「(収益は)同級生にも、子どもにも言えないですね。いやらしくて。まともに働く意欲を削いじゃうかなって(苦笑)」
名古屋発の人気ラッパーの呂布カルマ(38)。数多くのMCバトルで優勝し、日本一にも輝いている。最近は『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)や『相席食堂』(ABCテレビ)などのバラエティー番組やドラマなどにも出演、活躍の場を広げている。
呂布カルマが語る「切り抜き動画」
その活躍の場、本人の言葉を借りるなら“楽して稼げる場”が、YouTubeの切り抜き動画だ。今現在、YouTubeではこの切り抜き動画が非常にバズっている。
『2ちゃんねる』創設者“論破王”こと西村博之(以下、ひろゆき)の切り抜き動画は、月間で3億回超の再生数を叩き出している。呂布カルマも、自身のチャンネルでライブ配信した動画が切り抜かれ、それが100万回再生されるなど、人気だ。
切り抜き動画とは――ライブ配信などの長時間動画を、第三者によって特定の場面のみを切り抜いて編集し、再投稿された動画のこと。
ライブ配信をやっている有名人やアーティスト、文化人などの元となる動画を投稿者ではない第三者によって投稿される。そのため著作権という観点から見れば、これらは厳密に言えば違法であり、元動画の投稿者が訴えることで、刑事事件に問うこともできる。
が、しかし。現在のYouTube界は、“一定の条件”を第三者に課すことで、切り抜き動画の投稿を、公認もしくは黙認しているケースが非常に多い。公式に認める場合は正式な契約を結んだり、または口約束の場合も。
条件は、その多くが“収益を折半すること”だ。ひろゆきの切り抜き動画チャンネルは数多くあるが、それらのチャンネルの収益はすべて半分が著作権保有者であるひろゆきに渡る(正確には、ひろゆきの動画は、彼自身ではなくニュースサイト『ガジェット通信』が管理しているので、さらにその両者間で契約がある)。
自身のYouTubeチャンネルでは、基本ライブ配信のみを行い、その動画がいくつもの“切り抜き動画チャンネル”に切り抜かれているのが、冒頭のラッパー・呂布カルマ。彼がYouTubeをはじめたキッカケとは。
「知り合いのYouTuberの子がいて、彼から勧められてって感じですね。それまでインスタライブはやっていたんですが、その動画が切り抜かれてYouTubeに上げられていた。それに対して彼から“自分でYouTubeで配信やったほうが儲かりますよ”って言われて。そうなんやって。始めました」(呂布カルマ、以下同)
YouTubeを始めて間もなく、呂布カルマの動画は切り抜かれはじめる。
「YouTubeでライブ配信を始めて、それの切り抜き動画がワーって出てきたんで、その切り抜き動画のコメント欄に直接、“勝手に切り抜きすんなよ。連絡してこい”って全部送りました」
ひろゆき、メンタリストDaiGoなど、切り抜かれる側の有名人は多いが、彼らは正式に契約を結ばせたり、YouTubeの『Content ID』という、著作権者がYouTube上の自身のコンテンツを容易に特定し管理できるシステムを使うことが多いが、呂布カルマ自身は非常にアナログなスタイルを取っている。
「とりあえず最初の1か月間は勝手にやってもいいから、1か月間やってみて、収益化が出来そうだったらそのまま続けていいし、収益化が出来なそうだったら、チャンネルごと消して下さいっていう約束をさせて、やらせてますね。
まず最初に10個くらいの切り抜き動画のチャンネルがあったんですけど、なんやかんややっぱり収益化出来なくなってくる。それで今、5、6個残ったって感じですね」
切り抜き動画に対する条件
基本的にすべてを許可しているが、ひと月で収益化に至らないチャンネルはどの程度あるのか。
「いや、ほとんどですね。ほとんどが1か月保たない。(収録時間の短い)切り抜き動画とはいえ、動画を切り抜いて、字幕を付けて、手間かけて、1か月やってお金にならんって辞めていきますよね。
でも、ぼんやりやっていた収益化されていないチャンネルが、ぼんやりとYouTube上に残されているのは嫌なんで、チャンネルごと消して下さいってしてますね」
切り抜き動画チャンネルに課す条件は。
「収益の半分を毎月振り込ませてます。YouTubeの収益の画像を送らせて、半分振り込ませるっていう、すごいアナログな方法なんですけど(笑)。それくらいですね。
あとは切り抜き方にちょっと悪意があったり、サムネイルで釣るような文言が入っていたりすると、直接メッセージで“直せ”って送って。どれだとは言わないんですけど。“わかるっしょ”って(笑)。ダメだよと」
自身が切り抜かれた動画は、逐一チェックするのだろうか。
「切り抜かれた動画の中身までは見ないですけど、だいたい自分のYouTubeでライブ配信した翌日とかに(切り抜き動画が)あがる。どこを切り抜くかは自由なんですけど、話していないラッパーの写真を勝手に使っていたり、悪口を言っているように見えるようなものに気づくと……叱ります」
前出の『Content ID』を使えば、アナログな方法を使わなくても管理できるようだが……。
「出来るっぽいんですけど、ちょっとだけ調べてもらったら、割とそれはそれで面倒くさいことが多くて。そういう管理をウチでやりますよって会社から2、3件連絡があったんですけど、まだ自力で出来るんで大丈夫ですって断りましたね」
YouTubeで楽して稼げてる?
呂布カルマ自身のチャンネルの概要欄には、ひと言「楽して稼ぐには?」とある。実際YouTubeで、楽して稼ぐことはできていると思う?
「むちゃくちゃ思いますね。ほかのYouTuberの人たちは、ちゃんと企画出して、撮影して、編集してってやってる。こっちは自分がしゃべってる元の動画を勝手に切り抜いてもらって、黙っててもその半額が入ってくるんで、めちゃくちゃ楽っすね」
多くが“収益を折半”としているが、別に決まりはない。極端に言えば9:1でもいい。
「全然できます。でもさすがにそれやっちゃうと、そいつも儲からないし、まぁ半分くらいでいいかなって感じですね」
呂布カルマは、YouTube以前はInstagramでライブ配信を行なっていた。インスタライブはYouTubeのライブ配信と違い、スパチャ(=スーパーチャット。投げ銭システム)がない。
彼のYouTubeのライブ配信は、スパチャをした人の質問に答えるというスタイルだ。呂布カルマは以前より、Instagramでコメントしてくる者に対し、“民度が低い”と苦言を呈してきた。YouTubeはどうなのだろうか。
「たぶん一緒なんですけど、無料でコメントしてくる奴らの民度が低い。冷やかしみたいなのが多い。でもYouTubeは(投げ銭をしていない)色の付いていないコメント読んでいないんで。でも(YouTubeもInstagramも)たぶん同じだと思います。インスタはスパチャがないんで、全員が無料で、しょうもないコメントしかないです。下ネタとかそんなんばっかで」
しかし、YouTubeでもわざわざ金を払ってしょうもないことを言ってくる者も……
「多少いるすね。絡むっていうか、俺に誰かの悪口を言わせたいんだろうなって意図が見えてたり、あとは本当にしょうもない下ネタを言ってくることも全然ある。でもそれはそれで、わざわざお金払ってまで、しょうもない下ネタを俺に送ってくるっていうのが、面白いと思ってます」
今年から始めたYouTube。こんなにも収益になると思っていたのか。
「いや、思ってなかったです。俺に教えてくれたYouTuberの奴が、どれくらい儲かってるっていう話を聞いて、こいつでそれくらいなら、俺はもうちょっといけるだろうなってのは思ってました。あんな誰だかわかんない奴でもそれくらいの額になってるんだ、じゃあ俺はもうちょっといけるなって」
“切り抜かれる側”として、現在の切り抜き動画ブームはどのように写っているのだろう。
「音楽でもなんでもそうですけど、(時間のかかる)長いコンテンツは消費するのが大変になってきて、短いのでサクッとってのは(時代に)合ってるんだと思います。
しかも切り抜きは字幕が付いてるんで、なんなら音消して画面だけ見ててもわかる。別に切り抜き動画1本1本が抜群に面白い必要もなくて、習慣としてボーっと見るみたいな。ちょうどいいんだろうなって思います」
同じく切り抜かれる側として、配信で注意していることなどはあるのか。
注意していることと、ウケるためには
「切り抜かれる側が、切り抜かれる前提のもとに、どう切り抜かれてもいいように話さなきゃいけないと思います。(元の配信動画を)全部を聞いてほしいとも思わないし、切り抜かれるってわかったうえで、しゃべっていれば問題ないのかなと。
ただ、ほんとバランスなんですけど、下ネタを言っちゃいけないわけじゃないし、悪口を言っちゃいけないわけでもない。究極のところ、嫁さんも見る可能性があるってのを念頭に置いてますね(笑)。
言えないことというか、言っちゃいけないことってやっぱあるし、なるべく1人でテンション上げずに、淡々とっていう。お酒もそうですね。1杯2杯くらいならいいんすけど、酔っ払ってやるのは絶対良くないなと思いますね」
切り抜き動画ブームの今、どういう人が切り抜き動画でウケるのか。
「ひろゆきさんのを最初に少し見たくらいで、他の人の切り抜き動画を見てるわけじゃないんですけど、まぁ前提として話が面白い奴。何を話しているかは、たぶんどうでもよくて、そいつが話しているのを聞いて不快じゃないっていうか。
テンションがすごい高くて、ワーって笑いを取りにくるしゃべり方とかは、ずっと見てられないっちゅーか。そういうのを好きな人もいるだろうけど。作業中にぼんやりラジオかけてるみたいなノリで聞けるくらいなのがいいんだろうなって思います」
自身の切り抜きチャンネルに限定して、“成功する人・しない人”とは?
「単純に早いもの勝ちなんだと思いますね。収益化するのって1000人の登録者が必要。結局5、6個のチャンネルが同じとこを切り抜いたりするんですけど、そこに新規で入ってきた奴が同じところを切り抜いて出しても、まぁあんまりなわけで。
単純に早いもの勝ちで、今残っている人たちがめちゃくちゃいい編集が出来てるかっていうとそういうわけではない。動画の性質的にも、ガチガチにテロップを入れたりとか、編集みたいなことをそれほどする必要がない。
むしろしない方がいいんで、切り抜き動画としてチャンネルの色は出しにくいと思う。だから(生配信後、すぐ動画を出すとか)ほんとに早いもの勝ちだと思いますね。俺はいつも深夜に配信するので、それをその場で速攻切って朝までに何個か上がってるという状態なので。だから“勤勉な奴”が勝つって感じだと思います」
その“勤勉な奴”は、儲けている?
「再生数100万回を超える動画が何個か出た月は(結構な額が入っている)。会ったこともない、俺からしたら顔も知らない奴が、俺の切り抜きをやってて、“こんなにもらってんの”って思う月もあったっすね。でもやっぱそこって、跳ねる月もあれば、そうでない月もあるんですけど。だとしてもすごいなって思う月はありますね」
まとまった金額が動くが、あくまでネットでのやり取りのみで、正式な契約書などもない。収益を画像で送らせるというやり方のため、過少申告をすることも出来なくはないが……。
「そんなことをしてほしくないけど、そこまでするならしょうがないというか。でもこっちが疑ったら(そのチャンネルは)終わりなんで。疑われないように、バレないようにやってくれるならまぁいいですね。
もともと“無いお金”なんで。100万円ちょろまかしてたりすればさすがにわかるけど、せいぜい何十万円とかだったら……ないほうがいいんですけど」
取り締まりを強化することもできるが、それは自分の労力になる。“楽して稼ぐ”にはならない。
「趣旨が変わってきちゃう(笑)。なんかこいつ面倒くさそうだな、嘘ついてそうだなってこっちが思ったらチャンネルごと消しちゃったほうが楽っていうか。
なので(切り抜き投稿者に対し)常に俺がギロチンの紐を持ってる状態ってことを相手に知らせとく。友達でもないし、別に感謝もしてないし。あくまでやらせてあげてるだけ」
呂布カルマ自身が疑うことがあったら、即終了。切り抜きチャンネルに対しては、“疑わしきは罰するスタイル”だ。
「そうなんですよね。こっちから(その月の収益を)催促したり、今月どうなってる? とかも“させんなよ”って話だし。そういう“上下”をハッキリさせとくっていうか」
疑わしきは罰するスタイルは、監視体制も生んだ。
「切り抜きチャンネル同士でお互いを相互監視させてるんですよ。他のチャンネルについて“こういうサムネイル作ってましたよ。大丈夫でしょうか?”とか報告してくる。
これをさせておくと楽ですね。“ルール破ってる奴います!”とか(笑)。競合がいなくなると(自分に再生回数が回ってくるので)自分の得になる。これすると楽っすね」
切り抜かれる側として、自分より下の立場である切り抜きチャンネル運営者たちの“生殺与奪権”を握っている。
「“オッケー、よく教えてくれたね”っつって(笑)。“新しいチェンネル上がってます!”とかもありますね」
切り抜きはお金になるということで始める者が多いが、一方で違う考え方の者も。
「切り抜きで小銭を稼いでやろうじゃなくて、ほんとに自分のファンでいてくれて、“呂布さんの魅力を伝えたいです。ほかの人が切り抜いていないこういうところを切り抜きたいです”みたいな熱意のある人もいます。
でも案の定1か月で収益化出来なくて、“すみません……1か月やってみたけどダメでした……。でもこれから先も応援させてもらいます!”って。“お、お疲れっす”みたいな感じになって(笑)。でも結構多くて、そういう人には、お疲れさまです……って思いますね。そんな熱意を持ってやることでもないのになって思いながらも(笑)」
今後もこのスタンスでYouTubeを続けるつもりだという呂布カルマ。
「人からの質問に答えるというスタイルをやっている以上は、ネタ切れもない。でも、聞かれてもいないのに、“最近の○○について話す”っていうのは寒い。
“聞かれたから答えたんだよ”ってスタンスだと、割と何でも言える。聞かれてもないのに物申すみたいな、“インターネットご意見番”は嫌で。寒って思うんで。(YouTubeによって)認知は増えた気がします。
“切り抜き見てます”って言われる回数も増えたんで。それこそMCバトルも見ていないし、ヒップホップも聞いてないけど、切り抜きで知って興味持って、作品のほうに来てくれるっていうのもあるんで、どんな形でも目に触れるっていうのは良いことなんで」
まだまだ続きそうな切り抜き動画ブーム。あなたは切り抜く側になりますか? それとも切り抜かれる側を目指しますか?
■公式You Tubeチャンネル
【公式】呂布カルマ沼
https://www.youtube.com/channel/UC09aZDuZfdu_zdzBZ9d4lcw
■公式Twitter
https://twitter.com/Yakamashiwa