新庄剛志(2004年)

《努力は一生 本番は一回 チャンスは一瞬 この言葉を胸に日本ハムと共に、笑顔を忘れず これから長い船旅を戦って行きます》

 10月29日、日本ハムファイターズの新監督に就任することが発表され、自身のインスタグラムに決意を綴った元プロ野球選手の新庄剛志。

「新庄さんは、日本ハムが東京から北海道に移転した2004年にニューヨーク・メッツから加入。華々しいプレーや観客を魅了するパフォーマンスで人気を博し、球団が新拠点に根づくのに大きく貢献しました」(スポーツ紙記者)

 スーパースターの凱旋に北海道は沸いているが、新庄はこれまでもアッと驚くような言動で世間をにぎわせてきた。記憶に新しいのが、昨年の“電撃復帰チャレンジ”だ。

「2006年に引退した新庄さんは2010年ごろにインドネシアのバリ島に移住しましたが、2019年にプロ野球の現役復帰を目指してトレーニングを始めると発表。昨年12月の合同トライアウトに参加した際はタイムリーヒットを打つなど世間の注目を集めましたが、各球団は獲得を見送り、最終的には復帰を断念することに」(同・スポーツ紙記者)

 復帰挑戦の際、インスタグラムで《みんな、夢はあるかい? 1%の可能性があれば、必ずできる》と語っていた新庄。野球界きってのエンターテイナーは、より大きな形で舞い戻ることとなった。

2023年に新球場へ移転する

 しかし、監督としての実績はおろか、長らく日本の野球からは離れていた。そんな彼に白羽の矢が立ったのは、どういった事情なのか。

「今季、日ハムはパ・リーグの最下位に低迷。通常であれば成績回復が最優先ですが、球団が求めたのは勝つことではなく“人気と知名度”でした。その裏には2023年に北海道の北広島市で開場予定の新球場『エスコンフィールドHOKKAIDO』の存在があります」(同・スポーツ紙記者)

 日本ハムは、ホーム球場を現在の札幌から北海道中部にある北広島市へ移転する予定となっている。

「北広島市は札幌に比べれば郊外。新千歳空港や札幌市内からは車で30分かかります。しかも、日本ハムの観客動員数はコロナ禍による影響があった昨年と今年を除いても右肩下がりなんです。近年は大谷翔平選手や斎藤佑樹選手、中田翔選手といったスターたちが球団を離れたこともあって、集客力回復が最優先の目標。チームの顔となる存在が必要でした」(同・スポーツ紙記者)

 スポーツライターの飯山満さんは、新庄のパフォーマンス力に太鼓判を押す。

「打者がコールされてからバッターボックスに入るまで球場には曲が流れますが、現役時代の新庄さんは、そのリハーサルがしたいと言ったそうです。どのあたりで素振りをして、どんなしぐさでどのタイミングでボックスに入るかを、すべて計算していたんですよ。そして、観客が彼の狙いどおりに盛り上がりを見せる。当時スタンドで見ていた球団の上層部の方々は“新庄は天才だ”と話していました」

10月29日、インスタグラムで監督就任の決意を表明。GMの稲葉篤紀氏との写真も投稿(新庄のインスタグラムより)

 “魅せる”ことにおいて、右に出るものはいなかった。しかし、そのために練習の時間を浪費していたかというと、そうではない。

「スパイダーマンや自分の顔を模した覆面をかぶりノックに参加して球場を盛り上げたこともありましたが、実はその前にしっかりと練習をすませていたんです」(飯山さん)

 パフォーマンスのみならず、野球に対する姿勢においても球団から高く評価されていた。

「日本ハムの前GMで今後も本部長を務める吉村浩さんは、実はかなり昔から新庄さんのことを高く買っていたんです。彼がメジャーリーグに挑戦した2001年、吉村さんはデトロイト・タイガースのGM補佐を務めていました。おちゃらけたイメージがあった新庄さんですが、野球に対する熱心な姿勢を吉村さんは見抜き“彼がこれから成し遂げようとしていることは、素晴らしいことです”と口にしていました」(スポーツライターの梅田香子さん)

“戦友”たちが明かす新庄の素顔

 関係者を魅了していた真摯な姿勢。彼のすごさを間近で見てきたのが、かつてのチームメートたちだ。1992年、当時阪神タイガースに所属していた新庄と2人で獅子奮迅の活躍を見せ“亀新フィーバー”を巻き起こした亀山つとむ氏が振り返る。

「目立ちたがり屋だけど守備の頭の使い方はすごくて、ポジショニングひとつでもかなり研究してましたね。普通は努力もアピールしたくなるものですが、彼は逆。“サラッとこなすのがプロだと思うんです”と言ってました。“ジーンズがはけなくなるから筋トレはしない”なんて発言もありましたが、陰ではしっかりやってましたよ(笑)」

 監督としても、いい意味で予想を裏切ってくれることを期待せずにはいられない。

演出に力を入れるでしょうし、野球でも相手の監督が予想できないようなことをしてくれるんじゃないかな。バリ島にいた彼が抜擢されること自体、そのすごさを物語っていますよね。10年以上野球から離れていた人が監督に就任するなんて、普通じゃありえませんからね」(亀山氏)

不安点は「周りがついていけるか」

岩本勉氏(左)、亀山つとむ氏

 日本ハムでともにプレーした岩本勉氏は、1年前にYouTubeで新庄と対談。監督業について語っていた。

「OB・元同僚として、監督就任はとてもうれしいです。1年前に話した際も真剣に語ることができた彼だからこそ、回ってきた話なんでしょうね」

 戦友の岩本氏は、彼がただ勢いでものを言う人間ではないことを知っている。

発想力、行動力はずば抜けてます。実行する前に徹底的な確認をするし、大胆に見えて繊細なところも。これまで数多くの偉業を有言実行して、実力を証明してきました。彼に携わった人間で、監督就任に異を唱える人はいませんよ」(岩本氏、以下同)

 とはいえ、監督を務めるのは初。大役だけに責任も重い。

「もちろんプレッシャーはあると思いますが、彼はそれすら楽しめる。不安な点を挙げるとしたら、奇想天外なところに周りがしっかりと“信念”を共有しながらついていけるか。人の意見を柔軟に取り入れられる人だから、周囲が遠慮せずものを言えるかが重要です。“誰にもできないことをやる”といつも言ってましたから、どんなことをしてくれるのか楽しみですね」

 現役時代、チームを日本一に導き人気に火をつけた新庄。監督として、再び熱狂の渦を巻き起こせるのか。