「子どもは重症化しないから」と油断はできない。第6波に備えて押さえておくべきこととは?

 新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は大人がかかりやすく、かつ重症化しやすいといわれている。では、子どもの場合はどうなのだろうか――。

子どもの感染状況や症状について

 国立成育医療研究センター感染症科の庄司健介さん(小児科医)が、国立国際医療研究センターの研究チームと合同で、新型コロナで入院した小児患者に見られた症状の状況をまとめ、10月5日に実施されたCOVIREGI研究報告シンポジウムで発表した。この年代の患者を対象にした調査としては国内では最も規模が大きいもので、アメリカ小児感染症学会の機関誌にも公開されている。

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 調査期間は2020年1月~2021年2月で、デルタ株が流行する前、第4波までの状況になる。国立国際医療研究センターが運営する、国内最大の新型コロナレジストリ(データベース)「COVID-19 Registry Japan」に登録された患者データをもとに集計した。

 同期間にレジストリに登録された新型コロナの入院患者は約3万6000人。このうち18歳未満は1038人で、その7割にあたる730人に何らかの症状が見られた。

「症状のない子どもが3割ほどいましたが、その理由としては、濃厚接触者として隔離する必要があったり、新型コロナで入院した親の代わりに面倒をみる人がいなかったりなど、いわゆる『社会的な理由の入院』が考えられました」と庄司さん。

 症状は年齢ごとに出方が違うと考え、細かく区切って各年代の症状を調べている。その結果が以下のとおり(下表)だ。ちなみに、一般的に言われている新型コロナの初期症状は、熱、咳、息切れ、筋肉痛、関節痛、嘔吐、下痢などだ。

図:小児新型コロナ患者における各症状の頻度 /東洋経済オンライン

 38℃以上の発熱があったのは75人で全体では1割程度。3カ月以上24カ月未満が最も多く、29人(24%)だった。咳や鼻水といった、いわゆる風邪症状は3カ月未満ではあまり見られず、3カ月以上では増えていた。

 大人の症状で注目されている味覚障害や嗅覚障害は、13歳以上ではそれぞれ74人(24.7%)と71人(23.7%)であり、年齢が高めの小児でもそれなりの頻度で現れていた。他方、6歳未満ではほとんど見られなかった。

「大人でも味や香りがわからなくなる味覚障害や嗅覚障害は、ストレスフル。これが子どもにも見られたということは、重要な情報だと考えられます。一方で、この結果から小さい子には味覚障害や嗅覚障害がないと結論づけるのは早いと考えています。味覚障害、嗅覚障害は自覚症状なので、症状を訴えることができない小さいお子さんの場合、本当に症状がないのか、あるけれど訴えられないのかがわからないためです」(庄司さん)

 幼少期は味覚や嗅覚などの感覚器が発達する時期でもある。この大事な時期に新型コロナに感染することによってどんな問題が生じるのか。これは今後の研究が待たれるところであり、注意深く見ていかなければならないという。

子どもは本当に軽症ですむ?

 続いて、子どもは本当に軽症ですむのか、という問題。調査では重症度に関してもみているが、730人のうち、中等症に相当する酸素投与が必要になったのは15人(2.1%)だった。

「例えば、子どもがかかりやすい代表的な呼吸器感染症にRSウイルス感染症があります。これと比べても酸素を必要とする子どもの割合が低いことがわかりました。また今回の調査では、自発呼吸ができなくなって人工呼吸器を必要とする子どもや、死亡する子どもはゼロでしたので、やはり小児の新型コロナは軽症ですむという印象を持ちました」

 その一方で、自院での状況から、軽症だからこそ診療や入院が難しい面もあったと、庄司さんは言う。

 国立成育医療研究センターは子ども専用の医療機関であるため、当然ながら、コロナ病床も子ども専用だ。症状が重くて、ぐったりしている子であれば、ベッドの上でおとなしくしているが、軽症の子は基本的に元気がよいため、じっとしていられない。

 本来なら隔離された病室のなかにいなければならないわけだが、病棟の廊下に出てきてしまったり、夜中に急にさみしくなってナースステーションに来てしまったりということも、見られたという。

「ほかにも、医師や看護師がつけた防護具を見て泣き出したり、悪気はないんですけれど、防護具をはぎ取ろうとしたり。年齢的にマスクも着けられない子も多くて、そういう面では医療スタッフの負担は決して軽くはなかったと思います。これは小児病院ならではの問題ですが、今後の課題の1つといえるでしょう」

 症状が軽い割に入院期間が8日間と長めなのも、今回の調査でわかったことだ。

「これは、新型コロナは“発症してから10日間、かつ症状がなくなっている”ことが退院の条件だったことから、この基準を満たすまで退院できない子どもが多くいた、ということだと思われます」

 退院の調整は基本的に保健所が担っている。庄司さんによると、同院のスタッフが管轄の保健所に連絡して、「この子は(退院できますが)、帰れますか?」と聞くと、「まだ親御さんが入院しているので、もう少し(入院を)お願いします」と言われることもたびたびあり、結果的に入院の長期化につながったという。

基礎疾患のある子どもはどうなのか

 ところで、大人では基礎疾患のある人のほうが重症化しやすいとされているが、子どもではどうなのだろうか。

「われわれの調査の結果、基礎疾患がある子どものほうが若干、症状が出やすい傾向がありました。症状があった子どもの基礎疾患で最も多かったのは気管支ぜんそくで、次が肥満、3番目が先天性の心臓病でした」と庄司さん。重症化との関連については、基礎疾患がある子が少なかったことと、重症化した子どもがほとんどいなかったことから、十分検討できなかったという。

 感染経路については、感染経路が推定できた対象者のうち、79%が家庭内感染、15%が幼稚園や学校などの教育関連施設による感染と考えられた。

「家庭内感染の多くは、保護者が外から持ち込んだウイルスを家庭内で広めることで起こります。12歳未満のお子さんは現時点ではワクチンを打てないので、まずは大人がしっかり感染対策をすることが大事です。できればワクチンを接種していただき、今のような感染者が少ない時期でも、基本的な感染対策であるマスクをするとか、手指を洗うとか、ソーシャルディスタンスをとるとかは、必要でしょう」

 万が一、家庭内で感染者が出たときの対策に関しては、国立成育医療研究センターが、東京都が公表している「自宅療養者向けハンドブック」を、子どもがいる家庭向けにアレンジし、ホームページ(https://www.ncchd.go.jp/news/2021/210817.html)で紹介している。

 とはいえ、小さい子どもがいる家庭では、こういった対策が十分にとれないこともある。「対策を100%守ることは現実的には難しい。できる範囲でやっていきましょう」と庄司さんはアドバイスする。

 最後は、新型コロナワクチンについて。現在、12歳以上が接種の対象となっているが、それより小さい子には接種の必要はないのだろうか。

「ワクチンは、メリットとデメリットを比較して、メリットがデメリットを上回るときに打つもの。大人の場合は重症化しやすいため、接種のメリットが大きく、積極的に接種を考えてほしいと思います。一方、小児はそもそも家庭内で大人からうつるケースが多い。大人への接種を進めることが、結果的に子どもを守ることにつながると考えています」

小児への接種について

 小児への接種についてはどうかというと、「高い予防効果が得られることが知られているので、接種する意義はあると考えられます。ただ、大人に比べると重症化するリスクが小さいため、接種にあたっては本人、保護者が接種のメリット、デメリットを十分に理解することが大切」だという。

 特に呼吸器系の病気や肥満、先天性の病気などの基礎疾患がある子は、新型コロナにかかったときに重症になる可能性があるため、必要に応じて接種することを検討したほうがいいそうだ。

 冒頭でも触れたが、今回の調査はデルタ株以前の情報をまとめたものだ。デルタ株は従来株やアルファ株に比べて子どもに感染しやすいといわれている。

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 「第5波のときは、感染者の絶対数が増えたことで、子どもの感染者数も増えました。ワクチン接種が進んだ高齢者で感染者が減った一方、若者の患者が増えました。子どもも同様で、デルタ株は従来株よりも子どもに感染しやすいという印象を持ちました。ただ、重症化に関しては、子どもの感染者数が増えたことに伴って重症化する子も増えただけであり、デルタ株の影響で重症化する割合が増えたわけではない印象を受けました。これについては今後も検討が必要です」

 第5波のまっただ中、夏休みが終わって2学期が始まるときには、学童の感染者が爆発的に増えるのではないかと危惧された。だが、実際はそういうことはなく、ジワジワと減っていったという。

「当院では第5波では都の要請に基づいてコロナ病床を40床ほど用意していましたが、第5波のピーク時にはそのベッドの多くが埋まっていました。現在は新型コロナの入院患者はほとんどいませんが、第6波への備えも必要。軽症のお子さんどうみていくのかなどについては、これからも必要な情報として発信していきたいと思います」


鈴木 理香子(すずき りかこ)Rikako Suzuki フリーライター
TVの番組制作会社勤務などを経て、フリーに。現在は、看護師向けの専門雑誌や企業の健康・医療情報サイトなどを中心に、健康・医療・福祉にかかわる記事を執筆。今はホットヨガにはまり中。汗をかいて代謝がよくなったせいか、長年苦しんでいた花粉症が改善した(個人の見解です)。