左から川島明、谷原章介、香川照之、安住紳一郎

 新型コロナ、衆院選、芸能ニュースに生活情報……。さまざまなジャンルの話題を扱う情報番組には、それぞれの「顔」ともいえるMCがいる。

 今年に入ってから、民放キー局では新たに3つの大型番組がスタート。さらに、『報道ステーション』(テレビ朝日系)には、元NHKの大越健介がメインキャスターに就任し、『あさイチ』(NHK)では3月にNHKを退局した近江友里恵アナに代わって鈴木奈穂子アナが司会に就任した。

 各局の大きな変革とともに現れた“新しい顔”たちの活躍ぶりを、テレビ業界に精通するコラムニストのペリー荻野さん、芸能レポーターの川内天子さん、漫画『だめんず・うぉ~か~』の作者でコメンテーターとしても活躍する倉田真由美さんの3人に、それぞれ10点満点の“通信簿”形式で論評してもらった。

 1人目は、3月にスタートした『めざまし8』(フジテレビ系)で総合司会を務める谷原章介。

スマートな司会ぶりは想像どおりでしたが、意外とご自身のことを発言しますよね。お子さんを持つ父親としての言葉には説得力があるし、プライベートなことも話してくれるのがいい。あとはエンタメの話題に触れるときに、俳優である谷原さんならではの経験、人脈を活かしたコメントがあるともっとよくなりますね」(ペリーさん)

 川内さんも、谷原が見せる“パパの顔”を高く評価。

「お子さんが6人もいらっしゃいますから、パパとしての具体的な奮闘エピソードなどもぜひ聞いてみたいと思いますね。そういったコーナーができるといいなと思います」

主張しすぎて裏目に出る谷原

 爽やかに総合司会をこなす谷原だが、意外なところに弱点があった。

「『王様のブランチ』や『アタック25』などでも司会を務めた経験があって、自分の思ったことを口にすることに慣れています。ただ、それが裏目に出て失言のように取り上げられ、注目を集めてしまうこともしばしば」(川内さん)

 倉田さんも、その点を懸念している。

MCが偏ったことを言うのは危険だし、言うならクレームなどを受け止める覚悟が必要。『めざまし8』には橋下徹さんや古市憲寿さんなどクセのあるコメンテーターが多いので、あまり主張が強くないほうが合うような気がします」(倉田さん)

 3人による採点の合計は24点。総合司会としてリスクは管理しつつ“俳優”や“父親”といった肩書の強みを伸ばせるかが鍵だ。

 2人目は、10月から始まった『THE TIME,』(TBS系)で月曜~木曜の司会を務める安住紳一郎アナ。

“しゃべりのプロ”だと思わされますね。決して安住さん自身がすごく面白いことを言うわけではないんだけど、ちょっとした言い回しなどにとても好感が持てて、耳ざわりがいいです」(倉田さん)

 しかし、番組にはそんなプロフェッショナルの安住を困惑させる存在がいる。

「オリジナルキャラクターの『シマエナガちゃん』が出てきますが、かわいらしいキャラクターって、安住さんは苦手だと思うんです(笑)。それを朝から彼にぶつけて、困ったりする様子が見られるのが面白いです」(ペリーさん)

10月からスタートした『THETIME,』。初回放送では、安住紳一郎アナと香川照之の2人が共演して話題に

 隙が見えるところが番組の魅力にもなっているが、川内さんは少し物足りない様子。

安定感は抜群ですが、安住さんの“朝ならではのよさ”がいまひとつ見えてこないなと感じます。期待が高かったぶん、まだ少し消化不良な部分がありますね。朝の番組では短い時間で視聴者を惹きつける必要があります。もっと自分らしさを出していって“朝の安住さん”の魅力を見せてほしいなと思います」

 “安住らしさ”を出せるようペリーさんはこう提案する。

「私見を話すコーナーができたら、より面白くなるんじゃないでしょうか。安住さんがどんなことに着目し、何を考えているのか知りたい人は多いはず。“あくまで私個人の考えですけど……”なんて前置きをしながら発信できるコーナーがあればなと」

 合計点数は23点。TBSのエースは期待されるぶん、求められるハードルも高い。

毎日は見たくない“香川劇場”

 この『THE TIME,』の“金曜司会”を務めるのが、俳優の香川照之。

「印象に残っているのが、衆議院選挙前の放送。若者世代に向けて“選挙に行きましょう!”と投票の大切さを朗々と語ったんです。まるでドラマや映画の長ゼリフのシーンのようで、番組が伝えたいことを自分流に言い切るのはさすが。まさに“香川劇場”でした」(ペリーさん)

 アナウンサーにはまねできない説得力を持つ香川。ただ、朝の顔となると“金曜限定”でよかった部分も!?

「面白いけどキャラクターがとても強いから、毎朝見たい顔ではないかも(笑)。1日だけポイントになる日があるのは、いいアクセントになりますよね」(倉田さん)

 “金曜の顔”を務める名優も、キャスターの仕事には戸惑うこともあったようで……。

「初めのころは緊張していて“あの香川さんでも”と思いました。役者の仕事はセリフを覚えたり事前に準備ができるけど、ニュース番組は直前になって進行が変わったりするので準備のとおりにいきませんからね。でも、役者・香川照之ではない素の姿が、見ていてとても楽しいです。最近では強烈な演技が“もはや顔芸”とも言われていましたが、演技ではない素の表情、いわば“素の顔芸”が見られるのは番組の大きな魅力です」(川内さん)

 合計点は25点。歌舞伎、昆虫、ボクシングと新たな領域を見せ続ける千両役者から目が離せない。

 TBSで『THE TIME,』の後に続く『ラヴィット!』は、3月末から放送がスタート。MCは、お笑いコンビ・麒麟の川島明。

「とても器用な人で、MCに選ばれたのも納得。ほかの番組とは違う路線でやっているのも、私は評価したいなと思います。ただ、芸人さんが多い番組を朝から見たいという人はまだ多くないから、その部分が視聴率の苦戦につながっているのかなと」(倉田さん)

『ラヴィット!』は朝の時間帯にしては珍しく、芸人が多数出演。“もはや大喜利番組”と言われ注目を集める

 川内さんも、実力以外の部分での苦戦を憂慮する。

「放送が始まったときはちょうどコロナの感染拡大が懸念されていて“日本でいちばん明るい朝番組”と言われてもピンとこなかった。コロナ禍がひと区切りついて視聴者側に余裕ができれば、優秀な司会ぶりが目に留まるのでは」

 MCの実力は確かだが、ペリーさんは今後の展開に課題があるという。

すでに関係性のできている芸人の方々とのやりとりは、場合によっては“内輪ウケ”のように見えてしまうことも。そこからどう違う側面や番組の目玉となる部分を作っていくか、というのは気になるところです。“朝の生放送”である価値を出せるようなコーナーができると、よりパワーアップすると思います」

 合計点は22点。抜群の司会力が徐々に注目を集めてきているが、番組と世間の温度差には要注意。

NHKから“鞍替え”した大越氏

 ここまで今年スタートした番組のMCの活躍を振り返ってきたが、5人目は老舗『報道ステーション』の新たな看板キャスター、大越健介。

番組側に迷いがあるのかなという感じ。試行錯誤の結果に起用されたんでしょうけど、どっしりと構えられる“重し”みたいな存在がほしかったのかと思います。ただ、それにしては意見の鋭さは感じられないし、どんな人なのか色が見えない」(倉田さん)

 どうやら方向性が定まっていないのは、番組だけではない様子。

『報道ステーション』新キャスターに就任した、元NHKの大越健介氏

「共演の小木逸平アナとの役割の差別化がうまくできず、キャラクターが似てしまっています。メインキャスターとして突飛なことを言うわけにもいかないし、今はまだ番組内での立ち位置を探っているのではないかと。NHK時代は意見をはっきり言っていたし、もっと自分の色を出していいんじゃないかなと思います」(ペリーさん)

 川内さんは、もう1つの課題を指摘する。

「知識の深さや人柄のよさは文句なしですが、MCとしての“華”に関しては、タレントの方たちにはどうしても負けてしまう。民放の番組でメインキャスターを務めるには、視聴者の目を惹きつける魅力が必要になってきますから、もう少し“民放仕様”にシフトチェンジしてみては」

 合計点は19点。NHK時代は国政に鋭く切り込んだ元政治記者も、民放では苦戦中。

識者が採点した情報番組司会者・MCの通信簿。総合点では香川照之が1位に

有働由美子からの引き継ぎ

 最後は、3月から『あさイチ』で晴れやかな笑顔を見せている鈴木奈穂子アナ。

意外と庶民的なところがあって、視聴者と同じ目線に立てるのは強みです。出産や子育ても経験されていますから、博多華丸さん・大吉さんとは違った立場で話ができるのもいい点。『あさイチ』は有働由美子さんが“私も更年期です”と告白したくらい風通しのいい番組なので、その自然さを引き継いでいってほしいですね」(ペリーさん)

 川内さんも、彼女の親しみやすさに太鼓判を押す。

「NHKのアナウンサーというと堅いイメージがありますが“めんどくさがり屋”という愛らしい一面も見せていて、ギャップのある言動から“となりのお姉さん”みたいな人柄のよさがうかがえますね」

 番組に合った自然体なスタイルが評価されるが、倉田さんは女性MCの難しさを説く。

「MCの仕事は、女性の枠が少なくて難しいんです。思い返すと、有働由美子さんはかなり存在感がありました。番組の顔を務める人は、たとえ大したことを言わなかったとしても存在感だけは必要。もうちょっと前に出てほしいなと思いますね。NHKの朝番組ですから“自分の庭で好きなことやって何が悪い!”くらいの感じでどんどん主張していってほしいです」

 合計点は23点。タレントと違って視聴者との距離が近いのが大きな魅力で、まだまだ可能性を秘めた存在だ。

 今年就任した6人の「新しい顔」をジャッジしてきたが、番組の雰囲気や方向性はさまざま。それぞれの課題を乗り越え、より魅力的な番組へと進化させることができるか。