「意中の男性をオトすには胃袋をつかめ」という“格言”のように生きていく中で食事は大切な部分。 しかし、夫婦の“口の相性”が合わなかったら──。人間の3大欲求のひとつ、食欲をめぐる夫婦の実態に迫る!
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『妻の飯がマズくて離婚したい』という4コマコミックが、子育て中の母親向けサイトで話題となっている。
結婚8年目、3人の子育てに奔走しながら、子どもたちの教育費を捻出するためにパートで働き、節約に励む妻。料理がもともと苦手で、母の口癖だった「お腹に入ればみな同じ」を言い訳に、ワンパターンの料理を食卓に出し続けていた。しかし、夫が隠れて外食していたことを知り、激怒すると、「飯がまずい、離婚も考えている」と、夫から言い返されてしまう。この夫婦の危機は回避されるのか、それとも離婚なのか──。
“妻飯”問題は、コミックの世界だけにとどまらない。世の中には夫婦の事情こそ異なるが、「妻の飯がまずい」という理由で離婚問題に発展することもあれば、実際に離婚した夫婦もいるのだ。
料理しない私を受け入れた夫が心変わり
「自分の料理は美味しくない」と自覚していた外資系勤務の博美さん(仮名・40歳)。夫(35歳)は飲食店勤務で、いわば食事の“プロ”だ。
「結婚前、1年間同棲していたころは、仕事が激務で帰宅が遅い私の代わりに、彼が料理を作ってくれました。プロポーズされたときに、“美味しい料理を作れないよ。それでいいの?”と尋ねたんです。すると彼は“これまでどおり、僕が作るから”と言ってくれたから、結婚を決めました」(博美さん、以下同)
親が経営する飲食店で働く夫は、夕食が店のまかないのため、平日の夜は一緒に食べることがなかった。夜10時過ぎに帰宅する博美さんのために、夫が店で残った惣菜を使って簡単に料理してくれたという。
「土日は外食していました。彼と一緒にグルメの食べ歩きはとても楽しかったです」
ところが結婚して2年もたたないうちに、夫は「お茶ぐらい入れてよ」と要求するようになった。博美さんがティーバッグでお茶を入れて出すと、その入れ方にもケチをつけたという。
「結婚3年目、コロナ禍になると店が休業。夫が働く飲食店は、デリバリーや通販のサービスなど新しいビジネスをスタートしました。店が休業していても、夫は実家で両親や兄夫婦と一緒に夕食を食べ、夫婦間に少しずつすきま風が吹き始めて……。
年が明けると離婚を切り出されました。理由は“自宅で焼き魚を一生食べることがないのは寂しいから”。結婚前に“料理しないよ”の私を受け入れたのに。何度話し合っても平行線でした」
現在、離婚協議中という博美さんと夫の「妻飯問題」は、コミック『妻の飯がマズくて~』に似ている。博美さんが「食事を楽しみたい」という夫の気持ちを理解できなかったこと、夫も博美さんに理解してもらうように努力しなかったことが原因なのだろう。
外食はアリバイ作り!? 不倫の代償は高くつく
一方「飯マズ問題」をいいことに不倫をしていた夫を、逆に手駒にとった強者の妻もいる。IT企業でSEのディレクションを担う優美香さん(仮名・39歳)は、元上司だった夫(42歳)と結婚10年目。優美香さんは「料理が苦手」を夫に容認してもらって、結婚した。
夫と共通の趣味は筋トレ。休日は夫婦一緒にスポーツクラブで汗をかき、夕食はグルメが集う評判の店で食事を楽しんだ。
「常に外食でした。子どももいない共稼ぎの夫婦なので、私が料理をしないことに対しても文句ひとつ言わない、いい夫でした。義母は料理上手で、たまに夫の好物を作っては送ってくれて。とても美味しくて、助かりました」
料理上手な義母の“差し入れ”にも助けられ、夫ともいい関係を続けていた優美香さんだが──。
「夫が、転職した会社で27歳の女性社員と不倫していたんです。ときどき帰宅が最終電車になるし、様子が変だったので、スマホをチェックしたら不倫相手とホテルでツーショット写真が……」
外食が当たり前の生活で、帰宅が遅くなっても不倫しているとはバレない、と夫は思ったのかもしれない。激怒した優美香さんは、夫が得意先と会食する予定の日、夕方ごろに会社を出ると聞いていた。
「不倫相手と会うのかもしれない」
と思った優美香さんは、会社を早退。夫の会社の最寄り駅で張り込み、夫の愛人を見つけると「泥棒猫!」とビンタした。
「驚いた彼女は、私が妻だとわかると、駅と反対側の方向に逃げていきました。そのとき駅には大勢の人がいましたが、私は不倫相手に一矢報いた達成感と高揚感の中、見て見ぬ振りをする人たちの間をぬい堂々と改札を通って、ホームに向かいました(笑)」
事の成り行きを知った夫は、優美香さんにひたすら謝ったという。
「夫の不倫相手はすぐに退職したそうです。でもまた同じようなことが起こるかもしれないので、子どもを作ってパパになってもらうことを夫に承諾させました」
1年半の不妊治療で妊娠した優美香さん。出産しても仕事を続けたいため、ハウスキーパーを雇うことも夫に承知させた。
「夫はハウスキーパーを雇う料金を捻出するため、死ぬほど働くと約束してくれました。このことが不倫するヒマを与えない結果にもなりました」
今年に入ってから、夫は役員に昇格した。結果として料理を作らない妻は、夫を出世させたのだ。
料理学校で覚えたのは料理ではなく不倫の味
また料理しない妻が、夫に一家の料理担当をさせたというケースもある。
看護師の聖子さん(仮名・45歳)は、10年前に2年間同棲していたメーカー勤務の男性(47歳)と結婚。同棲中から、休日になると男性の実家で料理好きな母親の手料理を食べさせてもらった。味覚オンチの聖子さんには「マメなお母さんが作る料理」で、特別な意味があるとは考えもしていなかった。しかし──。
「結婚してから、彼の母親の手料理の意図を聞いて驚きました。“聖子さんに、私だって美味しい料理を作ってやると発奮させたかった”というんです。でも、仕事が終わって帰宅するとくたくた。途中で買った弁当屋の惣菜で私は満足できましたが、夫は不満だったようです」(聖子さん、以下同)
母親のような料理を作ってもらいたいと夫は再三、聖子さんに頼んできた。だが仕事で疲れて帰宅した聖子さんには、そんな気力すらない。すると夫は「せめてお茶ぐらい」と責め立てる。
夫の思いやりのなさにキレてしまった聖子さんは「料理ぐらい自分で作って! お茶くらい自分で入れて! 自立して!」と、ネットで見つけた料理教室に夫を入会させ、自立を促したという。
「ところが夫は料理教室で知り合った10歳年下の女性と不倫したんです。相手は港区の資産家のひとり娘で、お嬢さま学校を卒業したOL。しかも夫は私と離婚して、その女性と再婚しようとしていたこともわかったんです」
ふたりに“鉄拳制裁”まで考えていた聖子さん。しかし、相談した夫婦問題の専門家の言葉で冷静になれた。
「“感情的になったら負け”と諭され、さらに“離婚したいですか、それとも夫に女性と別れてもらって、やり直したいですか”と尋ねられました。不倫は許せないけど、離婚の後に相手と夫が再婚するのも腹立たしい。ひとまず離婚は保留にして、夫の不倫の証拠を集めました。彼女と別れさせるためです」
そして聖子さんは、夫に不倫の証拠を突きつけ、相場以上の慰謝料を提示した。すると夫は「離婚は難しい」と断念したという。
「不倫相手と別れ、料理教室もやめた夫は、実家の母親から料理を習いました。
やはり夫を愛していたのだ、と思います。味覚オンチの私でも夫の料理が美味しく感じるようになって、夫に感謝すると、夫婦関係も改善され、妊娠しました」
長女が誕生すると、家庭が明るくなった。夫は引き続き料理担当で、長女も夫の料理を絶賛しているという。
ホームパーティーで夫は出世したが
皮肉なことだが妻の飯がまずくて離婚の危機にある夫婦と真逆に、「妻の飯が美味しすぎて夫が離婚してくれない」という妻の悩みもある。
通信機器メーカーに勤務する百合さん(仮名・47歳)は2児の母親。15年前に結婚してすぐに夫と離婚したくなったと当時を振り返る。
「私は母親譲りの料理上手で、夫と付き合う前にも、ほかの男性から褒められました。夫も料理上手の私と出会ってすぐにプロポーズ。周囲から私が胃袋をぎゅっとつかんだから、一部上場企業の優秀な男性と結婚できたと羨(うらや)ましがられました」(百合さん、以下同)
だが百合さんは1年もたたないうちに、結婚を後悔したという。
「週末になると、夫が会社の人や自分の友達を招いては、ホームパーティーをやるんです。そのたびに私は料理当番。夏休みはなんと1週間毎晩パーティーで、くたくた。共働きだったので、土日はゆっくりとしたかったのに……」
しかし、パーティーがきっかけで夫は上司と親しくなり、重要なプロジェクトのメンバーに抜擢(ばってき)されるなど、ホームパーティーが出世に重要な意味をもっていたのだ。百合さんは「やめたい」と言えなくなったという。
平日は共働き、土日のどちらかは夫のホームパーティーのための料理担当。週6日働く百合さんの疲労はピークに達し、その年の暮れにとうとう倒れてしまった。
「そのころ、すでに離婚を考えていました。私の父は、娘を出世の道具に使うなんてと激怒しましたが、夫のプライドを傷つけると離婚もうまくいかないと思って、父に夫婦で話し合いをさせてほしいと頼みました」
夫に過労の原因を伝えると、
「一緒にパーティーを楽しんでくれていたと思っていたよ」
夫の無神経さに限界を感じた百合さん。離婚を切り出すと、意外なことに「百合以外の人の料理を食べたくない」と態度が一変。
「夫は平謝りに謝って、ホームパーティーをやめて結婚生活をやり直したいと反省してくれて。そんな夫の熱意に押されてしまい、離婚は取りやめになりました」
2年後に子どもが生まれ、百合さんが子育てに専念したいと退職。すると夫は高校の後輩の女性がオーナーのワインバーに通うようになったという。百合さんは「浮気したら離婚する」と、ときどき夫に宣言しているせいか、今のところ浮気の兆候はない。
浪費&不倫の夫だが妻の料理は手放さない
こういった「妻の料理が上手すぎて離婚してくれない夫」は、中高年の世代にも多く見られる。パートから契約社員に昇格したアパレル会社勤務の理恵さん(仮名・52歳)は、2人の息子が社会人になってから、夫(58歳)に離婚届を差し出した。
「離婚を決めたのは10年前ぐらい。原因は夫の浪費と浮気です。見栄っ張りの夫は、後輩や会社の部下だけでなく、近所のボウリング大会で一緒だった若い女性たちにおごってばかり。生活費を入れないこともあって、そのたびにやりくりをしてきましたが、息子の彼女ぐらいの若い女性と浮気したことがわかって、キレました」(理恵さん、以下同)
それから10年間。パート代を貯金し、離婚後の生活に備えて頑張ってきたかいがあって、正社員になる夢こそ叶(かな)わなかったが、契約社員として責任あるポジションを任されたという。
「やっと離婚できると喜んでいましたが、夫が承諾してくれません。理由は私の料理がヘルシーで美味しいからだというのです」
次男が小さいころにアトピーになってから、理恵さんはヘルシーで子どもが美味しく食べてくれる料理を作り続けた。結果的に夫の健康も維持されていたのだ。
「夫の同級生たちのほとんどががんや心筋梗塞、高血圧など、生活習慣病を患っていますが、夫は少し血圧が高いだけで、降圧剤も飲んでいません。健康維持は私の料理のおかげだと感謝し、絶対に離婚しないと言い張るのです」
夫は息子たちに泣きついて一緒に理恵さんを押しとどめようとしたが、夫の感謝の気持ちは遅すぎた。理恵さんは夫が離婚届に判を押さないなら、家を出ていく覚悟だ。
たかが食事、されど食事。食べるという“口の相性”を甘く見ていると、思いもよらぬところでつまずく人生もあるのだ──。
(取材・文/夏目かをる)
初出:週刊女性2021年11月23日号/Web版は「fumufumu news」に掲載