近年、患者が急増している乳がん。検査の機器や治療法も劇的に進んでいる。痛くない&被ばくゼロの検査法や遺伝子検査など、ひと昔前とは大きな差だ。コロナの影響でがん検診を受けた人が3割減ったという報告もあるなか、わずかな変化も見逃さないセルフチェック法も紹介する。
痛みナシ&被ばくゼロの最新検査登場
現在、日本で女性が発症するがんのうち、もっとも多いのが乳がん。患者数は20年前の約2.5倍に増えており、最新の統計では9人に1人がかかるといわれている。
乳がんは母乳をつくる乳腺の組織にできるがんで、40歳以上の女性は2年に1度、国の対策でマンモグラフィ(乳房X線検査)による乳がん検診が受けられる。乳房を2枚の板で挟み、できるだけ薄くのばすことが病変を見つけやすくし、かつX線の被ばくを抑えるためにも必要なのだが、圧迫される際の痛みが嫌で検診を受けたくないといった声があるのも事実だ。
そこで近年、痛みを極力抑えるなど、身体への負担が少ない検査機器や検査法が登場している。小さながんを見つける能力にすぐれたものも多い。
そのひとつが磁気と電波を利用して乳房の内部を映し出すMRI検査。乳房を挟まずX線も使わない「無痛・被ばくゼロ」の検査法だ。
「この検査の強みはマンモグラフィで病変が映りにくいデンスブレスト(高密度乳腺。乳房内の乳腺の割合が高い状態)の乳房でも病変を見つけやすいことです」と話すのは、この検査法を導入している医療法人永仁会Seeds Clinic 新宿三丁目院長の石田二郎先生。
「原則自費となりますが、医師からデンスブレストを指摘された人や過去にマンモグラフィを受けて苦痛だった人、被ばくを避けたい人が多く受けています。どんな検査であれ定期的に受け続けることが乳がんの早期発見に重要です。これなら継続できるという検査方法を選ぶのが賢明だと思います」(石田先生)
痛みのない検査はこのほかにもベッドにうつぶせになるだけで乳房全体を超音波で撮影する「リングエコー」や、がん細胞がブドウ糖を栄養として活発に動くという性質を利用し、ブドウ糖に類似した検査用の薬剤を注射後、特殊なカメラで撮影する「乳房PEM検査」などがある。
また治療の分野でも、がんの遺伝子を調べて治療薬の候補を探す「がん遺伝子パネル検査」が、2020年から一定の条件を満たす場合に保険適用になるなど、日々進化を続けている。
乳がんは早期で見つかれば5年生存率が98%以上と非常に高く、早く見つけられれば「治るがん」だともいえる。定期的な検査で早期発見・早期治療で手遅れになるのを防ぎたい。
痛くない&被ばくゼロの最新鋭検査機器「乳房MRI検査」
ドーム状の装置にうつぶせになって入り、15分程度で検査終了。検査着のまま受けられるので誰にも胸を見られずにすみ、4mm程度の小さながんも発見可能。豊胸手術などで人工物が入っている乳房も検査できる。サービス名はドゥイブス・サーチで、費用は2万2千円(税込み。Seeds Clinic 新宿三丁目の場合)。受診可能な医療機関は「無痛MRI乳がん検診(ドゥイブス・サーチ)」のサイト(https://www.dwibs-search.com/)にリスト有。
鏡で乳房もセルフチェック
乳がんは内臓にできるがんと違い、自分で見たり触ったりして気づくことができる数少ないがんのひとつだ。
「乳がんと診断された人の約半数は、何らかの自覚症状があったとの報告もあります」
と話すのは、いながき乳腺クリニック院長の稲垣麻美先生だ。
そこで近年、早期発見のために世界的に提唱されているのが「ブレスト・アウェアネス」という新たなキーワード。ブレスト=乳房、アウェアネス=意識するを意味し、「自分の乳房に関心を持ち意識して生活すること」を指す。
「定期的な検査に加えて、日々のセルフチェックを習慣にすれば早期発見の可能性は高くなるでしょう。毎日顔を鏡に映し、肌を触ってお化粧のりを確かめるように、乳房も毎日見て触ってほしいです。しこりやひきつれ、乳頭からの分泌物など、いつもはない変化があったら、検診の機会を待たずにすぐ受診を」(稲垣先生、以下同)
受診する際は病院の乳腺外科や乳腺クリニックなど、乳腺外科医のいる医療機関へ。
「ブレスト・アウェアネス」で乳がんから命を守る!
【1】日々のセルフチェック
●乳房をよく見る
入浴前に鏡の前で乳房をよく見る。その際、眼鏡やコンタクトをしている人ははずさずに。
●触って確認する
入浴中に身体を洗いながらせっけんのついた手で、指をそろえて鎖骨から乳房、わきの下までくまなく触る。手を上げるとしこりを見つけやすい。
【2】乳房に下のような変化がないか確認
●しこり
●乳頭からの分泌物
●皮膚のへこみ、ひきつれなど
●左右で大きさや形が違う
【3】変化に気づいたら、すぐ医療機関を受診
【4】定期的に乳がん検診を受診する
40歳以上の女性を対象に2年に1度実施。身内に乳がん経験者がいたり、肥満、高血糖などハイリスクの人は、自分に合った検診方法やスケジュールを医師に相談するのもおすすめ。
2年に1度の検診は必ず受けて
乳がんにはセルフチェックでは気づきにくい、奥のほうにしこりができるタイプや、しこりをつくらないタイプもある。その発見に有効とされているのが乳がん検診だ。
「日本では40歳以上の女性を対象に、2年に1度のマンモグラフィが死亡率を下げる科学的根拠のある方法として推奨されていて、各自治体で無料または安価で受けられます」
この2年に1度のマンモグラフィは命を守る最低限の検診内容だと稲垣先生は言う。
「患者さんの中には、数年前に1度検診を受けて大丈夫だったから自分はもうがんにならないと安心してしまい、それきりという人も。それでは早期発見できず手遅れになりかねません」
特に、肥満、高血糖、飲酒習慣や喫煙、身内に乳がんや卵巣がんにかかった人がいる場合は発症リスクを上げる。セルフチェックはより慎重に行い、検診も自分に合った検診内容や頻度を医師に相談することが大切だと稲垣先生は強調する。
また、コロナ禍による受診控えが乳がんに限らず問題になっており、日本対がん協会によれば令和2年はがん検診を受けた人数が前年度と比べて約30%減と大きく落ち込んだ。
「乳がん検診も昨年最初の緊急事態宣言のときには一時中止しましたが、現在は再開しています。互いにマスクをしたまま診療可能な部位なので、コロナ禍だからと遠慮せず、検診をきちんと受けてほしいし、気になることがあれば、怖がらずに受診してください」
乳がん経験者に聞く早期発見の大切さ
乳がん発症から6年、森沢優子さん(59歳・仮名)
53歳の夏、乳がん検診がきっかけで両乳房にがん発見
→同年秋に手術で両乳房全摘。その後、2種類の抗がん剤治療
→ホルモン剤を毎日服用し、3か月に1度の血液検査と半年に1度の画像検査で経過観察中
「なんで私が……やっと子どもが大きくなって、これからというときに、と頭が真っ白になりました」と話すのは、6年前に乳がんを宣告され、両乳房を全摘して、抗がん剤治療を経て現在も薬を服用中の森沢優子さん(59歳・仮名)。
「何となくしこりのようなものがあるなあと前々から思っていたんです。それで市から検診の案内がきたときに、夫からも受けたほうがいいと言われて」(森沢さん、以下同)
以前の職場などの検診では問題なしだったので、今回も大丈夫だろうと思っていたところ、要精密検査の知らせが。マンモトーム生検と呼ばれる詳しい検査を受けたところ両方の乳房にがんが見つかった。
生活は一変。慌ただしく手術の日程が決まり、検査、そして入院。
「左右とも乳頭の下あたりにがんがあり、左は別の場所にも小さながんが。右は温存可能と言われましたが、再発も怖かったので……」
結局、両乳房を全摘することにした。さらにつらかったのが抗がん剤の治療だ。
「開始2週間後に髪がごそっと。眉毛やまつげも一気に抜け落ちました」
また、足は歩けなくなるほどむくみ、爪も茶色に変色。味もわからなくなったという。ただ、森沢さんは治療に励み、現在は再発を防ぐためのホルモン剤を服用するだけですんでいる。
今、元気な身体を取り戻した森沢さんは乳がん啓発活動を行っているNPO法人「くまがやピンクリボンの会」で、月1回程度の情報交換会に参加。
「最新の治療や薬の勉強会、病院の情報交換のほか、気楽なお茶会などがあり、みな和気あいあいと明るくて、心のよりどころです」
その場でしばしば話題にのぼるのが、乳がん検診の大切さだ。
「もし検診を受けずに見つからないままだったら命はなかったかもしれません。だから、検診はきちんと受けてくださいとみなさんに言いたいです。がんが見つかったらどうしようではなくて、見つかれば治療に進めます。治療はつらい面もありましたが、私は元気になりました。ぜひ検診を、と切に願っています」
教えてくれた人……稲垣麻美先生 ●いながき乳腺クリニック院長。湘南記念病院、聖路加国際病院、三井記念病院に勤務。2019年より現職
石田二郎先生 ●医療法人永仁会理事長、Seeds Clinic 新宿三丁目院長