USB紛失トラブルがあったキリスト教系の暁星中学高等学校

《このような事態が発生し皆様におかれましては多大なご心配とご迷惑をおかけすることになりましたことを深くお詫び申し上げます》

 中・高一貫教育の名門私立「暁星中学高等学校」(東京都千代田区)のホームページに、そんな謝罪文書が掲載されたのは10月29日のこと。同校教員が、在校生や卒業生、教育関係者の個人情報などが入ったUSBメモリを紛失したとする校長からの報告だった。

 文書はこう続く。

《現在紛失したUSBメモリは見つかっておりません。紛失が判明したUSBメモリには、本校在籍の氏名・住所・電話番号などの個人情報や成績、卒業生徒を含む学外の方のデータも含まれていました》

 同校で開催したイベントや入試説明会の参加者のデータは含まれていないとしている。

 同校によると、現時点では紛失による個人情報の不正使用や被害は確認されていないというが、事態を知った在校生の保護者はカンカンだ。

「被害がなければいいという問題ではないと思います。そもそも報告じたい紛失から時間が経過していました。教員が生徒の個人情報をUSBメモリに入れて持ち歩き、学校の外で使わなければならないような勤務状況にも問題があるのではないでしょうか」(在校生の保護者)

 別の在校生の母親も「私学ならばこういうことがないだろうと信頼していたのに残念」と落胆した様子だった。

「ちょっと学外に持ち出してしまった」

 なぜ、USBメモリを紛失する事態に至ったのか。

 ホームページに掲載された文書では、いつ、どこでなくしたかについてまったく触れていない。

 同校に経緯を尋ねると、

「当該教員がUSBメモリの紛失に気付いたのは10月12日になります。持ち出してはいけない決まりですが、ちょっと学外に持ち出してしまって、どこかで盗難に遭ったのか、あるいは落としてしまったのか、わからないんです。日時は特定できていません。

 警察には紛失判明から日数がそう経たないうちに届け出ていますが、見つかったという連絡は来ておらず、当該教員が思い当たるところに何件か連絡をとって確認している最中です。お恥ずかしい話ですが、探すにしても本人の記憶だけが頼りです」

 と校長補佐は話す。

 USBメモリには在校生の住所、氏名、電話番号や成績・処分歴などの素行のほか、保護者の名前も含まれているという。これだけでも名門私立校に子息を通わせる家庭をターゲットにする企業にとっては有益な情報になるだろう。

 さらに、一部卒業生の勤務先などのデータや、当該教員が職務上かかわった学外の一部教育関係者のデータも含まれている。個人情報は守られるという前提の上に成り立つ現代社会において、同校関係者を装う違法行為に巻き込まれてもおかしくない。

 これら個人情報を悪用する目的で、USBメモリを持ち出した可能性はないのだろうか。

「当該教員への聞き取りなどを含めて調査中ですが、それは考えられないと思います。自宅で作業をしようと持ち出したようですし、本人がなくしたという認識を持っていますから」(前出の校長補佐)

 つまり、仕事熱心さゆえの逸脱行為であり、紛失を隠さなかった姿勢からも単純な過失とみているようだ。

 同校は創立133年の男子校。学校が公表する大学合格者数のデータによると、2021年は東京大学9人を含む45人が国公立大学に合格(現役、浪人あわせて)。医学部への進学も目立ち、難関私大の早・慶・上智には計101人が合格した進学校だ。

左から、暁星中学高等学校OBの香川照之さん、松本白鸚さん、北大路欣也さん、賀来賢人さん

 卒業生は各界の第一線で活躍中。岸田内閣の金子原二郎農水相(77)や歌舞伎役者の松本白鸚(79)、俳優・北大路欣也(78)、同・香川照之(55)、同・賀来賢人(32)ら著名芸能人は多い。

 ファッションデザイナーの菊池武夫さん(82)やコロナ禍でメディア出演の多い感染症専門医・佐藤昭裕さんも卒業生だ。

 同校によると、紛失の事実はホームページに掲載しただけでなく、生徒には校長から説明し、保護者には郵送で知らせるとともに、予定にあった少人数制保護者会で順次説明しているところ。USBメモリにデータが入っていた卒業生や教育関係者には、個別にお詫びの手紙を郵送したという。

 学校側は当該教員について、ベテランか若手かも含めて一切明らかにしていない。歴史のある学校だけに、一部卒業生といっても年齢の幅は広くなる。著名なOBのデータが含まれている可能性もあるため、同校からお詫びの手紙が届いていないか本人に確認をお願いしたところ、

 俳優の賀来賢人は「自宅にも実家にも学校からそのような連絡は来ておりません」と回答。

 同じく俳優の香川照之の所属事務所は「回答できません」とのことだった。

相次ぐ“刑事事件”やトラブル

 さて、同校ではここ数年、刑事事件をはじめトラブルが相次いでいる。

 2016年10月には高校1年の生徒が校内で同級生2人と教員をナイフで切りつけ、傷害容疑で現行犯逮捕。'18年夏の校外合宿中には、教員が中学1年の生徒に対して「おまえはクズだ」などと人格を否定する言葉で怒鳴りつけたほか、同年秋には教員間でイジメにつながりかねないやりとりが判明。

 2020年1月には中学サッカー部で暴行事件があった。今年2月にも教員がカギで生徒の頭を小突き、流血する騒ぎがあったばかりだった。

 USB紛失は、こうした“事件”の当事者生徒の情報が外部に漏れる危険性をはらむ。とりわけ刑事事件になった事案では、加害生徒が特定される情報が含まれていた場合、少年法の精神に反する重大事態となる。

 そうした心配はないか、ここ最近いろいろと問題が起きているが……と前記した事案を列挙して説明を求めると、

「お恥ずかしいかぎりです。申し訳ありません。ただ、2016年の事件の情報は含まれておりませんので」(前出・校長補佐)

 最近の事案については、一部情報が含まれていることを認めた。

 まずはUSB発見への対応を優先しながら、再発防止に向けた危機管理の強化策を検討中という。

 当該教員や監督責任者の処分については「それから先の責任問題はおそらく出てくると思っております」(同・校長補佐)と答えるにとどまった。

 なぜ、USBメモリ紛失にかぎらず問題が続くのか、騒動がのど元をすぎる前にしっかりと検証する必要がありそうだ。

 一方、生徒は紛失トラブルをどうみているのか。

USBメモリに入っていた個人情報で、最も人に知られたくないエグい項目はテストなどの成績らしいんです。外部の人が知ってもしょうがない情報が多かったみたいで、例えばゴミの収集がどうとかそんな情報も入っていたそうです。先生も人間だし、だれでもミスはありますよ」(同校生徒)

 生徒がすべてを知らされているとは限らないものの、大人顔負けの冷静さだった。