10月、11月になると、都内にある私立中学の説明会も活況を迎えます。人気校では、説明会の予約を取るのですら激戦だと言います。し烈な中学受験をテーマにしたテレビドラマ『二月の勝者─絶対合格の教室─』(日本テレビ系)が放送されるなど、いまや中学受験は身近なものとなってきました。今回は、そんな中学受験に挑戦したというママたちの葛藤をご紹介します。
ケース1:女子大付属の中高一貫校に合格
今年4月に、娘を私立中学受験させたという唯さん(仮名・43歳)。唯さんの娘は、都内の女子大付属の中高一貫校に入学しました。
「娘が通う中学は、大学までエスカレーター式なので、大学受験のための塾通いが必要がない予定です。学校見学に行ったときから、勉強よりも運動や音楽など好きなことをしてのびのびと個性を伸ばすような教育方針に惹かれて、第一志望にしました。歴史のある学校だったので、母親も同じ学校を卒業している家庭もありましたね」
娘の合格はうれしかったそうですが、思っていた以上に費用がかかると言います。
私立中学のママ友付き合いは
金銭感覚のズレがネック
「通学に電車を使うので定期代はもちろんのこと、給食がないので弁当を作らなければならないのですが、作れないときは学食代がかかります。絵の具や教材費も何万円と高く、『公立だったらこんなにかからないのに』と少し悔やみました。
あと意外と多いのが、ママ同士のお付き合いの費用です。上の子も同じ女子校に通わせている先輩ママさんを交えてランチをしたら、昼から3000円ほどする焼き肉を食べに行ったんです。金銭感覚に驚きました……。なんでも同級生には、別荘があるうちの子もいるとか。これから6年間お付き合いが続くので、誘いが断りづらいんですよね」
唯さんの夫はバーや串焼き屋など、都内に3店舗の飲食店を経営していました。しかし、新型コロナウイルスの蔓延による東京都からの休業要請の影響もあり、1店舗は閉店したそうです。
「協力金が振り込まれるのは半年後だったりするんです。半年も持ちこたえることができなそうな店は閉店しました。残った店舗も業種形態を変え、テイクアウト専門にしたり、ランチ営業を始めてなんとか営業を続けています」
唯さん自身も、昨年からコールセンターでオペレーターとして働き始めたそうです。
「夫の事業が上手くいっていたときは、ほぼ専業主婦で、たまに店の手伝いをしていました。店の収入が減ってしまい、固定給が入る仕事がよかったのでパートで働き始めましたが、最近はシフトも増やしました」
唯さんは当初、やみくもに中学受験を勧める風潮があることに違和感を抱いていましたが……。
「うちはもともと、中学受験は考えていませんでした。ただ小4くらいから周りにつられて娘も塾に通い始め、そこでどんどん成績が上がっていったんです。そうしたら、塾の先生から『この成績だと、中学受験をしないのはもったいない』と言われたんです。それで火がついて。塾のママ友はもちろん、小学校でもクラスの半分近くが受験をするような環境だったので、とにかく合格を第一に考えて受験させることにしました。
進学先は超有名校や進学校ではなかったのですが、それでも倍率が高く、『合格できるのなら……』と、小6の1年間で塾にかかった費用は100万円近くになりましたね」
コロナの影響で学費がピンチ!
食パンもグレードダウン
このように中学受験は、親の経済的負担が大きいもの。さらに「もしも合格できるのなら」と、どんどんお金を使ってしまう傾向もあるようです。
「ママ友にメッセージを送るときは、みんな『志望校に受かるといいね』と励まし合っていました。同じ境遇のママと仲よくなるのもあって、当時は中学受験自体を特別だとは思わなかったんですよね」
しかし、入学してからも金銭問題はつきまとうと言います。唯さんの娘が通う学校では、コロナの影響で収入が減ってしまった家庭の子もいるようです。
「ママ友と話していると、夫婦だけで学費を払いきれず、祖父母から援助を受けているという話も聞きます。正直『そこまでして私立に通わせなくても……』と思うのですが、きつい大学受験をしなくてもいいと思うと、それも投資なのかもしれないと最近は思うようになりましたね」
唯さんの家庭でも、学費が大きな負担になっているそうです。
「これから先も、また飲食業は休業になる可能性がゼロではないと思うと、食費などを節約するしかないんですよね。以前は、食パン専門店の高級パンなどを買う余裕がありましたが、今はスーパーで売っている日持ちがする食パンに変えたり、パート先にもおにぎりを持って行くようにしています」
ケース2:大学付属校を第一志望に受験勉強中
都内在住の康子さん(仮名・45歳)は、小6になる息子を中学受験させるために奮闘中です。康子さんが息子を中学受験させるようになったきっかけは、高1になる娘の進学でした。
「中学時代の娘は、試験の点は悪くはないのに、部活や委員活動にも積極的ではなく内申点が低かったんです。『都立高校は試験が7割、内申点が3割』と言われていたので、都立を受験する場合は志望校を受けるのが難しかったんです」
また最近、ニュースなどで取り上げられ話題となった『男女別定員制』のため、都立高校普通科の受験では男子よりも女子の合格基準点が高くなり、不利だと言う傾向もあります。
「娘は都立高に進学しましたが、大学進学を考えているのでまた受験や予備校の費用が掛かるんです。それだったら、中学受験の段階でいいところに進学させればよかったと後悔しました」
家庭教師費用が60万円でも
親の介護を見越して受験
康子さんは娘の高校受験が大変だった経験から、小6になった息子の中学受験の準備を始めました。
「いわゆる御三家と呼ばれる名門校を志望している子は、低学年から塾通いをしていました。中学受験を視野に入れている家庭は、だいたい小4から通っているのでスタートが出遅れたんです」
そう語る康子さんは、進学塾の講師経験がある家庭教師を見つけ、息子はマンツーマンで勉強を見てもらっています。
「時給3000円で、ほぼ毎日3~4時間見てもらいました。まずは基礎学力の構築が大事だと思ったんです。今は少しペースを抑えて週に2、3回ほどにしていますが、9月から見てもらっていて、受験本番の2月までの期間で最終的にはトータル60万円ほどになると思います。でも塾通いが必要と言われている小4から通っている子と比べたら、いくぶんか安くすんでいますね」
康子さんの息子は、大学の付属校を第一志望に狙っているそうです。それには康子さん自身の悩みが関係していました。
「私の親はもう80歳。足腰が弱くなってきているし、いずれ介護も必要になってきそう。私はひとり娘なので、介護の負担もあるんです。そう考えると、子どもの受験は早めに終わらせておきたい。ママ友とは、『〇〇中学は入学してからの寄付金がないよ』という情報交換もしています」
やはり、どこの家庭でも中学受験でネックとなるのが学費や受験費用と言えます。
「うちは共働きなのですが、息子の受験費用はすべて私が出しています。夫には『お金を出さない代わりに、口も出さないで』と伝えています。ママ友に、『夫が非協力的だ』と言うと、『うちもだよ』と返事がきてホッとしますね。むしろ受験するママ同士の結束は高まっている気がします。もしかしたら受験校が一緒だったら『向こうは落ちたらいいのに……』とか思ってしまうのかもしれないですが。小学校でも、受験のために学校を休むのがうちの子だけではないって思うとほっとしますね」
一説には、中学受験の受験日のピークである2月1日は、半分近い生徒が欠席する場合もあるそう。
私立中学以外にも国立中学校、公立の中高一貫校とかつてより受験校の幅が広がっている中学受験。合格までのプロセスはよく語られていますが、今は高年収ではなく一般的な家庭からも進学するようになり、より学校内での経済格差も広がっているかもしれません。入学してからのプランもよく考えてから、受験も検討したほうがいいと言えます。
池守りぜね◎東京都生まれ。フリーライター。大学卒業後、インプレスに入社。ネットメディアで記者を務めた。その後、出版社勤務を経て独立。育児、グルメ、エンタメに関する記事のほか、インタビューも多数執筆。『一瞬と永遠』、『絶叫2』など、映像脚本も手掛ける。プライベートでは女児のママ。Twitter:@rizeneration