朝ドラ人気を声で支えるナレーション(語り)。今、『カムカムエヴリバディ』の城田優の語りが大好評だ。そこで歴代ナレーションについて朝ドラに詳しいライターの田幸和歌子さんに印象に残っている作品を挙げてもらった。
『花子とアン』(2014年度前期)
強烈なインパクトは朝ドラ随一
「インパクトが強烈で、いまだに忘れられない人も多いのでは」と田幸さんが挙げたのが『花子とアン』の美輪明宏。吉高由里子主演で、翻訳家・村岡花子の半生を描いた今作の語りは、「第一声からギョッとするようなおどろおどろしさ(笑)。これだけクセの強いナレーションは朝ドラ初かも」そして真骨頂は日本語の美しさ。
「鼻濁音を正しく鼻から出して“ごきげんよう”を発声するなど、発音が正確で美しいから好き、という方も多いですね。優雅な本来の日本語を堪能できます」
『なつぞら』(2019年度前期)
名フレーズの“来週に続けよ”
北海道の大自然や日本のアニメ草創期を舞台にまっすぐに生きたヒロイン・なつを広瀬すずが好演。内村光良の語りで有名な“来週に続けよ”は、「最初はコメディータッチな雰囲気に違和感を覚えるという声もあった」と田幸さん。
「ところが、内村さんがなつの亡くなったお父さんだということがわかって。お父さんの手紙を読むなつの声が次第に内村さんの声にかわっていって、“お父さんだったんだ!”というサプライズが素晴らしかった。ナレーションへも好意的な声が増えていきましたね」
『ひよっこ』(2017年度前期)
マラソンならぬ朝ドラの実況!?
物語の始まりは前回の東京オリンピックが開催された1964年。高度成長期真っただ中に、茨城県から集団就職で上京した“金の卵”のヒロインみね子(有村架純)の青春記を、語りで支えたのが元マラソン選手の増田明美。
「増田さんは物語には出てこないので、メタ的な視点。実況のような語りが印象的でしたね。増田さんのマラソン実況は情報量がすごく多いのに聞きやすくて、話もすっと頭に入ってくる。それが朝ドラの語りでも発揮されていました」(田幸さん)
『まんぷく』(2018年度後期)
朝ドラ史上最年少の語り
インスタントラーメンを生み出した夫婦(安藤サクラ、長谷川博己)の人生大逆転物語。語りは、朝ドラ史上最年少の芦田愛菜(当時14歳)。
「“ひとりの少女が、おばあちゃんから聞いた話を友達に話して聞かせている”という設定から起用したとのことで、まさにぴったり。滑舌がよくて親しみやすい、素敵な語りでした」(田幸さん)
『エール』(2020年度前期)
低音イケボにうっとり
昭和という激動の時代に、人々の心に寄り添う曲の数々を生み出した作曲家・古山裕一(窪田正孝)と妻・音(二階堂ふみ)の物語。語りは津田健次郎。
「“この声で毎朝起こされたい”という女性が続出しましたね。低音イケボで聞かせてくるという、朝ドラでは珍しいパターン。登場人物に寄り添うようなナレーションもよかったです」(田幸さん)
『半分、青い。』(2018年度前期)
トリッキーな遊びがいろいろ
「いちばんトリッキーなことをやっていたかも」と田幸さんが挙げたのが、ちょっとうかつだけれど失敗を恐れないヒロイン鈴愛(永野芽郁)を描いた今作。
「鈴愛が胎児のときから始まって、ナレーションも鈴愛の声。亡くなった祖母役の風吹ジュンさんの語りも、ときどき遺影がしゃべったり、おじいちゃんが亡くなったら祖父役の中村雅俊さんとナレーションで掛け合うなど、随所に遊びが」
『ごちそうさん』(2013年度後期)
転生パターンにびっくり!
「'10年代からの遊びのひとつ、転生ものですね」(田幸さん)。食べることへのこだわりと愛情が人一倍強いヒロイン(杏)が大正~昭和の激動の時代を生きる物語。語りは亡くなった祖母役の吉行和子。
「おばあちゃんの魂がぬか床に宿って……という、ぬか床ナレーションにみんなびっくり仰天でした!」
『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)
英語+優しさ+包容力!
ラジオ英語講座とともに生きたヒロイン3人、3代にわたる物語。城田優が英語を交えた語りを披露している。
「優しい声がすごくいいですね。これから激動の時代に入っていきますが、それを受け止めてくれるような包容力。100年間、ヒロインたちの隣にラジオがずっと寄りそいますが、語りももうひとつの主人公のような存在になるかも」(田幸さん)
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』 NHK総合 月曜〜土曜 朝8時〜ほか