活動の拠点を欧米・アジアなどにも広げ、海外ドラマの主演が決まるなど新たな挑戦を続ける山下智久。海外挑戦のさなかに直面した希望と葛藤の日々、そこで気づいた日本のエンターテインメント業界が進むべき道、初の写真集『CIRCLE』に込めた思いなど「山下智久の現在地」について語ってもらった。
なぜ活動の拠点を「海外」に広げたのか?
――活動の拠点を海外にも本格的に広げたいと思ったきっかけはあったのですか?
自分の世界を広げるために、もっと多様な文化に触れていきたいという好奇心がきっかけですね。デビュー以降、海外に行く機会が増えるにつれて、日本とほかの国のカルチャーの違いに衝撃を受けました。国ごとのカルチャーによって正解が変わってくる状況が、不安定だし曖昧なものだなと思いました。ただ、日本や海外でもチャンスがある場所に行くことが今の僕のスタンスです。
――現在、海外ドラマ初主演作品『Drops of God/神の雫』の撮影でフランスに4カ月ほど滞在していますが、新たに巡り合ったカルチャーはありましたか?
個人的な考えですが、アメリカは合理的に考え、目的地まで最短を目指すカルチャーだと思いました。それに対して日本はプロセスを大事にしていく。最終的な答えに辿り着くために頑張るのは同じだけど、それまでのわび・さびといったプロセスも含めて正解を出さないといけない。
その点、フランスはプロセスも合理的な考えも大事にする日本とアメリカの価値観の真ん中に位置している気がしています。フランスの歴史ある建物の近くなどを歩いていると、そんな価値観の延長上に街が成り立っていると感じることもあります。
でも、海外で一人ひとりとしっかり向き合うと、やっぱり人間って同じ生き物だなと思いました。着ている洋服や言語もカルチャーも違うと、最初は入りにくいこともありました。でも、彼ら彼女らと向き合う機会が増えて、最終的に同じ心を持ってるいるなと。
――作品の制作における日本と海外の違いは、どんなところを感じていますか?
時間ですね。海外は作品を作るための時間がたくさんある。作品に向き合っている時間が増えれば、それだけ余裕を持って準備できるので仕事に集中しやすい。一方で日本の優れた点を挙げるとしたら、スケジュールも含めて情報共有が正確です。海外の場合、そのあたりが少し緩いのでこちらから催促したほうがいいと思うこともあります。連絡がギリギリのタイミングでくることもあるので、「今どうなってる?」とこちらからしつこく聞くようにもしています(笑)。
――そんなカルチャーショックを受けながらも、良い出会いがあったと思います。
フランスで演技のコーチからレッスンを受けていると、世界が広がる感覚があります。今は、YouTubeなどで学べる情報も格段に増えています。でも、良い指導者から直に濃密なことを教わっていくほうが大事。どのスタッフもいい作品をつくるために、自分を進化させるために、日々勉強して過ごしています。
――海外でのキャリアアップを目指しているなかで、新たに取り入れた自己投資はありますか?
やっぱり語学ですね。細かい気持ちのニュアンスを伝えるにはどうしたらいいのだろうか悩みました。その逆も然りで、どうすれば相手の言葉をもっと深く、ニュアンスまで理解できるのかを課題に感じています。それを克服できれば情報量が2倍になるじゃないですか。2カ国語が話せたら、2つの言語から情報を吸収できる。3カ国語できたら3倍になる。語学って深くて面白いし、自分の可能性を広げてくれるものだなと思いますね。
カルチャーの壁を越えて、世界に作品を届けるために
――俳優やアーティストなど「表現者」としてのこだわりはなんですか?
表現者という枠に限らず、いろいろな経験をしていきたい。海外に出てアクティブに活動するこで得られる経験も大切ですが、読書や勉強からインプットできる知識も貪欲に取り入れたい。そうした学びの作業を継続していくことが大事だと僕は思います。
音楽活動も同様です。そこで得た刺激やストレスが、俳優業に生きることだってある。新しい世界を体感するには、学び続けるしかないんでしょうね。
――Netflixによる、大ヒット韓国映画のリメイク作『恋に落ちた家』に主演するニュースが日本で話題になっています。全世界に配信予定ですが、心構えなど山下さんの中で変化はありますか?
全然変わらないです。大事なのは、チームが現場で何が一番面白いと思うかを議論していくこと。ストーリーに沿った面白い状況はどうすれば作れるか、不自然なところなどを議論して改善する必要がある。
カルチャーの壁はありますが、人として、お互い感じていることをぶつけ合うことでそれは越えられると思う。「世界に届けよう」という思いを根底に持つのは、慣れないことなので難しいですけどね。
――山下さんは、日本の作品を世界に届けるような役割も担っていくと思います。海外で愛される日本の作品が少ない現状について、どう思いますか?
日本には、ドメスティックな作品が多い。そこを切り分けて制作してもいいのかもしれません。たとえば、作品ごとに海外で受けるようにアレンジしていくとか。
アジアの珍しい発酵食品も慣れたら美味しく感じるけど、最初は口に入れるのも一苦労じゃないですか。作品も同じで、日本の文化が強い作品はなかなか理解されづらい
映画『ラストサムライ』だって、日本にしかないカルチャーと物語のバランスが取れていたから、世界中で受け入れられたのだと思います。だから、方法は絶対にあると思います。ようやく日本の映像業界もグローバル化を意識し始めたので、ここからの成長を期待したいし、自分も頑張りたいと思います。
――近年は、世界中で韓国映画やドラマの躍進が目立っています。
やっぱり韓国映画はすごく面白い。あちらには数十年前から「ワールドワイドに発信していこう」という流れがありました。僕が韓国に初めていった小学生のときも、着ている洋服にアメリカを感じました。街中で英語のヒップホップが流れるカルチャーを感じたんです。当時の日本では見られない光景でした。
日本は島国だし、海外に作品を売らなくても成り立っていた時期があったんだと思います。韓国は真逆で、早くから自国のエンタメを海外に輸出しようという気運がありました。それが近年は、より加速したのかなと思います。韓国の友達もいますが、学ぶところがたくさんあり、自分も勉強させてもらっています。
今後は日本のカルチャーも、日本人としてのアイデンティティも大事にしたうえで、多様な考え方を吸収していくことが仕事にも人生にも必要だと思っています。
「幸せの基準」は海外にいても変わらない
――11月25日には初の写真集『CIRCLE』が発売されます。どんなメッセージ性を持って取り組んだのでしょうか。
恥ずかしい気持ちもありました。でも、今の自分を残してもらえる貴重な機会だったので、食事制限とトレーニングを積んだうえで撮影に挑みました。
撮影は荒々しい大自然の中で行いました。「100年後に残るタイムレスな表現」を追い求めたから、タイトルは『CIRCLE』にしたんです。雨が降り、大地から植物が育ち、自然が循環する中で僕らは生きている。それを表現できたら、今生きていることを感謝する気持ちも生まれるだろうし、自分の仕事も誰かの背中を押すCIRCLEの一部になれる。そんな思いが込められています。
――完成した写真集をご覧になった感想はどうでしたか。
裏テーマで「対比」を意識しています。朝と夜、月と太陽、火や水など世界は正反対のもので成り立っている。それが感じられるよう写真はコントラストを意識しつつ、自然のエネルギーや感情も取り入れています。時間を経ても、見るたびに違う感覚や表情を感じてもらえる作品になったら嬉しいです。
――様々な挑戦をしていく過程で、幸せの基準が変化したと感じることはありますか?
どんな時も人に迷惑をかけちゃいけないという気持ちがあります。それ以外だと、人生をしっかり楽しむこと。自分が喜ぶことや、休まる方法、興奮する瞬間を大切にする。海を見る時間も好きなので、絶対に確保したい。
そうした時間があるから、仕事も頑張れます。だから、バランスが大事かな。ここ数年は忙しい日々が続いたので、来年はインプットや勉強のための時間が取れるように環境を整えていきたいですね。
――個人的な使命感はあったりしますか? 自分に課せられている役割などは。
特に考えたことはありません。応援してくれている方々との強いつながりを感じます。僕を応援していると楽しいな、新しい刺激をもらえたなと思ってくれる人がいてくれるだけで嬉しいです。でもそのためにはどんどん冒険しないといけない。
僕が先頭を切るコーディネーターで、僕についていけば、見たこともない景色や面白いものが見られるみたいな感じです。
――最後の質問になります。海外に挑戦しようとしている次世代に向けて、エールやアドバイスを贈るとしたら?
違うものや知らないものって怖いと思うけど、相手は同じ人間なんだからフェアに行けばいいと思います。同時に「僕はこう思うよ」と意見をしっかり相手に伝えることも大事ですよね。
どっちが偉いとか、偉くないとかでもない。正直な気持ちを伝えるし、楽しいのか、嬉しいのか、悲しいのか、苦しいのか、やりたいのか。そんな感情を自分で整理しながら、相手の正直な気持ちも聞く。
リアルなコミュニケーションができれば、きっと異国の相手でも深いつながりを感じられます。だから、「海外に出たい」という正直な気持ちを大切にしていれば、必ず道は開けると思います。
池田 鉄平(いけだ てっぺい)Teppei Ikeda ◎ライター・編集者
Jリーグ、国内、外資系のスポーツメーカー勤務を経て、ウェブメディアを中心に活動。音楽一家で育ち、アーティストとしてインディーズでアルバムリリースも経験。スポーツ、音楽、エンタメを中心に取材活動を行っている。