菅田将暉と木村拓哉

 10月に放送された『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)の1時間スペシャルにゲストで菅田将暉が出演した。内容は、服好きで知られる菅田が千鳥の大悟に服を選ぶというもの。番組出演時、菅田は衣装ではなく私服で登場。

「古着ブーム」の要因

 千鳥の2人に尋ねられ、着用していたのを、“スウェーデン軍の軍物のパンツ”と明かした。この“軍パン”が今、ファッション好きの若者の間で話題となっているのだ。この下にある画像をご覧いただきたい。

フリマアプリ『メルカリ』でスウェーデン軍のパンツは価格が高騰している

 こちらは誰でも自由に商品を販売できるフリマアプリ『メルカリ』の画面。“スウェーデン軍 菅田将暉”で検索すると、売り切れのものも含め、多数出品されている。値段は3万円前後が中心だ。

 驚くべきはこの軍パン、以前はだいたい3000円程度で取引されていたもの。現在は若者を中心に古着がブームということもあり、菅田の購入金額はそれより上がっていたようだが、菅田がこのパンツを着用していることを明かして以来、相場がさらに跳ね上がっているのだ。なぜこれほど高騰しているのか……。

「'11年の『H&M』の日本上陸が象徴となっているファストファッションブーム、そして著名デザイナーとのコラボレーションによりファッション的なイメージが向上した『ユニクロ』など、日本では低価格ブランドの人気が長年続いていました。

 現在の若者の古着ブームの最大の要因としては、近年は低価格ブランドのデザインの同質化が進んでおり、どこでも似たような服しか買えないので、個性的な服を求める若い人が古着に魅力を感じているのではないかと思います

 そう話すのは、『結局、男の服は普通がいい』などの著作があるファッションアナリストの山田耕史さん。現在の古着ブーム下にあって、実は菅田が着用した軍パンだけでなく、いろいろな古着が高騰しているという。

 山田さんによれば、「一部の古着が暴騰と言えるくらいまで、価格が上がっている」と言う。『マリリン・マンソン』や『グリーン・デイ』などの人気バンドの“バンドTシャツ”は、ここ数年で値上がりし、数万円という額で取引されている。

 古着のTシャツが、何万円という価格を付け、それがさらに売れているのだ。それらの理由については、服の買い方、売り方の変化がある。

“キムタク売れ”の裏側

「近年、『メルカリ』の普及で個人間の売買が気軽にできるようになりました。また、『リーバイス』のジーンズに代表される“ヴィンテージ古着”は価格の上昇が続いており、購入して着用しても、価値がほとんど下がらない。むしろ購入価格よりも高値で売却できる可能性もあるので、高価格なヴィンテージ古着にも手を出しやすい環境になっています」(山田さん、以下同)

 これまでも何度か日本では古着ブームはあった。以前のブームでも山田さんも話すヴィンテージ古着は高値で取引されてきた。当時のブームでは、'70年代やそれ以前のものなど、かなり古くないと“ヴィンテージ”として捉えられず、高値が付くことはなかった。しかし現在は……。

「価値観の多様化により、これまでヴィンテージとは呼ばれていなかった'90年代以降の古着に価値が認められるようになり、古着市場のバラエティーが豊かになったことも原因と思われます」

“菅田着用”によって今回高値を付けている軍パン。芸能人による“着用”によって値上がりするケースといえば、'90年代以降、その代表格は木村拓哉だろう。彼がドラマで身につけた服やアクセサリーはたちまち高騰。現在でも彼がお気に入りの人気ストリートブランド『シュプリーム』の着用姿をインスタグラムに投稿すると、 それが高騰することも。

平成時代に人気となった木村拓哉着用の服は今現在も、高値で取引されることも

「ドラマ『HERO』で着用した『ア・ベイシング・エイプ』のダウンジャケットや、『SMAP×SMAP』で着用した『ナンバーナイン』など、木村拓哉がテレビ番組で着用してネットオークションで価格が高騰したアイテムは数多くありました。

 ですが、それは祐真朋樹さんや野口強さんなど、日本を代表するトップスタイリストやドラマの衣装担当スタッフがスタイリングして着用していたと思われます。つまり、木村拓哉さん自身が発信したファッションではないということです」

『エイプ』は牧瀬里穂の夫としても知られるNIGO氏が設立し人気を博したストリートブランド。『ナンバーナイン』は、ロック調のデザインが特徴的なブランド。木村は番組や雑誌の表紙で着用することも多く、そしてそれが高騰することも多々あった。

木村と菅田の明確な違い

「『エイプ』も『ナンバーナイン』も、すでにファッション好きの間では人気のブランドでしたが、木村さんが着用することにより、その名前が一気にお茶の間まで知れ渡ることになりました。

 木村さんは圧倒的なスター性と、さまざまなブランドのアイテムを着こなすファッション感、そしてテレビでの露出が多く、日本中の誰もが知っているという高い知名度で、その着用アイテムやブランドをファッションにそれほど興味を持っていない層まで拡散したという意味でのファッションリーダーであると思います

“平成のファッションリーダー”木村拓哉と、“令和のファッションリーダー”菅田将暉。両者はファッション的に非常に影響力があり、ここまでにあるように、“キムタク着”売れ、“菅田着”売れという現象をともに生み出している。

番組出演時の菅田将暉(『テレビ千鳥』より)。着用しているのが高騰している軍パン

 この両者を比較してみると、“違い”はあるのだろうか?

木村さんは“スーパースター”です。着用しているアイテムもデザイナーズブランドやストリートブランドなどの高価なアイテムが多く、まさに“憧れの存在”です。それに対し、菅田将暉さんは三軒茶屋の古着屋でよく買い物をしていると話しており、若者たちにとって自分でもまねできそうな親近感の高さが魅力です。

 菅田さんは自身が選んで着用している古着のシャツやまた菅田さんが着用していそうな個性的な柄のシャツが『菅田シャツ』などと呼ばれているように、“菅田さん自身のセンス”が共感を集めている点が、木村さんとの違いと言えるでしょう。

 これまで日本のタレントで、その人自身が発信するファッションに注目が集まった例は、ほぼないはずです。その点で、菅田さんはもしかしたら日本のタレントで初めての、本当の意味での“ファッションリーダー”なのかもしれません

“菅田ブーム”はさらに続くか。