近年、ヒットチャートの上位に入る曲の尺(長さ)が、非常に短くなっている。11月9日に発表された『Billboard Japan Hot 100』チャートを見ると、1位を獲得したBE:FIRST『Gifted.』は3分41秒、2位にランクインしたINI『Rocketeer』は3分8秒。4分台、5分台の曲もあるが、半数が3分台以下だ。
『Billboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”』
2021年11月10日公開(集計期間:2021年11月1日~11月7日)
1位 BE:FIRST『Gifted.』3分41秒
2位 INI『Rocketeer』3分8秒
3位 優里『ドライフラワー』4分45秒
4位 back number『水平線』4分45秒
5位 Ado『阿修羅ちゃん』3分16秒
6位 Official髭男dism『Cry Baby』4分
7位 BTS『Butter』2分45秒
8位 優里『ベテルギウス』3分50秒
9位 BUMP OF CHICKEN『Small world』5分22秒
10位 YOASOBI『群青』4分8秒
ちなみに、この傾向は日本の曲に限ったことではない。上記のランキングで7位に入っている韓国発のボーイズグループBTSの『Butter』はなんと2分45秒という短さ。さらに、彼らが2021年に全米チャートで1位を獲得した他の曲をみても、『Dynamite』が3分19秒、『Permission to Dance』が3分8秒となっている。
これが長いのか、短いのかピンとこないという人もいるかもしれない。では、日本の音楽業界がもっとも元気で、「CDバブル」ともいわれた1990年代のヒット曲と比較してみよう。
以下は、90年代のなかでももっともCDシングルが売れた1997年の年間売り上げトップ10の曲とその長さだ。4分台の曲もあるが、10曲中8曲が5分以上、さらには6分以上の曲が3曲もある。昨今のヒット曲が昔と比べていかに短くなっているかがわかるだろう。
1位 安室奈美恵『CAN YOU CELEBRATE?』6分19秒
2位 KinKi Kids『硝子の少年』4分39秒
3位 Le Couple『ひだまりの詩』4分10秒
4位 globe『FACE』6分20秒
5位 SPEED『STEADY』5分18秒
6位 今井美樹『Pride』6分3秒
7位 TK presentsこねっと『You are the one』5分53秒
8位 Mr.Children『Everything (It's you)』5分20秒
9位 GLAY『HOWEVER』5分35秒
10位 SPEED『White Love』5分35秒
(オリコン発表 ※集計期間 1996年12月2日付 - 1997年11月24日付)
90年代のヒット曲の特徴について、音楽誌編集者はこう話す。
「90年代のヒット曲は、カラオケと密接な関係にありました。カラオケで歌うためにCDを買って練習した、そんな経験をした人も少なくないはずです。カラオケで歌って気持ちいい曲は、壮大なバラードや転調しながら何度も何度もサビが繰り返される曲。必然的に曲が長くなる傾向にありました」
1曲あたりの尺が長くなる理由はそれだけではないようで。
「著作権印税(著作権使用料)は、1曲の長さが5分以上10分未満の場合は2曲扱いになります。つまり5分01秒の曲が使用されると、2曲分の印税がもらえることになるんです。CDが売れる時代ですから、印税を増やすためにあえて5分以上になるように狙った作曲家もいたかもしれません」(同上)
最近のヒット曲が短い理由とは
ではなぜ、1曲が短くなったのか。それは、定額料金を支払うと何千万もの曲が聞き放題となるSpotifyやApple Musicなどの音楽ストリーミングサービス、いわゆるサブスクリプションサービス(サブスク)の影響が大きい。
「サブスクでは1回再生されると、権利者に約0.44円が支払われる仕組みになっています。かつてのようにCDが売れなくなった音楽業界では、いかにサブスクでの再生回数を伸ばすかが至上命題になりました」(音楽誌編集者)
サブスクでヒットを狙ううえでは、曲を短くするだけではなく、インパクトのあるイントロも重要になっているという。
「サブスクは聴き放題であるがゆえに、ユーザーは気に入らない曲が流れてくると次々とスキップします。ですが、多くのサブスクでは30秒以上再生されないと1回とカウントされない。このため、瞬時にリスナーの心をつかむ“飛ばされない曲”を作ることが重要なんです」(同上)
そこで用いられるのが、イントロをできるだけ短くする、さらには冒頭から歌いはじめる「ブレスイントロ」という手法だ。
先の「Billboard Japan Hot 100」を見ると、Ado『阿修羅ちゃん』と優里『ベテルギウス』、YOASOBI『群青』ははいずれもブレスイントロ。BTSの『Butter』は開始4秒、Official髭男dismの『Cry Baby』は開始9秒で歌い始めている。
首位を争ったBE:FIRSTの『Gifted.』は歌いだしは22秒からだが開始15秒からラップが入り、INI『Rocketeer』の歌いだしは17秒からだが冒頭からサンプリングボイスが入るなど、それぞれ冒頭からインパクトのある構成になっている。
和田アキ子もヒットパターンを踏襲
サブスクやYouTubeでの再生回数に大きな影響を与えると、音楽業界で注目を集めているのがショート動画プラットフォームの『TikTok』だ。
2020年に『NHK紅白歌合戦』出場を果たした瑛人の『香水』は、TikTokにて「歌ってみた」「弾いてみた」といった動画が相次いで投稿されたことがきっかけでブレイク。そのほかにも優里の『かくれんぼ』や『ドライフラワー』など、TikTok発のヒット曲が次々と誕生している。
「Z世代へのヒットを狙うため、TikiTokでバズりやすい構成の曲にするのは定石になりつつありますね。大事なのは15秒未満など短い時間でいかに耳に残って、覚えやすいフレーズをつくることです。
例えば、『現代用語の基礎知識選 2021ユーキャン新語・流行語大賞』にノミネートされた、Adoの『うっせぇわ』は歌詞自体もインパクトもありますが、曲の構成も計算しつくされています。曲のトータルの長さは3分24秒、歌いだしは開始1秒、そして『うっせぇ、うっせぇ、うっせえわ』と繰り返すサビの最初の8小節が11秒に収まっており、TikTokが当初設けていた動画投稿できる15秒以内にその要素を盛り込んでいます」(Webライター)
そのAdoを仕掛けたプロデューサーが手掛けた和田アキ子『YONA YONA DANCE』は、『TiKTok』での関連動画の再生回数が3億万回を超えるヒットに。この曲もトータルの長さが3分46秒、イントロから歌いだしまでは14秒、サビの最初の8小節が14秒という構成で、まさにヒットの定石に沿った作りになっている。
日本は世界と比べても、まだCDが売れる特殊な国。なかなかサブスクなど配信サービスに目が向かない傾向にあったが、今やヒットを狙うにはサブスク対策は必須。また、サブスク対策を強化することは、国内でのヒットを狙うだけではなく、世界のトレンドに対応することにもつながる。年末に増える歌番組、歌い出しやサビの短さにも注目してみるのはどうだろうか。