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 11月5日、政府が新型コロナウイルスの感染拡大で影響を受けた人たちへの給付金を検討していることがわかった。対象は“18歳以下”で、金額は一律で“10万円”。かかる予算は総額で2兆円規模。また、マイナンバーカードを保有する人には“1人3万円相当”のポイントを付与する方向での調整が進められているという

 この政府の判断にネット上では“所得制限を設けるべき”といった意見や18歳以下という条件に、独身者や子どもがいない既婚者から批判の声が上がっている。

給付金、専門家の意見は?

 今回の政府による給付金をプロはどのように見たのか。経済評論家山崎元さんに話を聞いた。

まず前提条件として、“現金”の“一律給付”は、再分配政策として好ましいと考えます。これは世界的にも好ましく考えられていて、(生活に必要なお金を給付する)『ベーシックインカム』導入への検討がなされている国や地域は複数あります」

 現金の“良さ”はどのあたりにあるのか。

「現金は、使途を限定しないので、国民生活への政府の介入や特定業界へのメリット供与に繋がりにくい。食費が必要な家庭もあるでしょうし、子どもの学費に使いたい家庭もある。

『教育クーポン』のような支援は、家庭によって必要性にばらつきがあります。『GoTo○○』のような、特定の業界や予約サイトが儲かる政策もよくない。“トラベル”などが対象になっても、旅行に行ける家も、そうでない家もあるわけですから」(山崎さん、以下同)

 今回の給付金は、ネットなどで“バラマキ給付金”と揶揄されている。また先の衆議院選挙では、ほとんどの党が“現金給付”を公約に掲げ、財務省の矢野康治事務次官はこれを“バラマキ合戦”と評した。

 この度の政府の給付金の内容は、選挙時に公明党が掲げていた公約“そのまんま”といえるもの。前出の山崎さんは、政府の判断を「バラマキ合戦の順位としては、今ひとつ」と話す。その理由とは。

まずは、対象が“18歳以下の子どものいる家庭”と必ずしも公平でなく限定されていること。対象者はおそらく予算の都合と公明党の関係で落としどころが決まったのかと推測しますが、“大学生の子どもがいる母子家庭”のような家には支援がないし、高齢者でも困窮者はいるし、そもそも非正規で働いていて子どもを持つ余裕がない人もいる。文句が出るのは当然でしょう

 今ひとつである、別の理由は、“給付が一回であること”と山崎さん。

継続性のない1回だけの給付に大きな問題があります。そもそも給付の“効果”を、個人消費を通じた景気の下支えで測ろうという考え方が卑しくて正しくない困った人にお金が渡れば、まずは十分いいではないか

 昨年の給付が貯蓄に回って消費を増やせなかったのは、そもそも勤労者の所得の伸びがなく、十分な貯蓄の備えを持っていなかったから。そんなところに、コロナの不確実性が不安を呼んで、“貯蓄へのニーズ”が高まっていたのでしょう。

 困窮していても計画性のある人が、刹那的な消費に走らず、“貯蓄を買った”と考えるべきです」

専門家が考える給付の仕方

 “1回だけの10万円”のような給付は、安心感が乏しく、支出を促す効果も乏しい。では、どのような給付が望ましいか。

たとえば“毎月1万円”のような給付。基礎年金の財源を全額税負担にすることで、低所得な現役世代には苦しい毎月1万6610円の支払いがなくなって“手取り収入”が将来にわたって増える

 総裁選に出馬した河野太郎候補がこれに近い案を言っていましたが、彼は老後の安心に重点を置いた説明をしたため、現役世代の負担軽減が十分伝わらなかった点が失敗でした。

 この他に、NHKの受信料なども所得に拘らず徴収される定額の負担なので、これを税負担にすると、国民に一律の給付を行ったのと同様な効果があります。   

 この“1回限りの〇〇万円給付”という政策が、おそらく選挙のたびにくり返されるのかと思うといささかげんなりします。馬鹿馬鹿しいけれども、政治家と財務省には都合がいいのかも知れませんが

 その後の報道で、'21年度の給付金は“年内に現金5万円先行支給”、“来春に5万円相当のクーポン支給”自民公明両党は合意した。自民側は年収960万円の所得制限の導入を提案、公明側は持ち帰って検討すると、支給対象については合意に至っていない。

 衆院選時に、公明党の山口那津男代表は一律での給付について「所得制限を設ければスピード感が劣る。どこでわけるか基準を巡っても不公平感が出る」と“一律”の意義を強調していた。先行支給、残りは追って支給となれば、その“スピード感”の論理は揺らいでいるとも言える。所得格差についてはネットでも批判の声が上がっているが、一律での支給については……。

“所得制限なしの一律給付金”であることが重要です。この点がわからずに、長年各種の政策に所得制限をつけたがる立憲民主党は困ったものです。

 しかし、財務省的には、継続的に予算を取られる基礎年金の国庫負担のような政策よりも、対象者を所得などで限定しながら、その都度都度に政治家と交渉して予算の出し入れをできる条件付き一時給付が好都合でしょう」

山崎氏「バカな議論でしたね」

 '10年4月に実施された『子ども手当』。当時の首相であった鳩山由紀夫が実施したが、“鳩山さんのようなお金持ちの子どもにも給付するのはおかしい”と議論となった。

バカな議論でしたね。正解は“一律に給付しておいて、鳩山さんには追加的な税金をたくさん払って貰えばいい”です

 生活保護などにも言えることですが、所得などに条件をつけて給付すると、行政手続きがわずらわしくなり、時間とコストがかかりますし、行政に不必要な権力が生じます。

 また、国民の行動に余計な影響を与え、パートの収入の“壁”のような問題も起こる。現金給付政策の再分配効果は、先ほど申し上げた保険料や受信料を負担するような、給付マイナス負担の変化の差し引きで測るとよく、税制側だけを調整する方が、両方を調整して制度を複雑にするよりもはるかにシンプルで賢い」

 毎度繰り返される所得制限についての議論は、「いい加減に卒業してほしい」と山崎さん。

給付の財源として、現在直ちに、つまり給付と同時に増税することは、デフレ脱却を目指している日本にあっては、マクロ経済政策として間違いです。

 “財源を言わないのは無責任だ”という財務省を援護するかのような議論に引っ掛かって、悪いタイミングの増税を招かないことが大切です。ともかく“所得制限が必要だ”という議論は、頭が悪すぎますね

 前回、'20年の『特別定額給付金』は、7割以上が貯蓄に回り、経済的な効果は薄かったと言われている。はたして今回は……。

お話を聞いたのは……●山崎元(やまざき・はじめ)●経済評論家。1958年、北海道生まれ。東京大学経済学部卒業。現在、楽天証券経済研究所客員研究員。株式会社マイベンチマーク代表取締役。東京大学を卒業後、三菱商事に入社。野村投信、住友生命、住友信託、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一証券、明治生命、UFJ総研など、計12回の転職を経て現職に至る。現在は、コンサルタントとして資産運用分野を専門に手掛けるほか、経済解説や資産運用を中心に、メディア出演、執筆、講演会、各種委員会委員等を務める。