『日曜劇場/日本沈没ー希望のひとー』(日曜午後9時)の勢いが止まらない。世帯視聴率は11月7日放送の第4話まで毎週15%以上の高水準。連動する個人全体視聴率も高く、同9%以上が続いている(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。
主演を務めているのは厚生官僚・天海啓示役の小栗旬(38)。もっとも、やたら目立っているのが地震学者・田所雄介役の香川照之(55)だ。田所は関東沈没を真っ先に予言した人物である。
田所は異端の学者という設定で、もじゃもじゃパーマをかけ、古めかしい丸めがねをかけている。話し方はおどろおどろしく、これまでの香川が演じてきた人物のキャラクターとはかなり異なる。
「パーマを始め、田所のキャラクターはほとんど香川さん自身が考えたものです」(TBSドラマスタッフ)
役づくりにここまで入れ込む役者も珍しい。香川が『日曜劇場』に思い入れを抱いているせいもあるのだろう。
10本以上の『日曜劇場』に出演
香川は役者デビューから32年目になるが、『日曜劇場』への登場は『日本沈没』で11作目。もはや“ミスター日曜劇場”と呼んでもいい存在だ。出演作を簡単に振り返ってみたい。
『新参者』(2010年)、『南極大陸』(2011年)、『半沢直樹』(2013年・2020年)、『ルーズヴェルト・ゲーム』(2014年)、『流星ワゴン』(2015年)、『99.9―刑事専門弁護士―』(2016年・2018年)、『小さな巨人』(2017年)、『集団左遷!!』(2019年)。
どうして『日曜劇場』への出演が多いのか。調べて見ると、香川の母・浜 木綿子(86)と今もTBSの現役プロデューサーである石井ふく子さん(95)との関係が発端だった。
「浜さんは石井ファミリーの一員で、数々のドラマに出ています。このため、香川さんが役者を志した際も石井さんに相談したんですよ。石井さんは面倒見のいい人なので“私に任せて”ということになったんです」(同・TBSドラマスタッフ)
香川は石井さんのプロデュース作品でデビューすることに。故・大原麗子さんが主演した単発1時間作品『空き部屋』(1988年)である。
「実はこの作品も『日曜劇場』なんですよ。香川さんの出演作は11本ということになっていますが、石井さんがプロデューサーで単発作品ばかりやっていた1993年までの旧『日曜劇場』時代の作品も加えると、出演作は16本あるんです」(同・TBSドラマスタッフ)
香川にとって役者としての出生地は『日曜劇場』なのである。道理でなじんでいるわけだ。
「1994年から連続ドラマになった新『日曜劇場』で、香川さんが初めて出演したのは『新参者』ですが、このプロデューサーは『半沢直樹』と一緒なんです。『新参者』で香川さんは律儀な生保会社社員を好演し、プロデューサーと気も合ったようなので、『半沢直樹』にも起用されたのでしょう」(同・TBSドラマスタッフ)
東大時代にはADのバイトも
香川の演技の評価が高いのは知られている通りだが、明るくて周囲への気配りも忘れないからスタッフ受けもいいのだ。
「『ルーズヴェルト・ゲーム』『流星ワゴン』などのプロデューサーも『半沢直樹』と一緒なんです。プロデューサーが演技力を買い、ウマも合う役者を続けて使うのは珍しいことではありません」(同・TBSドラマスタッフ)
香川と『日曜劇場』の関わりはまだある。東京大学文学部の卒業を控え、役者になることを決心した時期、『日曜劇場』も撮っているTBS系列の緑山スタジオ(横浜市)でアシスタント・ディレクターのアルバイトをやっていたのだ。
「アシスタント・ディレクターは制作現場の雑用係。縁故がないと出来ませんが、これも石井さんの肝煎りで決まりました」(同・TBSドラマスタッフ)
もともとは浜が香川に「役者になるのなら、裏方さんの苦労を知ったほうがいい」と助言し、石井さんに仲介を頼んだ。これにより、香川はスタッフたちとも知り合いになった。その人柄から、アシスタント・ディレクターとしても評判は良かったようだ。
こういった香川の軌跡を知ると、“ミスター日曜劇場”となったのもうなずける。『日曜劇場』はファミリー向けの作品が多く、それも香川の役者としての特性に合ったはずだ。ラブコメが多い放送枠だったら、事情は違っただろう。
香川は10月からはTBSの情報番組『THE TIME,』(平日午前5時20分~同8時)のキャスターも務めている。
毎週金曜日のみとはいえ、早朝から2時間40分の長丁場だ。売れっ子役者がやる例はあまりない。
これも『日曜劇場』が関係するのだろうか。
「いや、これは違います(笑)。9月末で終わった『ぴったんこカン・カン』の女性チーフ・プロデューサーを香川さんは大いに買い、信頼していた。だから、この番組には頻繁に出演していた。
実は『THE TIME,』のチーフ・プロデューサーは同じ女性なんです。このため、『ぴったんこカン・カン』の司会だった安住紳一郎と常連ゲストの香川さんが、そろってキャスターになるという離れ業が実現しました」(同・TBSドラマスタッフ)
新人クラスから大物まで、スタッフと付き合わない役者は少なくない。
だが、香川は正反対。スタッフたちと積極的に接している。それが成功の一因に違いない。
高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立