寺島しのぶ(48) 撮影/矢島泰輔スタイリング/中井綾子(crepe)ヘアメイク/光倉カオル(dynamic)衣装協力/ROSETTAGETTY、TASAKI

 

「鶴橋(康夫)監督の作品は基本的に断りません。そして共演に宮沢りえさん、さらにはこの脚本で出演を決めました」

 2夜連続放送のスペシャルドラマ 山崎豊子『女系家族』。今まで何度か映像化されてきた不朽の名作だ。

「だから、やりがいとともにプレッシャーを感じました」

 演じるのは、大阪・船場で四代続く女系筋の老舗木綿問屋“矢島商店”の長女(総領娘)・矢島藤代。ある日、婿の当主であり、父である嘉蔵(役所広司)が総資産数十億円を残してこの世を去る。そして、矢島家の三姉妹の前に突如現れたのは嘉蔵の愛人・浜田文乃(宮沢りえ)。それぞれの思惑と意地のぶつかり合い、罵り合い。熾烈な遺産争いが繰り広げられる!! 

寺島しのぶの“もっと欲しいもの”

演じるのは楽しかったですね。藤代は“長女だからいちばんもらわなきゃ嫌!!”で。もともとの性格なのか、そういう教育を受けてしまったのか……。でも総領娘にそぐわない人物だから余計に順番に執着してしまう。しゃかりきに頑張るそのアンバランスさが、かわいそうだなあと思いますけどね

 遺言書では、三姉妹に平等に遺産を分け与えているように思えるのだが、藤代を筆頭に全員が疑心暗鬼に。

父親からの愛の配分が額面、という部分もあるから余計わかりづらいし、ややこしい。ただ、自分の不服をあれほどまでに直球でガーッて言えるのは、なかなかいいなぁとは思いましたね(笑)。今の世の中、そんなに言えないじゃないですか。たとえ身内でも

 すでに十分持っているのに、もっともっと欲しい――。そんなものがあるかと尋ねてみると、

絶対、お金ですよ!!

 と、即答。

みんな同じですよ(笑)。“お金なんて別になくていい”なんていう人、いるのかな? 車でしょ、リフォームでしょ。お金がかかることはいろいろありますよ(笑)

 もちろんポンポンとは使わないが、“お金がある”と思うと安心して生活が送れると明るく笑う。

遺産相続の話で、しかも早口な船場言葉なので難しかったですけど、それが必死に生きているさまを映せていると思います。それぞれの“人間の業”が見えるんじゃないかな。決して見て損はない作品になっていると思います

気遣いができるようになれたらいいな

 日本アカデミー賞最優秀主演女優賞ほか、国内外の映画賞に多数輝くなど、日本を代表する女優・寺島しのぶ(48)。作品クレジットにその名があれば“面白そう”と自然と思わされる魅力と引力がある。青山学院大学在学中の・92年に文学座の門を叩いてから来年で30年。女優として、大切にしているものを聞くと、

やっぱり思いやりですかね。 余裕ができてくると、どんどんいろんなことが見えてくるんですよね。自分の演技うんぬんだけじゃなく、スタッフさんの動きとか、“組”のみんなの心の機微のようなものとか。うまくいってないなと感じたら、自分がそっとかけられる言葉が出てくるといいな、といつも思っています。だんだん言える立場になってきたから

 若いときには、それができずにもどかしく思っていた?

寺島しのぶ(48) 撮影/矢島泰輔スタイリング/中井綾子(crepe)ヘアメイク/光倉カオル(dynamic)衣装協力/ROSETTAGETTY、TASAKI

そうですね。でも、文句を言う余裕もなくて、イライラしてましたね。ただひたすら耐えて、やっていたような気がします。若い子はなかなか言いたいことを言えないですからね。だから、思いやりをもって、いろいろなところに気遣いができるようになれたらいいなと思っていますよね

 4年前から歌舞伎の舞台に立っている愛息・寺嶋眞秀くんも9歳に。やんちゃの盛りだそう。そんな子育てに奮闘しながらの女優業の大変さについては、

やっぱり子どもをちゃんと育てる。それができているかどうかはわからないけど。

 今後、どういった塩梅で仕事をしていくのかはわからないですけど、でも常にスタンスは変わらない。いいものに出会えたら参加する。そこでもし、支障が出るならいろんな人に助けてもらって頑張る。それしかないですね。もう日々、綱渡りです。

 子どもがいると大変ですよね。でも子どもから学ぶこともたくさんある。だから“濃厚な人生を生きている”と思えば、いいかなと思ったりもしています

 大女優は、とても幸せそうに見えた――。

●宮沢りえとの初共演

 父親の愛人・浜田文乃役には宮沢りえ。

2夜連続ドラマスペシャル、山崎豊子『女系家族』12/4(土)・5(日)夜9時〜放送(テレビ朝日系)

よくここまで交わらなかったなって思いますね(笑)。宮沢さんも48歳。同年代だから逆に交わらなかったのかな? “今作のこの役でこういう形で出会うんだな”とは感じましたね。

 宮沢さんは間違いなく日本の中のトップ女優さん。本当に感情が自然と湧いてくるように役になられている。

 ただ、直接絡むシーンはそれほど多くはなくて。父親は三姉妹に愛情をかけなかったのに、こういう女性を見つけて安らいでいた。しかも子どもまでつくって。

 藤代としては“もう何なの!?”っていうところですよね。文乃への直接の恨みではなく、父親を通じたその存在への思い。そういう意味では、どう接していいのかは難しかったですね