パプリカやにんじん入りなど、そのままミックスサラダになるパックもあって便利

 野菜を切る手間がかからず、洗い物も少なくなるお助け食材「袋入りカット野菜」が人気だ。カットされた野菜炒めセットや、サラダにピッタリのキャベツの千切りだけど、うっかり食べ損ねて捨ててしまっては本末転倒。そこで、しおれかけた野菜を新鮮なシャキシャキ食感に生き返らせるのが「50度洗い」。

使い勝手のよい反面、袋入りキャベツには弱点が

 コンビニやスーパーで売っている「袋入り野菜」。あらかじめカットしてあるので野菜を切る手間がかからず、まな板や包丁、ボウルなどの洗いものも少なくすむ“主婦のお助け食材”だ。この「袋入りカット野菜」がコロナ禍で売り上げを伸ばしている。
 
 パッケージサラダの製造・販売を行うサラダクラブのアンケート調査(*1)によると、袋入りカット野菜を週1回以上食べる人は37.7%にのぼり、2013年以降、最も高い結果に。同社商品の中でも「千切りキャベツ ビッグパック」は、出荷数が約40%も増加(*2)している。

 ただし便利だからと買ったはいいが、袋に入っていることに安心して、未開封のままうっかり食べ損ねてしまうということも起こりやすい。

「袋入りのせん切りキャベツは使い勝手がよく、1回で食べきれるジャストな量が魅力ですが、落とし穴もあります」

 そう話すのは、フードコーディネーターの吉野愛さん。

ドレッシングを入れて、袋から直接食べる人も増えている袋入りせん切りキャベツ

袋入りカット野菜は、雑菌繁殖を防ぐために水分をとばしているので、実はやや乾燥ぎみな状態。未開封だからと放置していると、野菜の切り口からどんどん乾燥が進んでしまいます。もちろん封を開けてから放置するのもNG。酸化して黒ずんできてしまうのでやめましょう」(吉野さん、以下同)

 せっかく出費やフードロスを減らすため、袋入りのカット野菜を買ってきても、捨てることになってしまったら本末転倒。そんなとき、しおれかけた野菜を新鮮なシャキシャキ食感に生き返らせる裏ワザがある。

 それが「50度洗い」。実際にやったことがなくても、名前は聞いたことがあるという人は多いはず。

熱湯と常温の水を半量ずつ混ぜて50度にし、そこにせん切りキャベツを入れて20~30秒ほど洗います。そのあと冷水で仕上げ洗いをすると、シャキッと元気な状態に。みずみずしく、歯ごたえがよくなりますよ

水洗いでは落とし切れていなかった、雑菌や“虫”も除去

 野菜は冷たい水で洗うのが常識だと思っていたが、なぜ50度洗いで“しなしなキャベツ”が蘇るのか?

「50度洗いをすると、湯の温度によって植物の表面にある気孔が開き、細胞に水分が吸収されるので、みずみずしさが復活するんです」

包丁を使わず立派な一品に。時短料理に役立つ袋入りせん切りキャベツだが……

 そう教えてくれたのは、管理栄養士の森下久美子さん。冷蔵庫でゾンビ化していく野菜を見て見ぬフリするのは、主婦として胸が痛むもの。

せん切りキャベツのほかにもしなびやすい野菜に「50度洗い」は使えるのか? 聞いてみると、

「50度洗いといえば葉もの野菜が定番ですが、例えばきゅうりやなすも、しなびかけた状態からピンと皮が張った状態に戻りますよ」(森下さん、以下同)

 確かに、きゅうりはうっかりしていると水分が抜けてしまいがち。あれがパリッと生き返って、フレッシュな状態に蘇るなら、もう泣く泣く捨てることもない。

 それではもやしはどうだろう。安くてヘルシー、節約食材の代表選手だが、足が早いことでも代表格だ。

「もやしやカイワレなどももちろん復活できますよ。ただし野菜によって洗う時間が変わるので、もやしは2〜3分、カイワレは20〜30秒と、大きさや皮の厚みなどによって調節が必要です」

 しかももやし独特の“臭み”もとれるというから、一石二鳥。

「野菜の種類によりますが、臭みやえぐみのほか、水洗いでは落ちにくい汚れや虫、雑菌も落とせます。ただし温度が高すぎても低すぎてもダメ。48~52度なら許容範囲ですが、60度を超えると加熱しすぎて火が通ってしまいますし、逆に43度以下のぬるま湯だと菌が繁殖してしまいます」

 今まで水洗いのみで、虫や雑菌を落とせていなかったのかと考えると、逆に恐怖を感じるが……。

「湯につけて浮かぶ野菜は重しなどで全体が浸かるようにしましょう。また、熱湯を使うときは取り扱いに注意。私は給湯器の湯温を60度に設定し、そのお湯をボウルに張って50度くらいに下がったところで使っています」

ゾンビ野菜だけじゃない! 50度洗いにはメリットたくさん

 ほかにも50度洗いでおいしさがアップする食材はある?

柑橘類やりんごなどのフルーツにもいいですよ。皮についた汚れやワックスが落ちるので、皮ごと料理に使いたい場合におすすめ。追熟の効果で甘みが増すことも期待できます」

 さらに50度洗いのすごいところは、青果のみならず、肉や魚にも有効なこと。

50度洗いで、野菜だけではなく、果物や肉魚もおいしさがアップ

魚介は、生臭さの元になる表面の酸化した脂が落ちるので、調理前に50度洗いをすると、ふっくら、さっぱりした味わいになります。肉も同様ですが、薄切り肉やひき肉には向きません

 肉魚も野菜と同様、買ったばかりの新鮮なものであれば、やる必要はない。

「私は見切り品を安く買ってきて、おいしく食べきるために50度洗いを習慣にしていますよ。しなしなの水菜やレタス、しそなど、半額で買ったとしても50度洗いをすれば、一時的にですが、鮮度の高いものと遜色ない見た目と味になります。その日の夕食に出せば、家族も見切り品とは気づきません(笑)」

 消費者庁の調査(*3)によると、家庭でフードロスを出した理由の中で「傷んでいた」と「期限切れ」によるものが34%。これも50度洗いを実践することで、減らせることになる。

 何より、安く買っておいしく食べきる、毎日の栄養バランスも整えられる。家庭のお財布にも健康維持にも嬉しい裏ワザなのだ。

*1 サラダ白書2021(全国の20歳〜69歳の男女合計2060名にWEBアンケート調査)
*2 2018年4月~2019年12月と2019年4月~2020年12月の比較。
*3 家庭における食品ロス削減の取組結果(2018年)