1パック12ロール入りが主流だったトイレットペーパーに今、変化が起こっている。巻きが長く芯なしのタイプが主流となり、1パックあたり4個入りや6個入りが目立つように。また、2枚重ねどころか3枚重ねのもの、環境に配慮した竹素材のタイプも登場。進化を続けるトイレットペーパーの今と未来を探る。
いずれは東京タワー333m超え!?
長く続いた緊急事態宣言下で、人知れず小さな進化を遂げていた生活必需品がある。トイレットペーパーだ。
経済産業省統計をもとに算出したデータでは、トイレットペーパーの2020年の年間消費量は国民1人あたり8.66kgで、過去5年のあいだに0.54kgほど増加。特にこの1~2年はコロナ禍に伴う在宅勤務や外出自粛で、家庭でのトイレットペーパーの使用機会も多くなっている。
このような背景を受け、スーパーやドラッグストアなどのトイレットペーパー売り場にも変化が起こった。これまで主流だった12ロール入りの商品が減少し、4~8ロール入りの「長巻き」タイプの商品が棚を占めるようになったのだ。通常1ロールあたりに巻かれている紙の長さはシングルで50m~60mほどだが、長巻きタイプは従来品に比べて1・5倍~3倍以上と、各メーカーの技術革新によってロング化が進んでいる。
「コロナ禍で在宅時間が長く、トイレットペーパーの使用量が増えたことで買い物の回数を減らし、まとめ買いをする人が多くなっています」
そう教えてくれたのは、丸富製紙マーケティング本部の棚瀬久貴さん。同社は国内でも最長級の300mを巻きつけた『ペンギン 超ロング なが〜くなが〜く使える 6倍巻き』(2ロール入り 428円/価格は税込み、編集部調べ、以下同)という驚きの商品を開発するなど、トイレットペーパーの長巻き化を牽引(けんいん)し続けるパイオニア的存在だ。
「弊社では40年ほど前に再生紙の芯なしタイプとして130mシングルを開発しました。当時は65mシングルといった商品がスタンダードでしたが、その約2倍の長さを1ロールに巻きつけた画期的な商品です」(棚瀬さん)
公共施設などの業務用途のほか、全国の生協を通じて一般家庭にもじわじわとシェアを拡大してきたが、長巻きの認知度が格段に上がったのはここ最近になってからだ。
「高密度でコンパクトなので一度に多く運べて輸送効率もよく、輸送にかかるCO2の削減に高い効果が認められるようになりました。弊社も4倍、5倍、6倍とさらなる長巻き商品の開発に力を入れているので、いずれは東京タワー333m超えの超ロングタイプも商品化できるかもしれませんね」(棚瀬さん)
芳香剤いらずの香りつき、大ヒットのトリプル
巻きの長さ以外でもトイレットペーパーは進化を続けている。丸富製紙は長巻きのほか、美しい柄つき商品や、香りつきの商品も取りそろえている。同社マーケティング本部の加藤貴美さんに、香りのトレンドを教えてもらった。
「最近はジャスミンの香りや緑茶の香りが人気です。トイレ特有のアンモニア臭と相性のいい香気成分が配合されていて、ただ香るだけではなく、消臭効果も併せ持つといった特徴があるんですよ」
トイレットペーパーのおかげで芳香剤いらずになるのなら一石二鳥だ。
香りやプリントつきの製品は人体に影響はない?
「香り成分はペーパーの芯の部分についているので、直接肌に触れることはありません。香料や着色の顔料も安全性が証明されたものを使用しているため、安心してお使いいただけます」(加藤さん)
市場に先駆けてダブルタイプのトイレットペーパーを開発したのも丸富製紙だという。シングルはコスパの高さから、ダブルは質感や拭き取り効果の高さからそれぞれ人気を二分してきた。しかし近年コアな人気を集めているのが、第三勢力「トリプル」だ。
望月製紙が発売している『うさぎ』(2ロール入りギフトボックス 1375円)は上質なパルプの使用と3枚重ねというこだわり抜いた製法が特徴の商品。34か月連続完売で、現在は同社のECサイトで3590人の販売待ちが出るほどの大ヒット商品だ。
8ロールで1万1000円!
さらに同社は最高級トイレットペーパー『羽美翔(はねびしょう)』も販売している。化粧箱入りの8ロールで1万1000円と破格の価格設定。皇室献上品としての実績もあり、贈答品として購入する人が多い。どちらも市場の低コスト競争とは真逆の方向の進化だが、販売個数は20万ロールを突破したそう。
「価格帯は一般的な製品の10倍~20倍以上ですが、その理由は原料と製造工程へのこだわりです。質のよい北米の純粋パルプと、河川水質ランキングで1位に選ばれた高知県仁淀(によど)川の水を製造工程で使用しています。日々変わる気温と湿度に合わせて微妙な調整を繰り返し、時間をかけて丁寧に製造しております」
そう語るのは、望月製紙代表取締役の森澤雅代さん。業界の常識とは真逆ともいえる非効率極まりない製造方法だというが、すべては究極のやわらかさのため。ちなみに同社のトイレではこの『羽美翔』と『うさぎ』を交互に使用し、微妙な品質の変化を社員が自らチェックしているそうだ。
セレブといえば、私たちにより身近なのが、スーパーなどでも市販されている『おしりセレブ』(4ロール入り 364円)かもしれない。発売当初からさらに進化し、クリーム成分や独自の保湿成分のほか、植物由来スクワランやベビーオイルを配合し、デリケートなおしりを守る人気商品だ。王子ネピア株式会社マーケティング本部の酒井亜紀さんは次のように語る。
「おかげさまで好評で、シリーズの姉妹品として『おしりセレブWET』(40枚入り 355円)というトイレに流せるおしり洗浄シートも生まれました。程よくひたひたと薬液を含んだウエットティッシュのような商品は、使用後のすっきり感がたまりません」
環境を意識した竹素材&定期便
トイレットペーパーといえば、紙の原料となるパルプや再生紙を使用したものがほとんど。ところがその素材にも新しい進化が生まれている。竹でつくったトイレットペーパーの定期便サービス『バンブーロール』(1箱18ロール入り 1800円)だ。
「竹はギネス記録もあるほどに成長の早い植物で、数年で大人の竹になります。生きている竹はCO2の吸収にも優れているため、早いサイクルで収穫、加工、また生えるというサイクルをつくることができる竹という素材の将来性に着目しました」
そう教えてくれたのは、『バンブーロール』を運営するおかえり株式会社代表取締役の松原佳代さん。竹が原料と聞くとややかたい肌触りをイメージしてしまうが、『バンブーロール』は三層構造になっており、無漂白で肌にやさしい設計だ。また、定期便という販売形態も現代ならではで、それぞれの家庭に合わせた周期で自宅に届けてくれる。
「次の配送まで使うペースや量に配慮する習慣ができ、消費の仕方の見直しと節約の意識ができたという声も多いです」(松原さん)
あらゆる方向で進化を続けるトイレットペーパー。業界の今後の展開について、丸富製紙の棚瀬さんはこう語る。
「シャワートイレ用など機能に特化したものも各社で人気ですが、海外には5枚重ねといった厚手のペーパーもあります。既存商品のアップデートはもちろん、女性やお尻に持病のある方、お年寄りや赤ちゃんも安心して使えるなど、ユーザーの細かなニーズに合わせた個性的な商品がどんどん生まれると思いますよ」
かゆいお尻にも手が届くような、トイレットペーパーのさらなる進化が楽しみだ。
(取材・文/吉信 武)
初出:週刊女性2021年11月2日号/Web版は「fumufumu news」に掲載