首都圏から車で1時間半。埼玉県某所――。心霊のファンが訪れる築150年の古民家がある。滞在中、100%の確率で怪奇現象が起きるとか。何が起きるのか、それを検証すべく住宅に潜入した。そこで予想だにしていなかった現象に遭遇することに。
恐怖の現場は埼玉県・某所の築150年の古民家だった。
この家は、最恐イベント開催団体「暗夜」が主催する『泊まれる幽霊屋敷』。ただし、これはただの謳い文句ではなく、本当に怪奇現象が起きるという、事故物件なのだ。
実際に怪奇現象と遭遇することはできるのだろうか。
そこで事故物件といえば、この人、事故物件住みます芸人の松原タニシさんとともに噂の真相を検証すべく屋敷へと向かった。
10月27日、深夜0時。
「暗夜」代表の桐木謙士郎さんに件の屋敷へと案内してもらった。まず聞いたのは衝撃的な内容だった。
「最近、怪奇現象が多発しており、トラブルも多い。大けがを負った人もいれば取り憑かれたように性格が変わってしまった人、泡を吹いて倒れてブルブル震えていた人もいました。朝まで過ごすことができず、リタイアする人も増えています」(桐木さん)
取材の直前にも立て続けにリタイアした参加者がいた。ギブアップ時間は2日続けて午前1時34分。偶然だったのだろうか、それとも……。
不安と緊張を胸に、幽霊屋敷の扉を開いた。
滞在をともにするのは松原さんと小誌の記者とカメラマン、主宰の桐木さんの4人。
屋敷は入ってすぐのところに土間と囲炉裏。その奥に畳の部屋が4つ。2階では養蚕をしていたという伝統的な造りの日本家屋だ。150年の間、多く人がここで暮らした。陶芸家、老夫婦、小さい女の子がいる家族─。いわくのある建物を探していた桐木さんにこの屋敷の話を持ちかけたのは地元の男性だった。
「開かずの間があったり、幽霊が出る噂の家がある」と連絡があったのだ。
「50~60年ほど前、この家に住む男性が孤独死したそうです。発見された遺体はドロドロになっていた……。その部屋には特殊清掃も入らず、亡くなったときのままで封印されていたそうです」(前出・桐木さん、以下同)
これまでに100組以上が参加
この家の怖いところはそれだけではない。天井裏から聞こえる足音。誰のものか不明な触ってはいけない骨壺。大きなモノクロ写真、髪の毛が入った仏壇。いつ、誰がなんの目的でこの家に置いたのかわからないものばかり。
さらに「暗夜」に寄せられたいわくつきのアイテムも展示されている。
「滞在中に何かあったときのため参加者にはトランシーバーを貸し、スマホは朝4時まで使えないというルールやミッションなどを設け、一夜を過ごしてもらう」
これまでに100組以上が参加。若い世代が多いが、50~60代も。子どもと3人で参加した家族連れもいた。
「軽めの霊体験をしてみたくて申し込まれるんですが、かなりいろいろ起きて“なめてた……”とリタイアする方も少なくありません」
実際にどんな霊現象が起きたのか聞いてみた。
「開かずの間の内側からふすまを蹴る音がした後に天井裏からバタバタと足音が聞こえたことがありました。ほかにも盛り塩の塩が爆発するように飛び散ったり、身体を突っつかれたり、不可解な写真も撮れています」
現在、開かずの間は入ることを禁じられている。
現象が起きるのは大体午前0時~4時の間だという。
「これはエンタメじゃないです。ガチです……」
深夜2時を超えて不可思議な現象が
今回、小誌は松原さんのYouTube生配信とコラボ。配信前にひと通り見て回っていると仏壇のある部屋に入った途端、空気が冷たく変わった。髪が伸びる、といういわくつきの日本人形もガラスケースから転げ落ちていた……。
見るだけ、という約束で開かずの間の扉も開けてもらった。重い冷気が漂い、身体の芯がゾクッと震えた。室内はさっきまで誰かがいたかのような状態で時が止まっていた……。
午前1時45分。松原さんがYouTubeチャンネルの生配信をスタート。30分ほどたったとき、最初の異変が起こった。
「あれ、おかしい」
松原さんが首を傾げた。開かずの間を封印するガムテープにくっついた昆虫にカメラを向けていたときのことだ。急にスマホの画面が止まった。
同時に開かずの間の中から何かが落ちるようなパサリという鈍い音が聞こえ、空気が一気に凍りついた。午前2時28分のことだった。
同時刻に松原さんの配信を見ていた人によると配信は続いており、ただ白い画面が映し出されていたという。
次々と起こる怪奇現象
午前2時半過ぎ。松原さんが美容師から譲り受けた髪が伸びるカット人形・通称『のびこさん』をお披露目。のびこさんの髪は最初、耳の下程度の長さだったというが今はすっかりセミロングに。
松原さんはのびこさんと幽霊屋敷の人形とを対面させるのだが動画の調子は悪いまま。
特に玄関の階段付近に置かれたマネキンを映すときは接続がおかしくなった。
「実はあのマネキンが屋敷に来てから霊現象が増えだしたんです」(桐木さん)
なんとマネキンは動くことがあるという。この日も左目が最初の時よりも左に寄っている気がしたのだが……。
滞在中、家鳴りとは違う「ピシッ」という音や小動物とも違うカリカリとひっかくような音が聞こえていた。
午前3時過ぎ。食器棚の上の天井からカリカリ、トントン……と軽い足音が聞こえた。
暖房をつけているはずなのに部屋の温度はどんどん下がっていき、冷気を感じる。
「暗闇チャレンジ、やってみましょうか」
松原さんが提案したのは午前3時半手前。暗闇チャレンジとは電気をすべて消した状況で過ごす。このとき、霊現象がいちばん多いという。
暗闇の中で怖い話を披露し、桐木さんがオチを話そうとしたのと同時に、カチャン──、
謎の物音に、大の大人4人は悲鳴を上げ、パニックで笑い出した。怖いとき人は1か所にかたまり、笑うしかないのだということがよくわかった。
「桐木さん、めっちゃ震えてましたよ」(松原さん)
数分後、今度は仏壇のほうから「パーン」と何かが落ちる音がした……。
「一気にテンションが上がりましたね」(松原さん)
4時になり、電気をつけ、周囲を見回してみるのだが特に変わった様子はない。一体何が落ちた音なのだろうか。
その後、何が起きるかわからないが、上ることは自己責任とされていた2階を見ることに。カメラマンが階段から室内を撮影すると2体の日本人形、それに外国の木彫りの人形、何枚かのDVDがあった。足音の正体もどこかにいるのだろうか……。
恐怖を乗り越える体験が貴重
外が明るくなるにつれ、室内の空気が穏やかに変わり、同時に何かを共に乗り越えた達成感のようなものも感じた。
「スマホは使えないので仲間たちと会話をし、身を寄せながら過ごし、距離が近くなり、団結力も強くなる。友人同士だけでなく、初めて会った人たちともすごく仲よくなるんです。イベントで恐怖のトラウマだけでなくみんなで空間を共有する体験をしてほしい。今日は僕にとっても……青春でしたね」
と桐木さんは笑った。
「普段、事故物件に住んでいますから桐木さんには同業のようなシンパシーも感じました。この家では変なことが起きたり、怖い瞬間があったり、ロマンがあった。恐怖を乗り越えることは登山とも似ているような気がします」(松原さん)
そして開かずの間の存在は非常に大きいという。
「神社の御神体や見てはいけない世界、ブラックボックスを残しておくことが大切。 もしあそこ(開かずの間)に入ってしまったら恐怖がなくなり、この経験はきっとすぐに忘れてしまう。あの家にいる存在を認めることは大切」(松原さん)
そう、あの家には確実に何か『住んでいる』。
「小さい女の子がいるって話す人もいます」
桐木さんからこの話を聞いたとき一気に鳥肌が立った。昔、付近で水の事故で亡くなった女の子がいた。この屋敷のかつての住人ではないかという噂もあるというのだ……。
そして帰りの車中でカメラマンがポツリと話した。
「あの家に入った瞬間、急に頭が痛くなったんですよね」
何らかのメッセージを伝えるため、あの家には誰かがとどまっているのかもしれない。
事故物件住みます芸人・松原タニシさん
松竹芸能所属。東京や大阪などを中心に各地の事故物件に住み続けて、怪談イベントなどにも出演している。著書に『事故物件怪談 恐い間取り』『死る旅』(ともに二見書房)など
最恐イベント開催団体「暗夜」主宰・桐木謙士郎さん
埼玉県某所で民宿型幽霊屋敷を展開、今後は全国的に怪奇物件を利用した同様の企画を展開していく予定。幼少期から空手を習い、普段はキックボクサーという一面も
初出:週刊女性2021年11月16日号/Web版は「fumufumu news」に掲載