物語も中盤に差しかかった秋ドラマ。かつては職業モノばかりだったが、個人視聴率調査の定着もあり、王道な恋愛モノから視覚障害をテーマに扱った作品、本格サスペンス……と、今クールは多様な作品が顔をそろえた。そんな中、熱心な視聴者からはこうした声が上がっている。
ロケ地かぶりの“裏事情”
《ロケ地一緒?》
《チェリまほとロケ地が被るのはできれば避けてほしい》
『日本沈没』(TBS系)では内閣府のロビーとして出てきたビルが、『SUPER RICH』(フジテレビ系)では江口のりこ演じる主人公が経営する会社が入るオフィスビルとして登場している。
「『SUPER RICH』では、同ドラマにも出演中の赤楚衛二の出世作となった“チェリまほ”こと、テレ東系のドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』でも使われた千葉市の歩道橋が意図的と思われる形で登場。賛否の声が上がっています」(テレビ誌編集者)
ほかにも『アバランチ』(フジテレビ系)でたびたび登場する廃墟のシーンは、千葉県内にあるスタジオで撮影が行われている。“廃墟シーンといえばこの場所”と言われるほど、多くの作品で使用されている有名ロケ地だ。
「同じカンテレ制作の『10の秘密』や『僕たちがやりました』でも使用されていました。犯人が監禁場所に使ったり敵のアジトだったりするのは、いつもここだという印象です」(フリーライターの田幸和歌子さん)
ロケ地がかぶってしまう理由は、撮影需要のある廃ビルやアパートなどがスタジオ化されて、借りられる場所が限られるようになったほか、自治体が行うロケーションサービスの定着が関係している。
「人通りの多い場所でロケをする場合、相当な人数のスタッフを割いて人止めをしなければならなくなります。そのため許可が下りやすい場所、貸し切りできる場所となると、限られてしまうことはあるでしょう」(田幸さん)
SNSで、撮影がリアルタイムで拡散されるようになったことの影響も……。
「以前にも増してやじ馬が殺到しやすくなり、撮影に支障が出る場合も。また放送後も“聖地巡礼”として訪れるファンも多く、中には立ち入り禁止の場所に入って撮影を行う人もいて、貸し出してくれた施設とトラブルになるケースもあります。ロケーションサービスに登録している施設であれば、撮影への理解もあり、対応にも慣れていますからね」(テレビ局関係者)
ロケ地増加、施設側のメリットや町おこしにも
東京都の委託を受けて運営している『東京ロケーションボックス』に、登録する側のメリットを聞いてみると、
「'01年4月にサービスを開始した直後の登録施設は200件ほどでしたが、今年10月1日の段階で2592件の登録とロケーションサービスへの理解が深まっています。
作品に施設名や企業名が登場することにより、宣伝効果が期待できます。また施設使用料や立ち会い費用等を設定することで、ロケの受け入れが収益につながるほか、地域の活性化にも期待ができるといったメリットがあります」(広報担当者)
'17年に埼玉県行田市を中心にロケが行われた、日曜劇場『陸王』(TBS系)の同市への経済効果は、放送3か月で10億円超といった試算が発表されるなど、町おこしに貢献するケースも。
前出の田幸さんは、ロケ地がかぶるメリットとデメリットを視聴者目線でこう指摘する。
「ドラマファンにとっては“あの作品と一緒だ!”と小さな発見をする喜びがある一方、“またあそこ?”という既視感も出てしまいますよね」
新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあるようだ。
「コロナ禍前は撮影に協力してくれる病院も複数ありましたが、感染拡大以降は貸し出ししてくれる病院がかなり減りましたね。
そのため、医療セットのあるスタジオや局内で病院に見えるように撮影を行うなど、医療ドラマの撮影スタッフは頭を悩ませています」(制作会社関係者)
撮影の受け入れをストップする施設はほかにも。
「具体的な数は調査できていませんが、コロナ禍になり20~30件ほど、紹介を中止した施設があります。
比較的ロケに慣れている施設は、コロナ禍でも撮影自体を受け入れる可能性が高いため、映像で露出する機会が自然と増えてしまいますね」(前出・東京ロケーションボックス広報担当者)
ロケ地にこだわれる番組はわずか
ストーリーの完成度や俳優の演技のほか、ロケーションも作品の出来を左右する要素のひとつ。ロケ地にこだわったことで作品の評価を高めているのが、吉高由里子主演の『最愛』(TBS系)だと、前出の田幸さんは分析する。
「ヒロインの原点として描かれる第1話は、岐阜県の白川郷や富山のローカル線であるJR城端線など、豊かな自然がたくさん登場します」
つらく悲しい事件を経て、上京後に関東近郊で進んでいくストーリーとの対比が効果的な演出になっていると続ける。
「人生の起伏が大きくドラマチックに描けるうえ、郷愁や初恋の切なさなども抒情的に描けていると思います」
しかし、制作費が削減されている現在のドラマ界で、地方ロケなどができるのは限られた作品だけのようで……。
「TBSの日曜劇場や金曜ドラマのように注目が集まる枠は別ですが、どこの局も制作費はギリギリ。地方ロケではマネージャーの交通費は事務所負担というケースも増えていますから。ロケ地にまでこだわれるドラマは一部だけですよ」(芸能プロ関係者)
景気がよくなるまでは、ロケ地かぶりは続く……!?
“かぶり”がもたらした経済効果
定番のロケ地になったことで売り上げがアップしたり、観光資源として活用されるケースも。
ドラマ『極主夫道』や『彼女はキレイだった』などで使用され、喫茶店シーンではおなじみのJR大森駅近くにある珈琲亭ルアンもその1つ。店主は「中島健人さんファンの聖地巡礼スポットになっているようで、放送後に若いお客さまが増えました」と喜ぶ。
菅田将暉と小松菜奈がダブル主演した映画『糸』や東出昌大主演『草の響き』の撮影が行われた北海道函館市は、市が作品ごとのロケ地マップを配布したり、ネット上で公開。観光客誘致につなげている。