最近も木村拓哉や岡田准一の主演映画が相次いで公開されるなど、演技の分野でのジャニーズの活躍は目覚ましい。だが改めて考えてみると、最初から俳優を目指してジャニーズに入るタレントはあまりいないはずだ。なぜ彼らが、これほど演技の分野で成功しているのだろうか? 俳優として活躍する「俳優系ジャニーズ」の何人かに注目しつつ、その“成功の法則”を探ってみたい。
当初は「学園ドラマ」が主戦場だった
もともとジャニーズ事務所は、1960年代にオリジナルミュージカルの確立を目指して設立された。当然そこでは歌とダンス以外に演技力も必要とされ、ミュージカルを中心にした舞台でのジャニーズの活躍は、堂本光一などいまも続いている。
一方、テレビドラマや映画での活躍となると、まず思い浮かぶのが1970年代の郷ひろみである。ジャニーズ事務所に入った郷のデビューは、歌手よりも俳優が先だった。デビュー作は、NHKの大河ドラマ『新・平家物語』(1972年放送)である。
1970年代の俳優系ジャニーズとして、井上純一も忘れがたい。井上は1975年に歌手デビュー。郷ひろみの後継者として期待されたが、頭角を現したのは俳優業のほうだった。特に『ゆうひが丘の総理大臣』(日本テレビ系、1978年放送開始)など学園ドラマのちょっと哀愁を帯びた不良生徒役でブレーク、人気を集めた。
同じく学園ドラマがブレークのきっかけだったジャニーズとしては、1980年代に活躍したたのきんトリオもよく知られるところだ。田原俊彦、近藤真彦、野村義男の3人は、『3年B組金八先生』第1シリーズ(TBS系、1979年放送開始)の生徒役で人気が沸騰、たのきんトリオとして一世を風靡する存在になった。
ただこのあたりまでは、俳優でブレークと言っても学園ドラマが中心であったため、役柄も限られていた。学園ドラマの生徒役は、思春期の疑似恋愛の対象という王道アイドルのイメージに沿ったものではあるが、逆に言えば俳優としての活躍が期間限定になってしまうデメリットもあった。
その流れを大きく変えたのは、やはり1990年代のSMAPあたりからだろう。彼らも学園ドラマや映画『シュート!』(1994年公開)のような青春ものに出演しなかったわけではない。だが木村拓哉を筆頭にSMAPのメンバーたちは、学園青春ものにとどまらず幅広いジャンルの作品に出演し、俳優系ジャニーズが長く活躍するための道を拓いた。
ジャニーズ流「自然体」の演技
では、俳優系ジャニーズの成功の法則はどのあたりにあるのだろうか?
まず、演技面においては「自然体」の魅力ということが大きい。
冒頭でも述べたように、最初から俳優だけを目指してジャニーズに入るタレントはあまりいないはずだ。ジャニーズJr.のレッスンにはダンスしかない、ということが一時期話題になったが、彼らは演技の専門的レッスンを受けてデビューするわけではなかった。
しかし、かつて中居正広などは、ジャニーズタレントの演技の基礎には、そのダンスで培ったリズム感があるのではないか、と語ってもいた。ダンスで得た身体感覚が、演技における間合いやテンポのよさにつながるというわけである。それを一言で言えば、「自然体」の演技ということになるだろう。
そうした演技スタイルの魅力は、1990年代の木村拓哉や長瀬智也から始まる俳優系ジャニーズ全体にも感じられるところだ。彼らの演技には、ドラマ中のやり取りにしても、その場の相手との呼吸に応じて演技が繰り広げられるような一種のライブ感がある。
木村拓哉は、現場の空気感のなかでふと出てくるアドリブを大切にしているという趣旨の発言をしているが、それもまた自然体であることの証しだろう。長瀬智也なども、演技のなかで独特の間とリズム感を発揮して楽しませてくれるタイプであった。そこには、既成の俳優にない俳優系ジャニーズならではの魅力がある。
ただ一方で、近年は自然体とは異なる「憑依型」の俳優系ジャニーズも登場している。与えられた役柄に没入し、なりきるタイプである。
その代表格は、風間俊介だろう。『3年B組金八先生』第5シリーズ(1999年放送開始)の兼末健次郎役は、鮮烈だった。見るからに不良の生徒ではなく、表面上は完璧な優等生でありながら陰でほかの生徒を操り悪事を扇動するという複雑な役柄を演じ、凄みさえ感じさせたのが風間だった。現在は、主演も助演もこなす得がたい俳優に成長している。
風間俊介は、生田斗真とともに俳優でありながら歌手デビューしていない、いわゆる「俳優組」のひとりだ。風間と生田は、ジャニーズJr.時代Four Topsという4人組ユニットのメンバーだった。残る2人は、やはり「俳優組」である長谷川純、そしてこちらも俳優系ジャニーズの中核を担っていた山下智久であった。
彼らはみな、1990年代後半からの「ジャニーズJr.黄金期」のメンバーである。リーダー的存在だった滝沢秀明もそうであったように、この世代からは数多くの俳優系ジャニーズが生まれている。
嵐のメンバーも、同じ黄金期を支えた。なかでも二宮和也や松本潤は、現在の俳優系ジャニーズを代表する存在だ。二宮は、映画、ドラマを問わずその演技力を高く評価され、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞など数々の賞を受賞している。松本は、『99.9-刑事専門弁護士-』(TBSテレビ系、2016年放送開始)などのヒット作の主演を務め、2023年放送予定のNHK大河ドラマ『どうする家康』の主演も決定している。
ジャニーズが演じる群像劇の魅力
次に成功の条件としてあげたいのは、魅力的な群像劇との出会いである。
1990年代以降も、学園ドラマでジャニーズが注目を集めるケースは少なくない。ただし、時代も反映してか、学園ドラマの設定や役柄も昔に比べ多様化している。先述した『3年B組金八先生』の風間俊介の場合もそうだ。堂本光一と堂本剛、山田涼介などもそれに当てはまるだろう。
『ごくせん』シリーズ(日本テレビ系、2002年放送開始)の松本潤や亀梨和也などはいかにも学園ドラマらしい不良生徒役だったが、エンタメに振り切った演出もあって、その個性的な魅力が際立っていた。その後松本と亀梨がそれぞれ出演してヒットした『花より男子』(TBSテレビ系、2005年放送開始)と『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系、2005年放送。山下智久も出演)も、設定や物語にひとひねりのある学園ドラマだった。
またいまや俳優系ジャニーズを担う存在になりつつある重岡大毅も、コメディタッチの学園ドラマ『ごめんね青春!』(TBSテレビ系、2014年放送)での生徒役が注目されるきっかけのひとつだった。
この『ごめんね青春!』もそうだが、改めて振り返ると、宮藤官九郎脚本と俳優系ジャニーズの相性のよさは抜群だ。宮藤官九郎が、特に若者をメインにした群像劇が得意ということもあるのだろう。長瀬智也と山下智久が出演した『池袋ウエストゲートパーク』(TBSテレビ系、2000年放送)、岡田准一と櫻井翔が出演した『木更津キャッツアイ』(TBSテレビ系、2002年放送)、長瀬智也と岡田准一による『タイガー&ドラゴン』(TBSテレビ系、2005年放送)など、それぞれの代表作が目白押しだ。
宮藤官九郎脚本に限らず、魅力的な群像劇というのは、俳優系ジャニーズにとって成功への近道になっていると言える。
木村拓哉の名作にも「群像劇」多数
それは、木村拓哉の足跡を見てもわかる。最初に世間の注目を浴びた『あすなろ白書』(フジテレビ系、1993年放送)は大学生の群像劇、そして翌年出演した『若者のすべて』(フジテレビ系、1994年放送)も、同じ地元の若者たちを描いた群像劇だった。
また俳優・木村拓哉の人気を決定づけた『ロングバケーション』(フジテレビ系、1996年放送)も、基本は木村拓哉と山口智子の恋愛ストーリーだが、同時に竹野内豊や松たか子らが絡む群像劇でもあった。大ヒットした『HERO』(フジテレビ系、2001年放送)も、法廷物や恋愛物の要素もありながら、検察官チームの群像劇としての面白さが欠かせない要素になっていた。
付け加えると、木村拓哉の場合もそうだが、俳優系ジャニーズも長く活躍するようになるとともに、大人の群像劇に出演するケースも増えてきた。そのなかで、たとえば、『半沢直樹』(TBSテレビ系、2013年放送)に出演した中島裕翔のように、スーツ姿の役柄を演じることも増えている。
成功の条件として最後にふれたいのは、時代の後押しである。これは個人の努力とは別の次元の話になるが、それでも人気商売である俳優としての成功には必要になってくる部分でもある。
いまふれたように俳優系ジャニーズの群像劇への出演が多いのも、実は時代の雰囲気を反映した一面があるだろう。
平成以降の日本社会は、バブル崩壊以降の経済の停滞や2度もの大震災などによって、私たちの日常の拠って立つ基盤が崩れ、自ずと生きかたそのものが新たに模索される時代になった。
そのなかで、ひとりのヒーローがすべてを解決するのではなく、仲間や家族、同僚などとともに、悩みながらも前向きに生きる等身大の主人公が求められるようになる。
ひとりの俳優であると同時に、多くの場合グループの一員でもある俳優系ジャニーズは、そうした役柄にそれこそ自然体で臨むことができ、見る側からも受け入れられやすい面があったのではないだろうか。もともと俳優専業ではなくアイドルであることが、有利に働いたのである。
『ロンバケ』『俺の家の話』の共通点
たとえば、『ロングバケーション』で木村拓哉が演じた瀬名秀俊にも、ピアニストとしての挫折、そしてそこから周囲に助けられながら再生していく物語があった。また宮藤官九郎脚本による長瀬智也の最後の主演ドラマ『俺の家の話』(TBSテレビ系、2021年放送)も、プロレスラーとして挫折した息子が父親の介護をきっかけに実家に戻り、父親の能楽師の仕事を継ぐなかで再生していく物語だった。いずれにしても、彼らが演じた人物は、同じように悩みながら生きる視聴者から深い共感を得るものだった。
もちろん、本人たちの演技や作品、さらには容姿の魅力も不可欠に違いない。しかし、役柄を通じて時代とシンクロし、そのよき体現者となることもまた、俳優系ジャニーズの成功の条件に加えられるべきだろう。
太田 省一(おおた しょういち) Shoichi Ota 社会学者、文筆家
東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。それを踏まえ、現在はテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、歌番組、ドラマなどについて執筆活動を続けている。著書として『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『平成テレビジョン・スタディーズ』(青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『芸人最強社会ニッポン』(朝日新書)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)などがある。