インタビュー取材に応える小原ブラス

 忖度しない外国人目線で語られる強烈なコメントが支持され、『めざまし8』(フジテレビ系)などに出演中の小原(こばら)ブラス。表舞台に出るきっかけは、兵庫県姫路市在住だった高校生時代に始めたニコニコ生放送だった。

視聴者と配信者がリアルタイムでやりとりができることにカルチャーショックを受け、一気にハマりました。でも見始めていくうちに、僕ならもっと面白くできるかもと思い、配信を始めるように。当時は顔出しをして配信をする人が珍しい時代。加えて外国人ということで面白がられて、すぐにファンが増えましたね。それでニコニコ生放送を運営するドワンゴのラジオから声をかけられ、パーソナリティをするようになりました」

 トントン拍子で人気を獲得したものの、2年ほどでニコ生から引退。一般企業に就職し、表舞台から離れることに。

「当時、視聴者のコメントが画面の横からバーッと流れていたのですが、2~3個悪いコメントが目に入るだけで傷ついてしまって……。最初は外国人ということで興味を持ってもらえたけど、飽きられて収益も下がっていったので、上京してサラリーマンをすることにしました」

SNS経由でスカウトされた

 就職後もSNSで意見を発信し続けていたところ、2018年に外国人に特化した前事務所のマネージャーからSNS経由でスカウトをされる。

「それまでもいくつか声はかけられていたのですが、面倒くさいから断っていたんです。でもその方のSNSのアイコンがピノキオのコスプレをした写真で。誘いもしつこいし、素顔はどんな人なのか見てみたい好奇心もあり1度会ってみることに」

 居酒屋で会って話を聞くも、最初は断ったという小原。店を出た後にSNS経由で届いたメッセージがきっかけで仕事をすることに。

前のマネージャーから“僕を見て興奮していたでしょ”とセクハラメッセージが届いて。なんて失礼な人なんだろうと居酒屋に戻って感情をぶつけたところ、気づけば仲よくなっていました(笑)。今思えば僕をスカウトするための手口だったんでしょうね」

 執筆したコラムは1回目から反響があり、次第に注目を集めるように。そして2018年9月、TOKYO MX『5時に夢中!』の“代打黒船特派員”のオファーが届く。

「僕が番組のファンだと話したところ、マネージャーが売り込みに行ってくれていたようで声をかけていただきました。上京したころは、世の中がいろいろなものに配慮するようになっていた時期で。でも『5時に夢中!』はクレームが届かないのか? と思うほどのびのびやっている感じが好きだったので、出演が決まったときは気合いが入りました

 しかしいざ出演してみると、思っていたものとは違っていたという。

好き勝手言っているように見えた出演者の方も、番組でのディスカッションが盛り上がるようにあえて反対意見を言ったり、嫌われ役を買って出ていたというのがわかったんです。むしろ世の中的に好感度の高い方のほうが空気を読まず正論を言うだけなので、そっちのほうが性格が悪いなと思いました(笑)」

 代打出演が好評だったことから翌年の4月からレギュラー出演をするように。活躍の幅を広げ、現在はキー局の情報番組でも活躍中だ。

「『5時に夢中!』は出演歴が長いこともあり、ロシア人であることや僕がゲイであることを視聴者が知っているという体で発言をしています。一方、キー局はより幅広い層が見ていると思うので、“僕もゲイですが~”と説明を入れて発言をするように心がけているのが大きな違いですね。でも多様性が認められている今、ゲイは売りにすることでもないと思うので、話題が出たり話を振られない限りは言わないことにしています

 心配性な性格ゆえ、一時は同じトークをしないよう、披露した内容をエクセルでまとめていた。

「見ている方に“また同じ話をしている”と思われるのが怖くて、テレビで話したことをすべてパソコンで管理していました。その話を『5時に夢中!』の司会を務めるふかわりょうさんに話したところ、同じエピソードでも番組や話し方によって反応は変わる。だから表でまとめるのはやめたほうがいいと言われ、そこからはトークの内容がかぶることも怖くなくなりました」

谷原や永島アナの努力を目の当たりに

 とはいえ、まだまだ心配性な部分は残っていて……。

「番組で話すネタがなくなるのはイヤなので、今は寝る前にその日の出来事や感じたことをボイスメモで残しています。『めざまし8』の谷原章介さんは本番の何時間も前に入って打ち合わせをしている。永島優美アナはアクセント辞書を持ち歩いていてボロボロになるまで読み込んでいるんですよね。そんな共演者の努力を見ているので、自分だけ何の努力もせずに出演するのは申し訳ないですね」

 本来は芸能ゴシップなどには興味がないそうだが、現在は暇さえあれば目を通す。

「そういう日々のチェックが番組で役立つんですよね。渡部建さんの不倫を番組で取り上げた際、夫に不倫をされた経験のあるタレントさんが出演していて、不倫を許して離婚しない妻のほうが寛大でいい……みたいな雰囲気になったんです。でも僕は不倫を許さずに離婚をすることも立派な選択で、許した人だけが正しいみたいなのも違うなと感じたんです。そんな意見を言ったところ、多くの共感の声が届いて驚きました

 そのときに、コメンテーターとしての自分の在り方を強く感じたという。

大多数の共感を得られるであろう当たり障りのない意見より、少なくても強い共感を得られるほうがこの仕事をしていてうれしいと感じましたね。僕の意見で救われる人がいるなら、仕事をした甲斐があるなと思います」

“グレーゾーン”をもっと作ればいい

小原ブラス

 “ロシア人でゲイ”という日本ではマイノリティーな存在の彼だからこそ、感じることも。

「セクハラなど女性に配慮する時代になってきているのはいいことだけど、女性=腫れものになりつつある感じがします。“女性は話が長い”と政治家が言ったり、決めつけるのはよくないけど、そんな古い価値観の人がいることも認めてこそ、真の多様性なんじゃないかなと思います」

 また日本人は“白黒はっきりさせたがる”と続ける。

「白黒つけたがる国民性なのに多様性を認めるべき……という時代の流れがきたことで、いびつな状況になっているように感じます。女性でも下ネタを楽しめる人もいるし、男性でも下ネタが不快だと感じる人もいる。だけど今は“女性に下ネタを言うのはセクハラ”と一方的に決めつけ、多くの人が何がダメで何がいいのかを考えることをやめている気がするんですよね。グレーゾーンやグラデーションを作れば、もっと生きやすい世の中になると思います」

 コメンテーターの仕事を通じ、その世間の空気感を変えていきたいと続ける。

「番組でも“こっちが絶対に正しい”とは言わないようにしています。それによって許される幅が広がり、世の中のグレーゾーンの部分を広げていければいいですね」