も対象!
『医療費控除を申請する』
入院などで、年間の医療費が高額になった場合に、お金が戻ってくる制度。家族全員の医療費を合算して10万円を超えると申告でき、最高で200万円が控除の対象になる。200万円控除した場合、平均的な年収の会社員なら、約20万円ほどが戻ってくることが多い。
対象になるのは医療費、市販の医薬品代、通院や入院のための交通費、公共交通機関での移動が困難なときのタクシー代と、意外と幅広い。
「医療費控除は確定申告をした人が対象です。会社員の場合は個別に申告しましょう。夫婦共働きの場合は、収入の高い人が申告したほうがより税金が安くなり、戻るお金が多くなるのでお得ですよ」
以前は申告時に領収書が必要だったが、2018年から撤廃に。現在はオンライン申請もできるようになり、グッと手軽になった。
《申請で薬代が15%減》市販薬で税金が戻ってくる特例!
『「ドラッグストアで買った薬」で節税する』
ドラッグストアなどで購入できる特定の市販薬を1万2000円以上購入すると、年間の所得から最大8万8000円まで控除されるのが「セルフメディケーション税制」。医療費控除よりも金額のハードルが低いのが特徴。医療費控除との重複はできないので、控除額を計算したうえでどちらか有利なほうで申請したい。
対象となる薬は2500種以上あり、新型コロナウイルスワクチンの副反応にも使える解熱鎮痛薬なども含まれている。薬の種類は厚労省のHPで確認できる。
「この制度は健康診断などをきちんと受けている人が対象なので、ご注意を」
◆対象になる主な薬
解熱鎮痛薬……「ロキソニンS」「イブクイック頭痛薬DX」
胃腸薬……「ガスター10」「ブスコパンA錠」
鎮咳去痰剤……「龍角散せき止め錠」
アレルギー専用鼻炎薬……「アレグラFX」
虫さされ薬……「ウナコーワエースG」
など全2505種
親の医療費も賢く節約
親の医療費と介護費を同時に節約できるワザがあります。
「高額医療・高額介護合算療養費制度」は、1年間の医療費と介護費の自己負担が高額になってしまった場合に、世帯ごとにそれらを合算。収入によって定められた金額を超えるとお金が戻ってくる制度です。
例えば、親がどちらも70歳以上で、年金収入が80万円以下の場合、年間19万円を超えた分のお金が戻ってくることになります。
似た名称の制度で、医療費と介護サービス費をそれぞれ別に申請する「高額療養費制度」と「高額介護サービス費制度」がありますが、これらは1か月ごとの申請。月単位で適用にならなかった分を年単位で合算して申請できます。高額になりがちな親世代の医療費と介護費を節約できる、家計にうれしい制度です。(黒田さん)
(取材・文/後藤るつ子)