石山アンジュ

「老若男女いろいろな人たちが長期滞在して出たり入ったりするという、にぎやかな家庭で育ちました」

 石山アンジュが“シェア”という考え方を身につけたのは、幼いころの家族環境が影響しているのかもしれない。『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)にコメンテーターとしてレギュラー出演する彼女は、『内閣官房シェアリングエコノミー伝道師』『一般社団法人シェアリングエコノミー協会 常任理事』『一般社団法人パブリックミーツイノベーション 代表』という顔を持つ。

「シェアという新しい概念を普及させていくための活動や、ミレニアル世代の声を政府に届けるシンクタンクの運営をしています。官民の間に立って、シェアの概念や若者の声を政府に働きかけながら政策に落とし込んだりということですね」

 シェアリングエコノミーとは、モノやサービスを共同で利用する経済活動のこと。カーシェアリングやウーバーイーツなどが知られるようになって、注目されている。

「実家がまさにシェアハウス。始めは事業としてやっていたわけではなかったんですが、父が世界中を旅して出会った人たちが来たりして」

 父はブラジルで音楽活動をして、日本に帰ってくるとサンバチームの代表に。母はファッションプロデューサーとして世界を飛び回っていた。

国籍もいろいろ、職業も公務員からニートまで、バリエーション豊かな人たちが家に集っている環境で育ちました。両親からは“アンジュは地球人として生まれたんだよ”と教えられました

コメンテーター志望ではなかった

 固定観念を持たずに育った彼女は、アニメよりも戦争映画に興味を持つ。その影響で小学生のころから世界平和について考えるようになった。

戦争以外にも、国際問題とか貧困問題にもすごく興味がある小学生でした。友達とはあまり社会の話はしませんでしたね。国際基督教大学に進んだのは、平和研究に関する学部がある日本で唯一の大学だったからです」

 大学生になると、NHKや日本テレビでアルバイトを始めた。世界中の大学などからテーマに関する情報収集を行っていたという。

「学生時代に『ボイスユアビジョン』という任意団体を立ち上げました。いろいろな国の街角で“世界平和とは何か”という質問をして答えをスケッチブックに書いてもらい、撮影するというプロジェクトです。東日本大震災のときは、日本に対するメッセージを書いてもらっていました」

 卒業後もメディアに関わるつもりでいたが、コメンテーターになろうとは思っていなかったそう。

2年ぐらい前から、日テレの『モンスターサミット』やフジテレビの『梅沢富美男のズバッと聞きます!』といった番組から依頼が来るように。去年から『モーニングショー』にお声がけをいただいて代打で出るようになり、この4月からレギュラーになりました

 最初は、専門外のテーマについて発言することにためらいがあったという。

「自分の専門分野に関してなら自信はあったんですが、外交から政治、社会保障、エネルギー、スポーツニュースなどについて“自分は何か価値あるコメントができるのだろうか”と思いました。自分が何を求められているのか、わからなかったんです」

 ほかの番組を見て自分が視聴者の立場になってみると、気づいたことがある。

“こういうことだよね”って一緒に理解していく補足的なコメントがありがたかったりすることもあります。“これいいね”“これ素晴らしいね”というような感情の共有も大切なこと。専門領域だけではなくても、そういった面で何か視聴者に届けられるものがあるんじゃないかな、と考えるようになりました」

 コメンテーターとして、常に心がけていることがある。

どんなニュースでも批判したり批評したりするのは一瞬ですが、長い時間をかけてそこにたどり着いた当事者がいるわけですよね。リスペクトを忘れずに臨むようにしています。世の中は本当に偶然の連続で、ささいなことで環境が変わって、場合によっては自分がその立場にいる可能性もある。さまざまな立場を想像して、寄り添う気持ちを忘れないようにしています」

声高に断言しないコメント

 大きな声で断言することで人気となるコメンテーターは多いが、石山の方法は異なる。

石山アンジュ

目立つ方というのは白黒はっきりするコメントをされたりして、アンチもいるけれど人気も強い印象です。うらやましいなと思う反面、自分はできないしやりたくないって思ったんですよね。ニュースには白黒つけられることってほとんどなくて、多くは曖昧なものだったり複雑なことが絡み合ってできている。単純にこれがいい、悪いとか言うようにはしたくないという気持ちがあります」

 さまざまな声に向き合うことで、今までは自分に共感してくれる層に対してしか発信していなかったと感じた。

批判的なコメントに接すると精神的につらいこともありました。でも、社会を変えたいというところに立ち戻ったときに“多くの人たちと接点を持った上で、どういうふうに社会をよくしていけるか”と考えるようになったんです。私が大事にしているのが“人類にもともと備わっている良心を諦めたくない”という信念。ニュースって、対立構造やヒエラルキーで語れるものがほとんどだと思います。うわべだけでとらえると、自分のコメントがさらに分断を煽ったり、人を傷つけたりすることになりかねないんです」

 石山は“意識でつながる拡張家族”という理念を掲げるシェアハウス『Cift(シフト)』の代表理事も務めている。

「血縁によらずにお互いの合意を経て“家族になりましょう”と、一緒に生活していくコミュニティーです。メンバーによって家族のとらえ方も違うんですけど、それぞれが家族ということを意識しながら接しています。人と支えあう社会を作っていくためには、常に人に差し出せる余白をひとりひとりが持っていることが大事だと思うんです。今は忙しくしてるんですけど、できるだけ時間を作って、与える幸せを感じることを心がけていますね」

 強い言葉で相手を論破しようとはしない。すべてを抱きしめて共に学んでいくことで、幸せをシェアできる共生社会の実現を目指す。