昨年、新型コロナウイルス対策として政府が配布した布マスク。安倍晋三元首相の肝いり政策だったため、「アベノマスク」とも揶揄された。
「全国5000万世帯に2枚ずつ配る計画で、郵送費を含めると約466億円を投じられる大規模な政策でした。全戸向けに用意した200万枚のうち、カビや虫の混入などの問題事例が報告され、配布が延期されることに。配布前からすでにつまずいていたんです」(全国紙社会部記者)
「小さい」「効果に疑問」「税金の無駄使い」……。その後、全世帯に順次届けられた「アベノマスク」に対しても、国民の声は厳しかった。
政府が調達した布マスク約2億9000万枚のうち、今年3月末時点で約8200万枚が未配送のまま倉庫に眠っていることが発覚。しかも、その保管料は去年8月から今年3月までに約6億円もかかっていたことで、再び批判が集まっている。
そんな「アベノマスク」を政府から受注された企業は、興和株式会社、伊藤忠商事株式会社、株式会社マツオカコーポレーション、横井定株式会社、株式会社ユースビオ。5社は大量在庫の現状についてどう思っているのか――。
受注先5社の回答
興和《個別取引に関するご質問については回答を控えさせていただきます。》
伊藤忠商事《当社はコメントする立場にございません。》
マツオカコーポレーション《弊社としては、政府からのご要請に応じ生産し納品させて頂きましたので、その後のご活用方法について弊社が申し上げることはございません。》
横井定「納品したものに関して私どもから何かお答えすることはできません。すぐに配布というのでなくとも、マスクの保管・使用期限内に必要とされている方の手元に届いてくれたらと思います」
5社中4社がそう回答をする中、
「約2億8700万枚中8200万、3分の2は配られているんだから適正だと思いますけどね」
と回答したのは、ユースビオの担当者だ。
当時、アベマスクの受注業者を公表していなかった与党は、野党から公表するよう求められると、5社のうち3社(興和、伊藤忠商事、マツオカコーポレーション)を公表。残りの2社名を未公表としていたため、さまざまな憶測が飛び交うことに。
のちに、その2社は横井定とユースビオであることを公表する。横井定は「日本マスク」というブランドで中国やフィリピンに工場を持つマスク専門企業。一方、ユースビオは福島市にある無名の会社だった。しかもマスク事業の実績もない企業に発注されたことで、安倍政権との癒着などの疑惑をかけられたのだ。
担当者に話を聞くと
――政府からすでに入金はあったのか。
「ありましたよ、他社さんはわかりませんが」
――金額は?
「それは契約者同士のことになるので」
また“アベノマスクの在庫にユースビオのものはほとんどないはずだ”とも言う。
「みなさんが思っている四角い布マスクを“アベノマスク”というのであれば、ウチのマスクはそれじゃない。通称“アベノブリーフ”なんて呼ばれていたものですから」
ユースビオが用意したものは立体型マスクで「ブリーフマスク」と呼ばれていたため、“アベノブリーフ”と揶揄された代物だ。
「ウチのマスクは一般世帯に配る前に、介護者や妊婦さんなどに渡されたものです。そこでほとんどが配り終わっているはず」
だが、“疑惑の会社”としてマスコミに取り上げられたため、出荷停止になってしまったという。
「週刊誌やマスコミのおかげで大変でしたよ。疑惑(になるようなこと)なんて何にもなかったのに。ウチのマスクは検査にもちゃんと通過して、製品はよかったと言われたんですから」
コロナ禍でマスク事業をスタートさせたユースビオ。
「まだマスク不足だったときは、無償で5000万枚くらいをあげていましたよ。だって、みんな困ってたんだからしょうがないじゃん」
磯崎官房副長官は、保管されているアベノマスクの活用について「必要に応じて検討したい」というが……。その間も、保管料で税金が無駄遣いされ続けている。