レコード大賞の大賞候補曲に選ばれた、LiSA、純烈、DA PUMP、NiziU、三浦大知(NiziUの写真は『Step and a step』ジャケットより)

 今年も年末恒例の「第63回 輝く!日本レコード大賞」の各賞が発表された。

 まず、最も気になる大賞候補の曲が、以下の10曲。

『明け星』LiSA
『君がそばにいるから』純烈
『ごめんねFingers crossed』乃木坂46
『CITRUS』Da-iCE
『Take a picture』NiziU
『Dream on the street』DA PUMP
『根も葉もRumor』AKB48
『Backwards』三浦大知
『Happy!』氷川きよし
『勿忘』Awesome City Club

 また、新人賞にノミネートされたのが、以下の4組だ。

INI
TAEKO
マカロニえんぴつ
望月琉叶

レコ大が視聴率50%超えだった時代

 これら大賞候補曲を見て、どれだけの人がその曲を知ってるだろうか。昨今のレコード大賞候補曲について、首を傾げるのはある音楽雑誌のライターだ。

「レコード大賞受賞曲は、本来その年を代表する曲として選ばれるのですが、次第にその意義は薄れていきました。今回ノミネートされた10組を見ると、アーティスト名こそわかるれど、曲を知っている人はどれだけいるのでしょうか。ファンではない人から“歌えない”という声も上がっています」

 ちなみに、これら大賞候補の優秀作品賞の選定基準は、《大衆の強い支持を得、芸術性、独創性、企画性に優れ、その年度を反映したと認められた作品に贈る》とされている。

 新人賞についても同様で、従来はその年にデビューして、かつ楽曲の評価が加味されていたが、近年の新人賞は「がんばった人に贈られる賞」との印象があるという。

 さらに最優秀歌唱賞にMISIA、特別賞にはAdoやYOASOBI、松本隆ら、特別国際音楽賞にはBTSの受賞が発表された。前出の音楽ライターが続ける。

「MISIAはオリンピックでの『君が代』歌唱が多くの人の記憶に強く残っていると思います。特別賞のAdoは『うっせぇわ』のヒット、昨年から注目を集めるYOASOBI、作詞家生活50周年を迎えた松本隆さんにも納得です。また特別国際音楽賞のBTSも文句のつけようがない。これら各賞の顔ぶれのほうが2021年を象徴しているような気がします」

 音楽界において「国民的ヒット曲が生まれにくくなった」と言われて久しいが、昭和の歌謡曲とテレビの黄金時代には、視聴率が50%を突破したこともあるほど、年末の国民的コンテンツだった「レコード大賞」。過去にはどのような曲が受賞してきたか振り返ってみる。

 1959年の第1回の大賞受賞曲は、水原弘の『黒い花びら』。その後、橋幸夫・吉永小百合の『いつでも夢を』(第4回)、美空ひばり『柔』(第7回)、『また逢う日まで』尾崎紀世彦(第13回)、『喝采』ちあきなおみ(第14回)、『勝手にしやがれ』沢田研二(第19回)、『UFO』ピンク・レディー(第20回)、『魅せられて』ジュディ・オング(第21回)、『ルビーの指輪』(第23回)……

「今の若者でも『知ってる』『聞いたことある』という大賞受賞曲が多いのではないでしょうか。よく言う、『お茶の間に唄があった』という時代でしょう」(同前)

 昭和最後の受賞曲が光GENJIの『パラダイス銀河』(第30回)で、平成に入って最初の受賞曲がWinkの『淋しい熱帯魚』(第31回)となる。

「この平成元年から、紅白歌合戦の放送開始時間が19時台になり、レコ大と放送がかぶってしまうことになりました。すると視聴率が20%を割り、紅白出場歌手の出演のタイミングが大変になっていた。レコ大は、このあたりから迷走が始まった気がします(その後2006年から12月30日に放送)

 と言うのはテレビ局関係者。

ジャニーズの“賞レース”撤退

 1990年(平成2年)の第32回より、3年にわたって導入された制度が、大賞を「歌謡曲・演歌部門」と「ポップス・ロック部門」に分けたこと。これによって、レコ大受賞曲は2曲存在することになった。

 平成に入ってからの、主な大賞受賞曲を振り返ってみる。

『おどるポンポコリン』B.B.クィーンズ(1990年、第32回、ポップス・ロック部門)
『君がいるだけで』米米CLUB(1992年、第34回、ポップス・ロック部門)
『innocent world』Mr.Children(1994年、第36回)
『CAN YOU CELEBRATE?』安室奈美恵(1997年、第39回)
『Dearest』浜崎あゆみ(2001年、第43回)
『蕾』コブクロ(2007年、第49回)
『Ti Amo』EXILE(2008年、第50回)
『フライングゲット』AKB48(2011年、第53回)
『R.Y.U.S.E.I.』三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE(2014年、56回)
『インフルエンサー』乃木坂46(2017年、第59回)
『パプリカ』Foorin(2019年、第61回)

 そして昨年の大賞受賞曲が、『鬼滅の刃』の大ヒットを受けてのLiSA『炎』だった。

 世相の反映が乏しいと思われがちな候補曲に関しては、近年のヒットチャートで欠かせない、48グループ、坂道シリーズ、LDHに加え、ジャニーズ所属のグループが同賞に参加しなくなった影響もあるかもしれないと、あるスポーツ紙記者は言う。

「90年にジャニーズの忍者が、『お祭り忍者』で歌謡曲・演歌部門でのノミネートを希望していたのにロック・ポップス部門で選出されたため辞退したことがありました。これを機会に、ジャニーズが賞レースから撤退したことも、レコ大衰退のひとつかと思います」

 ジャニーズとレコ大といえば、前出の光GENJIの前年には、近藤真彦の『愚か者』が大賞を受賞し、過去の最優秀新人賞にも、田原俊彦、近藤真彦、シブがき隊、The Good-Bye、少年隊、男闘呼組など数々のスターが受賞している。

「ジャニーズが参加できていたら、キンプリやキスマイ、セクゾ、JUMPにKAT-TUNなど、新人賞は毎年総なめに近い状況が続いていたでしょう。大賞もSixTONESとSnow Manの一騎打ちの可能性もあり、少なくともジャニーズファンは注目するコンテンツとなっていたかもしれませんね」(同前)

 前出の音楽ライターは、レコード大賞の本質的な部分にも注目する。

「もともとは日本作曲家協会によるレコード会社主導の賞として設立されたものですが、そこに“大人の事情”みたいなものを視聴者が勝手に感じてしまい、“どうせ出来レースだろう”と、冷めてしまっている部分もあるかもしれません」

 第63回日本レコード大賞は12月30日、17時半から生放送される。今年を代表する曲は、いったいどれになるか。どれも同じとは言わず、注目してみたい。

〈取材・文/渋谷恭太郎〉