岡山県倉敷市にある『星野仙一記念館』が今年11月末をもって、静岡県西伊豆町にある『加山雄三ミュージアム』も来年8月末をもって閉館することが報じられた。実はここ数年、全国各地にある有名人の記念館の閉館が相次いでいる。
コロナ禍で有名人記念館を閉館の決断
バブル後期の'91年、北海道小樽市にオープンした『石原裕次郎記念館』をきっかけに、有名人の記念館が全国各地につくられた。
「地元の偉人の功績を後世に伝えるのが目的のものと、町おこしや営利目的で建てられたエンタメ色の強いものの2つのタイプに分かれますね」(トラベルライター)
ファンならずともスターの軌跡を1度は目にしておきたいものだが、643館を訪問した人物記念館マニアで、多摩大学名誉教授の久恒啓一さんは記念館の魅力をこう語る。
「その人の歴史を文字だけでなく、音や映像、思い出の品などで振り返ることができるので、伝記を1冊読むより学ぶことが多いです」
記念館ならではの、こんなサプライズ体験も。
「『星野仙一記念館』に行った際、女性スタッフが細かく説明してくれたのでとても熱心だなと思ったら仙一さんのお姉さんだったということがありました。
また『東京目黒美空ひばり記念館』では居間に上げてもらい、お茶などを飲みながらいろいろお話を伺ったことも。神奈川県湯河原町の『西村京太郎記念館』は先生のご自宅が隣にあるので、ご本人が館内にフラッと顔を出してくれることも多いそうです」(久恒さん)
現在はネットで簡単に情報を知ることができるが、実際に足を運ぶからこそわかることも多いと久恒さんは続ける。
「『坂本九思い出記念館』は出身地でもない北海道夕張郡栗山町の福祉施設の中にあります。坂本さんが生前、札幌テレビ放送の『ふれあい広場サンデー九』に出演していたとき、記念館のある栗山町のバンドが福祉関係のコンサートに出演。
そこから交流が続き、事故で亡くなる2週間前にも番組収録でこの地を訪れるなど、地域の方と交流を深めていたことからつくられたという経緯があるんです」
最近になってなぜ閉館が続いているのか。残念ながら来年閉館してしまう『加山雄三ミュージアム』は地元紙の記事によると、
“ここ数年、体調不良などによりサイン会などのイベントに参加できない状況が続き、十分なファンサービスができなくて心苦しいという本人の思いに沿う形で閉館を決めた”
と、報じられている。
管理者の高齢化とコロナの爪痕
『星野仙一記念館』は今年で80歳を迎えた館長の健康面に加え、新型コロナウイルスの感染拡大で4度の休館を余儀なくされたことが決め手になったという。
「もともと持病があり、コロナ禍で体調を崩したのがいちばんの理由です。緊急事態宣言で4度の休館により来場者がコロナ禍前の7割減に。健康面や資金面でも周りに迷惑をかける前に……と閉館を決意しました」(館長の延原敏朗さん)
展示されている1000点以上の思い出の品は、記念館のある倉敷市に寄贈される。
「まだ閉館前ということもあり、寄贈された品の展示場所や方法は現在検討中です」(倉敷市スポーツ振興課)
新型コロナの影響で再開の見通しが立たない場所も。
「『西村京太郎記念館』は今年1月の緊急事態宣言後に休業を発表。解除された現在も休業が延長されたままで、再開の見込みが立っていません。このまま閉館してしまうのでは……と心配の声が挙がっています」(前出・トラベルライター)
今年8月には、北海道函館市にある『北島三郎記念館』も地元の一部メディアで閉館が報じられたが……。
「建物の老朽化のため9月から休館中ですが、閉館ではございません。施設の点検が終わり次第、再オープン予定です」(記念館担当者)
さまざまな要因で閉館や休館が相次ぐ有名人の記念館。閉館してしまうところと続くところの差を、久恒さんはマニアの視点でこう分析する。
「いちばんは地域の方に愛されているかどうかでしょう。観光地にある記念館は営利目的のケースも多いので、集客が落ちて赤字になってしまうと閉館してしまいやすい。
一方で出身地などにあり、自治体などの理解を得て、町全体で盛り上げているところは存続しやすい印象です。福岡県にある『北九州市立松本清張記念館』は、松本先生の担当編集者だった方が館長をされていることもあり、床もピカピカに磨かれているなど愛情をとても感じます」
生まれ変わる記念館も
『坂本九思い出記念館』の担当者もこう語る。
「うちは営利を目的にしていた施設ではありません。北海道で社会福祉活動に力を注いでいた坂本さんの功績を紹介するためにつくったこともあり、閉館は考えておりません」
一方、北海道小樽市にあった『石原裕次郎記念館』は入場者の減少や建物の老朽化のため'17年に閉館。その後、オンライン記念館として再オープンするなど、新しい試みも始まっている。
「小樽や『石原裕次郎の軌跡展』で展示された遺品の一部や出演作品、発売したレコードの年表が無料で見られます。オンラインショップでは新作も随時発売されており、小樽の記念館よりもグッズが充実していて、ファンにはたまらないはず」(前出・トラベルライター)
久恒さんもオンライン化など、今後も生き残っていくためにはネットの活用が大事だと語る。
「新型コロナの影響もあり、どこの記念館も経営は厳しいのでは。クラウドファンディングで運営資金を集めるなど新しいサービスを活用したり、オンラインに移行するのも生き残っていくためには大事になってくるでしょう。記念館は地方創生にも活用できますし、残すべき価値があるもの。
今後も存続させていくために、若い人たちのアイデアなどもどんどん取り入れていってほしいですね」
スターたちの軌跡を消さないためにも、ぜひ1度足を運んでみては!?