2021年も残りあとわずか。今年も芸能人、文化人、政治家による失言が後を絶たない1年だった。そこで週刊女性では、失言を“芸能界”“政界”“五輪”“企業・その他”の4つの部門で、勝手に今年を彩った失言を振り返る。
識者に、『炎上するバカさせるバカ』を上梓したネットニュース編集者の中川淳一郎氏、コラムニストの吉田潮氏を招き、失言の傾向や対策をあれこれ考察! 失言をした人にとっては振り返ってほしくないだろう余計なお世話な本企画。今年は、どんな失言があった!?
失言を超えた“問題発言”で大炎上の芸能界
【芸能界部門】
<大賞> 藤井フミヤ
「それはもう、ネットでほとんど見てます」
<次点>
徳光和夫
「(明石家さんまなら)AKBのひとりやふたりは妊娠させられる」
有村昆
「僕が彼女を傷つけてしまったことに変わりはない。(中略)ということで、切腹(離婚)を申し入れたと。(中略)これは武士の世の話ですけど」
メンタリストDaiGo
「ホームレスの命はどうでもいい」
このように、数多くの失言が飛び出した芸能界。だが、失言の枠を大きく超えてしまい、エントリーを見送ったものがある。識者2人も問題視する、『スッキリ』でアイヌの女性を取り上げたドキュメンタリー作品を紹介した際の脳みそ夫の発言だ。
問題となったセリフはディレクターが考案し、脳みそ夫は懸念を示していたとも言われるだけにまったくスッキリしない幕引きに。
この発言と同系列に並べられるのが、ひろゆきが発した「(『雨上がり決死隊』の)蛍原さんは精神的な何かの病気なんですよ(笑)」という失言。これは『雨上がり決死隊』の解散報告会見を受けての言葉だった。
このとき、ひろゆきは「蛍原さんは実力がない」とまで言い切った。のちに“酔っ払っていた”と言い訳をしたが、ネット上で大炎上に──。
「ひろゆきさんやDaiGoさんの発言もそうですが、差別的な発言は決まって炎上する。ただ、DaiGoさんは騒動後、ホームレス支援団体に寄付をするなどして鎮静化に奔走した。
脳みそ夫さんもドキュメンタリー作品の出演者に会って謝罪もしたそうですが、そういったことが世間に伝わりきれていないことがもったいないですね」(中川さん)
吉田さんも、「こういった発言にGOサインを出すテレビ局のモラルを疑う。失言というよりモラルの欠如」とピシャリ。
「地上波である『あさイチ』出演時の藤井フミヤの(『あさイチ』を)“ネットでほとんど見てます”が、本来の失言です(笑)。どこか笑える要素がありますよね。なので、これが大賞かな。
ほかはあまりに笑えないものばかり。有村昆に関しては、なんで不倫騒動で醜態をさらしたあなたが武士を気取っているのか意味不明。
武士などという言葉を使った、上っ面の誠意の見せ方はデメリットしかないことを示した好例ではないか。謝罪理由の不倫はもちろん問題ですが、言葉に詰まる東出昌大のような謝罪のほうがよっぽど好感が持てます」(吉田さん)
抜群の安定感!? 政治家のやらかし
【政界部門】
<大賞> 木下富美子
「仕事したいのにできない理不尽あった」
<次点>
麻生太郎
「北海道のお米は温暖化でおいしくなった」
小泉進次郎
「プラスチックの原料って石油なんですよね。意外にこれ知られてない」
静岡県 川勝平太知事
「(御殿場市について)コシヒカリしかない」
失言の宝庫ともいえる政治家たち。とりわけ麻生太郎には安定感すら感じるほど……。
「政治家の失言は、会合や講演会などから漏れたものが多い。つまり、周りに支持者やイエスマンしかいない状況で発言しているわけで、失言ではなく、本音、本質なんですよ。そういう発言をしても“先生”と呼ばれている環境がいちばん恐ろしい」(吉田さん)
また、芸能人のように世の中の動向に応じてアップデートをしていない点も、政治家から失言や暴言がなくならない一因とも。
「石田純一の“不倫は文化”や、田原俊彦の“僕くらいビッグになると”などの失言のように、芸能人はそのまま仕事の減少に直結する。そのため、どういった発言が災上するのか、常に気を配っているところがありますよね。一方、政治家は失言したところで仕事を失うわけではない」
そう吉田さんが指摘するように、離党はしても議員を辞するケースはほとんど見られない。その最たる例が、東京都議選の期間中、無免許運転でひき逃げした疑いで書類送検された木下富美子元都議だろう。最終的には、辞意を示したが、最後まで議員という立場にしがみついた。
中川さんは、「久々に現れたお騒がせ政治家。令和の野々村竜太郎ですよ」と、かつて世間を騒がせた号泣県議の姿を重ねる。号泣しながら意味不明のコメントをし続けた野々村氏同様、木下富美子も往生際が悪かった。
「木下さんは、“食べ物が口を通らないことも”と話していたけど、まったくやつれているようには見えなかったですよね。また、“(議員活動を)ぜひ続けてほしいとの声があるのも事実”と自ら語るなど、ツッコミどころが満載すぎた(笑)。
野々村竜太郎が登場した2014年は、小保方晴子、佐村河内守といった名物素人が立て続けに出現した奇跡の1年でしたが、その時代を彷彿とさせる珍キャラクターでした」(中川さん)
無免許運転&ひき逃げは許されることではないが、確かに強烈なインパクトを残したという意味では、今年を象徴する人物のひとりかも。
また、環境大臣に任命されて以降、独特な言い回しが仇となり、メッキをはがし続ける小泉進次郎も、今年を彩ったひとりだ。
「薄口政治家。人の心をつかむのは上手かもしれないけど、大臣になったことで、いろいろと足りないことが露呈してしまった。ただ、彼は人を傷つけるような発言をしているわけではないですからね。いろいろと足りないだけ」(吉田さん)
「日本の温室効果ガスの削減目標について“おぼろげながら浮かんできたんです、46という数字が”も、言わなきゃよかった失言でしょう。
インターネット上で、立派にいじられるポジションを確立した1年」(中川さん)
世紀の祭典も“余計な言葉”だらけ
【五輪部門】
<大賞> 張本勲
「嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合ってね。こんな競技好きな人がいるんだ」
<次点>
森喜朗
「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」
トーマス・バッハ IOC会長
「目指すのは万人が安全な大会。万人とはアスリートであり、各国選手団であり、チャイニーズピープル」
河村たかし
「歯が食い込むようなかみ方はしていない。跡はついとらんと思う」
メダルラッシュに沸いたオリンピック・パラリンピック。失言の数も負けていない。
なんといっても、これまで「神の国」「必ず転ぶ」といった数々の失言を繰り返してきた森喜朗の盤石さが目立つ。「有名人は田んぼを走ったらいいんじゃないか」という失言もあった。
「森喜朗、河村たかし、張本勲……彼らは根底に女性は見下すものという価値観がある。女は、“結婚しろ”“子どもを産め”“歯向かうな”といった本音が私には透けて見えます。
俺ファーストであり男ファーストなんですよ。そういう人たちが領袖であったり、ご意見番として重宝されていることにめまいがします(苦笑)」(吉田さん)
そのうえで、中川さんは「張本勲が謝罪をするまでに至ったのは大きな変化」と語る。
「張本さんは、以前にもカーリングのVTR後に、“この子たちは掃除好きでいい奥さんになるよ~”といった趣旨のトンデモ発言をしているのですが、そのときは騒動にはなっていない。今回の発言も彼からすれば通常運転なんだけど、世間は許容しないことが示された。
謝罪といっても隣の唐橋ユミさんが謝って、本人は“気をつけます”しか言ってないものの、ついに張本さんの発言も許されなくなってきたかという印象」(中川さん)
少し前なら笑ってごまかせたかもしれないが、森喜朗は辞任、河村たかしは袋叩きに──。
「謝罪文が殴り書きだったように、河村たかしは何が悪いのか理解できていないんでしょう。そもそも、後藤希友選手に対して、挨拶で“恋愛してるか?”“(身体が)大きいな”なんて平気で言ってしまうほど、デリカシーが低レベルなんです」(吉田さん)
女性蔑視的な失言が多かったことを考えると、世間の反応がわからないオジサンたちの失言からの災上は来年以降、もっと増えそう!? 彼らと比べれば、日本人をチャイニーズピープルと言い間違えたバッハ会長は可愛いものかもしれない。
「流行語大賞候補に、バッハ会長を揶揄する“ぼったくり男爵”がノミネートされたように、みんなどこかで苦々しく思っていたのでしょう(笑)。彼に対する日本人の底意地の悪い部分が“ぼったくり男爵”ノミネートという事実に見事に集約されている」(吉田さん)
コロナで増えた?“トップの失言”
【企業・その他部門】
<大賞> サントリー 新浪剛史社長
「45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要だ」
<次点>
タマホーム 玉木伸弥社長
「ワクチン接種をしたら5年後に死ぬ」
八代英輝弁護士
「共産党は暴力的な革命を廃止していない」
高橋洋一
「日本の新型コロナウイルス感染状況は先進国に比べて“さざ波”」
今年は、「企業のトップによる失言が多かったイメージがある」とは吉田さん。サントリー、タマホームのほかに、KADOKAWA代表取締役である夏野剛さんが、子どもの運動会や発表会などが無観客で行われていることに対し、「くそなピアノの発表会なんてどうでもいい、オリンピックに比べれば」と発言し炎上したことも記憶に新しい。
「サントリーの46歳以上の社員のモチベーションが心配になる(苦笑)。若手は将来、リストラされるかもしれない恐怖を感じたでしょうし、まさに失言ですよね」(吉田さん)
また、タマホームは「接種したら無期限の自宅待機」とも発言し、株価が暴落した。こうしたコロナ関連の失言が目立ったのも、今年の特徴だろう。
「データを見るにさざ波だったのは事実なのに、高橋洋一さんは内閣官房参与を辞任した。コロナを過度に恐れる人たちによって辞めさせられたといっても過言ではない。
また、『サンデーモーニング』で、第5波で急激に陽性者が減ったことを受け、関口宏が“これでいいんですかね……”とこぼしていた。減ってんだからいいに決まっているだろと(笑)。コロナに紐づく形でSNSを中心にトンデモ発言が多かったことも特徴」(中川さん)
また中川さんは、今年は過去の失言が発掘されるケースが顕著だったとも付言する。
「最たる例は、小山田圭吾や小林賢太郎。彼らは過去の問題発言が引き金となり、オリンピック関連の仕事から辞任した。
障害者に対するイジメの事実は言語道断ですが、何十年も前の発言をまるで遺跡発掘のように探し出し、引責を要求するのは、さすがにやりすぎではないか」
前出のDaiGoも過去には、「差別発言ってね、頭が悪い証拠なんですよ。IQが低い人ほど差別的な発言をする」という発言をしていた。それを発掘した人たちからは、今回の失言に対して「特大ブーメラン」と揶揄する言葉が。差別主義者をディスっていた過去の言葉で、自らが斬られてしまう結果になった。彼の場合は自業自得だが、
「発掘された失言が、突然、ブーメランのように戻ってくる。こうした背景には、テレビやラジオの発言を切り取るだけで取材をしない“こたつ記事”が氾濫し、質の悪いニュースでもPVを稼げることが大きい。
有名人の失言がコンテンツとして消費されることがわかったため、過去の発言でさえ商品化してしまう」(中川さん)
吉田さんは、「区別が必要」と話す。
「差別的、侮蔑的発言は、失言とは違いますよね。そういった発言にはきちんとノーを突きつけないといけない。そして、失言の中には“うっかり”ではなく、その人の本音もある。
有名人が失言をしたときに、受け取るわれわれが本当にそれが失言なのかを区別しなきゃいけない。過去の失言なんて、人間だったら誰だってあるはず。それを今の時代に失言と受け取っていいのか?」(吉田さん)
出てこないことが望ましいが、人間の“性”なのか、なくなることのない失言。どうせ出てきてしまうのなら、笑い飛ばせる失言で来年は楽しませてほしい!
<取材・文/我妻アヅ子>