左から米倉涼子、沢口靖子、江口のりこ

 木曜放送のドラマ『科捜研の女』『ドクターX』『SUPER RICH』。強気で、地位や権力に揺らぐこともなく、我が道を行く…似てるようで微妙に被らないヒロイン3人を、コラムニスト・吉田潮さんが深掘り。

 木曜日の夜がなんだか心地いい。なんだかんだいっても男性ファーストが根深い日本において、3人の女傑が活躍しているからだ。

 20時の『科捜研の女』(テレビ朝日系)で沢口靖子演じる榊マリコ、21時の『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)で米倉涼子演じる大門未知子、そして22時の『SUPER RICH』(フジテレビ系)で江口のりこ演じる氷河衛である。

 三者三様の心地よさを味わっているのだが、もう少し掘り下げてみよう。マリコ・未知子・衛は、社会人として、友人として、女としてどうよ?

共通項は「地位や権力、〇〇に興味なし」

 まずは共通点。とにかく権力や出世、多数派に興味がなく、一切なびかない。京都府警科捜研勤務のマリコは20年以上も勤務しながら役職につくこともなく、一研究員として年齢不詳のまま在籍。京都府警本部長(西田健)や刑事部長(金田明夫)にたてつくこともあれば、科捜研所長(斉藤暁)を顎で使うこともしばしば。権力や地位になびかず、信じるのは科学と自分と土門薫刑事(内藤剛志)のみ。

 未知子はフリーランスの外科医で、医療以外の行為は一切しないと断言。病院内の不毛な権力闘争や無意味な教授回診には参加せず、上意下達の組織をガン無視。傍若無人に見えるが、患者ファーストは徹底している。もちろん男にも1ミリたりともなびかない。

 このふたりはもはや国民的キャラだが、新キャラの衛はどうか。

 自ら立ち上げた電子書籍出版社のCEOで、筋金入りのセレブ。生まれながらの富裕層だが、会社と仲間を守るためには莫大な資産をなげうつ豪胆さもある。アイデアが枯渇した大御所漫画家に対しても「おもんないです。おもんないとこ一晩語れます」と正直に言える。新規事業のプレゼンに勝つために、権力者にすりよる柔軟性はあるものの、魂は決して売らず。

 人に上下優劣をつけず、フラットな女たち。ついでに言えば、この3人、料理もしない。マリコは捜査のために料理教室へ行っても、腕を振るうどころか成分の蘊蓄(うんちく)をとうとうと語る。

 未知子は完全に外食派で肉食系。手術後はガムシロップをごきゅごきゅ飲み干すくらいの糖質過多も気にしない。体力使ったら甘いもの、料理なんぞする暇があったら手術をしたいタイプ。

 衛も幼少期からお手伝いさんが作ってくれたため、そうめんすらゆでたことがない。高級なデパ地下総菜orデリバリーで済ませてきた。

 3人とも潔く料理と無縁なのだ。女に料理上手を求めるような時代は終わったしね。料理上手は西島秀俊や高杉真宙に任せておけばいいと思うのよ。

同じ職場にいてほしいのは…

 ダントツでお断りしたいのはマリコだ。あまりのワーカホリックぶりに、科捜研はブラックな職場と化している。いや、人としては尊敬できるし、信頼できる。でも、膨大な押収品や証拠品の中から指紋や血痕、もっと微細な証拠を見つけるまで容赦なく残業や徹夜作業を強いるし、現場直行も強制される。

 所長の斉藤暁なんて、一度は過労でぶっ倒れたしね。でも、あのアルカイックスマイル&目力でじっと見つめられたら、誰が断れようか。刑事の蒲原君(石井一彰)までもが手足のようにこき使われとるし。

(写真左から)西田敏行、米倉涼子、生瀬勝久/'16年『ドクターX』打ち上げ

 では未知子はどうか。自分が医療従事者だったら、的確な診断力と絶対に失敗しない腕前の医師がいてくれたらどんだけ助かることか。

 ただし、協調性はゼロ、雑用も残業も飲み会も一切しない。握手すらしない。口は悪いし、人の顔と名前を覚えず、無礼なふるまいも多々。

 それでも弱い立場の人を守る「仁」はある。医師(要潤)の失敗をなすり付けられ、首を切られそうになった看護師(今田美桜)を守ってあげたし。

 もっとも共に働きたいと思うのは、衛だ。誰が見てもクズで才覚のない共同経営者(戸次重幸)に長いことほだされていたのは汚点だが、基本的に社員の意見を聞くし、「ありがとう」や「ごめんなさい」を素直に口にできる社長だから。社員の危機(メンタル)を救いに来る頼もしさもあり、富裕層のわりにくだけていて偉ぶらないからね。

友達として一緒に飲みたいのは…

 外食をともにするなら「よく食べてよく飲む女」がいい。そういう意味では、未知子が一番気持ちいい。鯛焼きも嬉しそうに食べるし、肉ももりもり食べそうだし。派手で高そうな服を着てピンヒールでカツカツ歩き、クラブでがんがん踊りまくる未知子と同じ空気を楽しめるとは思えないが、銭湯で大開脚したり、卓球のお供ならばできそうだ。

 衛に関しては、随所に垣間見える育った環境の格差が気になる。どんなに性格がよくても、関西弁の返しが絶妙でも、ズレは大きいだろうなと思ってしまう。衛が悪意なしに発した何気ない言葉に、「住む世界が違う」と引け目を感じるかもしれず。「あんた、今のはめっちゃ感じ悪いよ! 金持ちの暴言だよ!」と言える関係を築けるかどうか。

 で、もっとも読めないのがマリコである。何が読めないって、時間である。四六時中、事件と鑑定が最優先のマリコは、たとえ約束していてもドタキャンどころか連絡すらよこさない感じがする。LINEもやってなさそうだし、やっていたとしても既読がつかないまま数日間もざらではないかと。

 ドラマや映画、ゴシップネタも一切通じなさそうなので、話が弾むとは思えず。でも、酒や漬物の酵母やら花粉やらグルタミン酸やらについて、熱く語るマリコを傍らで眺めていたい気もする。そういえば、案外コスプレ好きな一面もあるので、イベントやパーティーにはくじけずに誘ってみようと思う。

 逆に、我が家で家飲みに呼ぶなら誰がいいか。衛は高級なお土産を持ってきてくれそうだな。未知子は宴会そっちのけで猫と遊んでそうだし、マリコは「これは……鮮明、拡大化!」とかいって、部屋の埃や毛や汚れを凝視しそう。ルヴァンを用意しておこう。

女としてうらやましいのは……

 未知子にはほぼ男の影がなく、性欲も結婚願望もストレスもなさそうだ。手術欲が異様に強いので、何か違う形で欲望を満たしているのだと思われる。家も男も家族もペットももたず、気ままに海外と日本を行ったり来たりで、かなりの自由人。

 神原名医紹介所(の岸部一徳)にどれくらいピンハネされているのかは気になるが、年収数千万円は稼いでいるに違いない。束縛されない生活、好きなことで大金を稼げるスキルに、世界中どこででも生きていけるたくましさ。実はこれが一番うらやましい。

左から赤楚衛二、町田啓太

 別の意味でうらやましいのは、なんつっても年下の男性部下から好意を寄せられるという、モテモテの衛だろう。絶世の美丈夫・町田啓太に可愛げ炸裂超ド級の赤楚衛二だよ!? もう盆暮れ正月にクリスマスとハロウィーンも同時到来みたいな、浮かれっぱなしの精神状況にならんのか? 

 社員たちからも信頼されているし、親友の中村ゆりからもうっすら恋愛感情に近い好意を寄せられている。人という宝に恵まれている衛は、経営難に陥ってはいるものの、女としても人としてもかなりうらやましい。

 最後はマリコ。土門との関係は「プラトニックな恋愛」であり、全国に多数いるどもマリファンは屋上や川っぺりのラストシーンが大好物。かつては熱血剛腕刑事だった土門と、おきゃん(死語)な研究員だったマリコも、十数年の時を経て、成熟し達観した大人の付き合いになっている。お互いに慕い合いながらも、決して触れ合うことはない。婉曲表現の言葉だけで愛を育んでいるのだ。もうここまでプラトニックだとうらやましくもなくて、歯がゆい。いけず。さすがは京都。

 今シーズンでは、第一話でマリコの元夫(渡辺いっけい)が警察庁からやってきて、マリコに異動話をもちかけてきた。東京で刑事相手に講義する指導官に推薦したいという。マリコは科捜研、京都、そして土門に別れを告げるのか!? 土門はうっすら嫉妬と不安を覚え……なんつって盛り上がったわけよ。結果的にマリコが警察の不祥事を暴いちゃったがために、異動話はなくなったけどね。

 マリコと土門は地方公務員同士、年金も多そうなので老後も安泰。そこはうらやましい。定年退職してからぜひ濃密な愛を交わしてください。

 木曜夜の3人の女たち、実は友達が少ないというのも共通項だ。全員人格者ではあるが、友達はかなり選んでいる、または不要という考えなのかもしれない。こっちが友達になりたくても友達認定してもらえないんだろうなと思いつつ、妄想をふくらませてみた。マリコ、未知子、衛――あなたは誰と仲よくなりたい? つうか誰になりたい?

吉田 潮(よしだ・うしお)
 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか』(KKベストセラーズ)などがある。