イラスト/幸内あけみ

 湯気のたっぷりある浴槽での深呼吸は気管の粘膜が潤って免疫力がアップするだけでなく、呼吸機能の向上効果も。適切なお湯のため方や温度など「ベストな入浴法」と健康リスクを生む「NG入浴法」を専門家がお湯より熱く語る!

お風呂の湯気で気管の免疫がアップ

 温浴効果やリラックス効果などにより、さまざまな健康効果のある入浴。その中でもお風呂の湯気に免疫力を高める効果があると話すのは、温熱療法専門医の早坂信哉先生。

東京都市大学人間科学部長・教授の早坂信哉さん

のどの奥の粘膜には、線毛細胞という細かな毛を持つ細胞があり、口から侵入する細菌やウイルスなどの異物を絡め取って体外に出す役割を担っています。でも、のどの粘膜が乾燥すると線毛細胞がうまく働かなくなり、排出機能が落ちて体内に異物が入りやすくなってしまいます。

 そこで有効なのがお風呂の湯気。のどの奥の粘膜を十分に潤すことができるため、線毛細胞が活発になり、免疫機能がアップします

 湯気が鼻腔や口腔などを刺激して唾液の分泌量が増え、唾液中のIgA抗体という免疫物質が増えるというデータもあるという

 こうした湯気の健康効果は世界的に認められており、欧米諸国では温泉の湯気を吸い込む温泉治療も盛んだ。

「湯気を吸い込むときは、深呼吸したり、歌ったりして、気管の奥までたっぷり取り込むのがコツ。水圧のかかる浴槽内でこうした動作を行うと胸腹部にある呼吸筋も鍛えられるため、呼吸機能の向上にもつながります」(早坂さん、以下同)

 浴槽にお湯をためる際、お湯が冷めないようにふたをする人も多いが、たっぷり湯気を吸い込むためには、ふたを開けて湯気を浴室内に充満させるのがポイント。

 また、ふたを開けておくことで浴室内の室温が上がり、ヒートショックの予防にもつながる。

「寒い場所からいきなり熱いお湯に入ると血圧の乱高下を招き、心臓や血管にダメージを与えるヒートショックを引き起こすおそれが。浴室内に湯気を充満させ、空気を暖めておくとショックが和らぐので、浴槽のふたはぜひ開けて」

 シャワーなどでかけ湯をしてから湯船に入ると、より安全性が高まる。

免疫アップの入浴のコツとは

「入浴そのものにも免疫アップ効果が。入浴で身体が温まると全身の血管が広がって血流が促進されます。すると、免疫細胞のリンパ球が身体の隅々まで行き渡りやすくなり、がん細胞などを攻撃するナチュラルキラー細胞が活性化されて免疫力のアップに」

 額にじっとり汗をかくくらいを目安に、湯船につかってしっかり身体を温めよう。

 また、入浴の前後にコップ1杯の水を飲んでおくと、血流がよくなり温め作用が高まるので、おすすめだという

「ほかにも自律神経の調節や代謝機能のアップ、リラックスやストレス解消を促す作用など、身体の健康に関わるさまざまな働きを高める効果もあります。免疫機能は健康であるほど正常に働くので、入浴は総合的に免疫力を高めることにつながります」

 入浴効果の持続は7〜8時間。毎日の入浴が理想だ。シャワーだけでなく、湯船に毎日つかる習慣をつけよう

「就寝する1〜2時間前がおすすめです。人は体温が下がると眠くなりますが、寝る直前にお風呂に入って体温が上がると、眠りづらくなります」

 入浴中のスマホチェックなども交感神経を刺激してリラックス効果を妨げるので要注意。

◆熱すぎるお湯は免疫を低下させる

 日本人は熱い湯を好む人が多く、それによって逆に免疫機能が低下してしまう場合があるという。

42度以上のお湯に入ると交感神経が優位になるので、身体が緊張して血圧が上がり、内臓の働きも弱まって、かえって免疫機能が抑えられてしまいます。適温は40度です。40度のお湯は副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせることがわかっています。42度を境に身体や免疫機能への作用が大きく変わってくるため、お湯の温度は慎重に

お湯の温度は40度 イラスト/幸内あけみ

 皮膚の感覚は加齢とともに鈍るため、温度は体感ではなく、給湯器の正確な数字を確認しよう。

 ただ、熱い湯に慣れていると、お湯の温度を下げたらぬるくてスッキリしないと感じる人もいるだろう。

 そこで便利なのが、炭酸系や温泉の素などに多い無機塩類系の入浴剤。

「保温効果があり、血行をよくするので身体がさらに温まります。炭酸系は、体感温度も上がるので熱い湯を好む人にもおすすめです」

 熱すぎるお湯は、室温との温度差を生んでヒートショックの可能性を高めるため、命の危険性も。これからの寒い季節は湯温が高くなりがちなので注意が必要だ。

長風呂や半身浴は間違った入浴法

 そのほかにも健康リスクを生む間違った入浴法が多くあると早坂さん。

女性は美容のために長風呂を好む傾向がありますが、のぼせや皮膚の乾燥を招くため控えるべき。湯船につかる時間は10分で十分。半身浴やぬるま湯での長風呂もおすすめしません。

 38度以下だと身体を温める効果がありませんし、半身浴も温め作用が半減するうえに、実はデトックス作用などもあまり得られません。39度以上で10分間、健康体なら肩までつかる全身浴を心がけましょう

長風呂 イラスト/幸内あけみ

 入浴後にビールやアイスなどの身体を冷やすものを摂取したり、クーラーや扇風機に当たったりするのも、温め効果をストップさせてしまうためNGだ

「入浴後でも汗が出てくるなどのぼせている場合以外、身体を冷やす行為は避け、常温の水を飲む、すぐにパジャマを着るなど温かさが続くように心がけましょう。1回の入浴で発汗により800mlもの水分を失うため、入浴前から適温の水分を補給しておくことも大事です」

 正しい入浴法で病気予防。長生きのためにもぜひ、実践したい。

●免疫力アップ! ベストな入浴法、3つのポイント

(1)ふたをしないでお湯をためる

 お湯をためる際に浴槽のふたを開けて湯気を充満させると、入浴の免疫効果が高まる。浴室のドアや窓も閉めること。シャワーを出して湯気を増やしておくのも有効だ。

ふたをしないでお湯をためる イラスト/幸内あけみ

(2)深呼吸をして湯気を吸う

 湯気で気管の粘膜を潤すと細菌などの異物が体外に排出されやすくなり、免疫力が高まる。湯面の近くで深呼吸をしたり、歌ったりすると効果的。吸い込む時間は2〜3分が目安。

深呼吸して湯気を吸う イラスト/幸内あけみ

(3)お湯の温度は40度

 免疫アップに最適な温度は、もっとも深部体温が高まり、負担なく温熱作用が得られる40度。42度以上は身体にストレスがかかり逆効果。40度がぬるいと感じたときは入浴剤を使おう。

健康リスクを生むNG入浴法

・「熱い湯に入る」

42度以上の熱い湯に入ると免疫機能が抑えられるだけでなく、交感神経が優位になり血圧が上昇。さらに、浴室内の室温とお湯の温度差が大きくなるため、ヒートショックのリスクが増す。

・「長風呂」

 美肌のためにパックなどをしながら長風呂をするのは間違った美容法。かえって肌の潤いを保っている皮脂が流れ出し、肌乾燥を招く。半身浴にも特別な効果はない。美肌のためにも入浴時間は10分程度に。

・「お風呂でスマホチェック」

 浴室でリラックスすることで副交感神経が高まり、自律神経が整って睡眠の質を高めたり、ストレスが解消されて免疫アップにつながる。交感神経を優位にして、リラックス効果を妨げるスマホチェックのような習慣はNG。

・「お風呂上がりのビールやアイス」

 お風呂上がりに冷たいものをとると、温熱作用がストップしてしまうため避けたほうがいい。また、身体の水分が多く消費された入浴後にアルコールを摂取すると、利尿作用により脱水を招くおそれも。

風呂上がりのアイス イラスト/幸内あけみ
教えてくれた人……早坂信哉さん
東京都市大学人間科学部長・教授。温泉療法専門医、博士(医学)。高齢者医療の経験から入浴の重要性に気づき20年にわたり3万人以上の入浴を調査した、入浴や温泉に関する医学的研究の第一人者。著書に『おうち時間を快適に過ごす 入浴は究極の疲労回復術』(山と溪谷社)など。

《取材・文/井上真規子》