フィギュアスケートのグランプリシリーズ第4戦『NHK杯』が幕を閉じた。
「4回転ジャンプを4種類5本盛り込む自身最高難度のプログラムに挑んだ宇野昌磨選手(23)は優勝という最高の結果に。グランプリシリーズの2戦を終えて、『グランプリファイナル』への出場は確実でしょう」(スポーツ紙記者)
羽生に紀平、トップ選手不在の『NHK杯』
今回の『NHK杯』は、注目のトップ選手が不在という状況での開催となった。
「国内で羽生結弦選手(26)の試合が見られる数少ないチャンスでしたが、“右足関節靭帯損傷”による欠場を発表。紀平梨花選手(19)も“右足関節骨軟骨損傷”の回復が遅れていることから欠場すると発表されました。また、複数の4回転ジャンプを武器としているロシアのトゥルソワ選手もケガで欠場となりました」(同・スポーツ紙記者)
直前での発表だったためか、大会の公式パンフレットには羽生や紀平ら、欠場となった選手も掲載されていた。
「パンフレットに掲載されたことで、これまで謎に包まれていた羽生選手の新しいショートプログラムの曲が判明しました。
曲は、サン=サーンスの『序奏とロンド・カプリチオーソ』です。フィギュアスケートでは定番の曲で、羽生選手憧れのプルシェンコ選手が使用していたことも。もともとバイオリン曲として作曲されていますが、羽生選手との共演経験もあるピアニストの清塚信也さんが演奏をしているそうです」(同・スポーツ紙記者)
清塚と羽生の共演は'18年に行われたアイスショー『ファンタジー・オン・アイス』でのこと。清塚は当時のインタビューで、羽生と“再共演”することについて、こう語っていた。
《もちろんまたやりたいけど、あんまり簡単には手を出したくないですね。僕にとっても、今回の出来に関しては、すごく満足していますし、羽生選手との思い出を含め、神聖なものという感覚があるので。これ面白そうじゃない? ぐらいの気持ちでは、やりたくないかな》(『Number Web』)
それだけに、今回のショートプログラムの演奏は覚悟を持って引き受けたことだろう。
一方、『NHK杯』に出場していた宇野は、羽生と“兄弟のような関係”を築いている。
「小さいころから一緒に試合に出ていて、羽生選手が宇野選手の面倒を見てあげることもありました。“ゆづくん”“昌磨”と、お互いに下の名前で呼び合う仲ですよ」(スケート連盟関係者)
それだけでなく、宇野は羽生への強い憧れをずっと抱いてきた。
「宇野選手はインタビューで“最終目標はゆづくん”と言い続けてきました。宇野選手にとって羽生選手は、特別な存在なのです」(同・スケート連盟関係者)
世界と戦うために固めた“決意”
そんな羽生が欠場することになってしまったが、スポーツジャーナリストの折山淑美さんによると、意外にも宇野は落ち着いているそう。
「今の宇野選手は、“自分がやりたい構成をどれだけ完成に近づけられるか”ということにしか、目を向けていないと思います」
それには、こんな理由があるという。
「完全に気持ちが吹っ切れていますよね。コーチが不在だったり、コロナでなかなか試合ができなかったり、そういう時期を経て、“4回転5本の構成をしたい。そうしないと世界と戦えない”というのがハッキリ自分の中に芽生えて、挑戦している感じがします」(折山さん、以下同)
自身最高難度の構成への挑戦が、冬季五輪への思いも変化させた。
「『北京五輪』は『平昌五輪』以来2回目のオリンピックになりますが、今は挑戦し始めたばかりなので、その過程のひとつという気持ちもあるはず。“『北京五輪』が集大成”とは思っていないでしょう。『平昌五輪』の当時はそこまで考えておらず、“羽生結弦を追いかけていただけ”という感じがありました。今回は“世界のトップで戦いたい”という決意を固めていると思います」
宇野が“脱・羽生”の決意に至った裏には、これまでのスケート人生の波があった。
「もともと“世界のトップに立ちたい”という思いを持っていましたが、コーチ不在などの苦労をして、“スケートってトップに立つよりは楽しめればいい、楽しいほうがいい”という思いになり、それでもやっぱり“トップに立ちたい”という思いが甦って……。戦えない時期を経験したから、戦えることの楽しさも実感しているのでしょう」
では、愛知県で暮らす宇野の祖父で画家の宇野藤雄さんは、そんな孫をどのように見ているのだろうか。
「昌磨のことはずっと見てきましたが、よくやっていると思います。“あの年代であれだけのことがやれるなら僕も頑張ろう”と、周囲に元気を与えることができているのではないでしょうか」
今後さらに活躍していくためには“転ぶ”ことが必要だそう。画家である自身の経験と重ねる。
「私は絵を描くのですが、悪いところを修正するのに何年もかけます。例えば今は、3年ほど前に描いた絵を修正しています。失敗をして常に勉強を重ねると、このほうがいいとか、どうしたらいいか気がつくようになるんです。
だから、失敗をしない限り向上はありません。向上するためには、転ばないといけない。転べばその理由がわかるようになって、向上につながります」(藤雄さん、以下同)
そして、宇野の欠点をこう分析する。
「今までの昌磨を見ていると、最大の欠点は滑りすぎること。滑りすぎて転んでしまう前に、ゆとりがあるといい。そこに気がついたら、無敵の選手になれると思います。切羽詰まってやっていたらダメ。
“やろう、やろう”とすると、気が先走るでしょ。それを修正するのはすごく大変。人間的なゆとりのことですからね」
オリンピックへも、ゆとりを持って臨むべきだという。
「『北京五輪』は周囲が盛り上げるでしょうし、応援もヒートアップするから、意識しないというのは難しいでしょうけれど、年齢を重ねたことで、落ち着いて挑めるようになると思います。『北京五輪』はテレビ越しに応援できたらいいと思っています」
新たな目標となった世界のトップに立てるか──。