10月にスタートした秋ドラマも後半戦に突入。物語やキャラクター像がだいぶ見えてきた。そんな中で“フタを開けてみたらイマイチ”“なんだか残念な感じ”というがっかりドラマは? ドラマに精通するライターの吉田潮さんと同じく田幸和歌子さんに聞いた。
「今回の秋ドラマは基本的に豊作ですよ」。
忖度なしの辛口評がお得意な2人が口を合わせる。
「7月期のドラマがひどかったせいか、10月期はバラエティーに富んでいると思いますね。セレブ社長がいたり(『SUPER RICH』木曜夜10時~フジテレビ系)、ヤンキーに恋する白杖女子がいたり(『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』水曜夜10時~日本テレビ系)。一方で日本が沈没したり(『日本沈没-希望のひと-』日曜夜9時~TBS系)。いろいろな立場の人、設定があって飽きずに見られている感じはありますね」(吉田さん)
「『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』は主演の杉咲花さん、杉野遥亮さんだけでなく、脇に至るまでひとりひとりがすごく上手。ともすれば、お涙頂戴のドラマにだってなりかねないところを、やさしく楽しく作っていて。バランスがいい良作です。また、続きが気になってしょうがないのは『最愛』(金曜夜10時~TBS系)。作品に強さがあります」(田幸さん)
既視感があるがっかりドラマは…
そんな2人の期待値に届かず、がっかりした作品は……? まずは『らせんの迷宮~DNA科学捜査~』(金曜夜8時~テレビ東京系)。天才遺伝子科学者の神保仁(田中圭)が、熱血刑事の安堂源次(安田顕)とともに難事件を解決していく物語となっている。
「“田中圭さん&安田顕さんなんて、面白そう!”と思ったんですけど、真新しさは何ひとつありませんでした。天才科学者と熱血刑事という組み合わせに加え、内容も。田中圭さんは“天才”とか“イケメン”などの下駄を履かされると、その魅力が発揮できない感じですね。やっぱり情けない男のほうがしっくりくる」(吉田さん)
「せっかくのキャスティングだったのに、なんでこんな雑な台本なんだろうという感じですね。いろんな場面に既視感があるうえに、説得力がない。DNAを扱うという意味では『アンナチュラル』('18年)とカブるところがあって。多くの視聴者は『アンナチュラル』の非常に見事な構成と、入念な取材のうえに成り立つ整合性を知ってしまっている。
だから、この題材でこれほど雑なのはもったいない。そもそもテレビ東京のドラマって面白い良作が多く、打率で言うならいちばんじゃないですか? でも、たまにこういうこともあるんですね。(テレ東が)向いていない題材というのもあるなと思いました」(田幸さん)
吉田さんもこの作品の放送枠について思うところが。
「テレ東の金曜夜8時の枠って、『三匹のおっさん』('14年ほか)、『特命刑事 カクホの女』('18年~)、『警視庁ゼロ係~生活安全課なんでも相談室~』('16年~)など、お年寄りがほっこり見る枠としてやってきたわけです。でも人気俳優を使いたかったんでしょうね(笑)。その気概はいいんだけど、せっかくのキャスティングでも、内容は従来のほっこりを抜け出せないというか、2人をこの枠に当てはめてしまった。結果、がっかりでした」
豪華キャスト揃いだけど
続いては『日本沈没-希望のひと-』。日本の沈没という未曾有の危機に、若き官僚たちが立ち向かっていく……。6話(11月21日)時点で平均視聴率が15・8%(世帯)と数字はとてもいいのだが、
「お金をかけて、CGなども手間をかけて作っていると思うんですけど。小栗旬さん、杏さん、松山ケンイチさん、香川照之さん、仲村トオルさん……と主演クラスばかり。
豪華なキャスト、すごいCG、ババーン! といった音楽の盛り上げ方。それがたぶん、古いんじゃないかな(笑)。その大袈裟さが、逆にチープな感じになっているというか。“これでもか!”と乗っけていく作品ほどしくじり率って高くて(笑)。薪をくべるほどに炎が小さくなっている感じはありますね。
そして、うるさいBGMが好きじゃない視聴者は多い。見方はそれぞれ自分で考えて、自分で決めるのに、“ここはすごいところですよ!”と押しつけられる感に引いてしまいます。そんなふうに大袈裟に煽るわりには、登場人物たちがお酒の話をしていたりと、普通の日常を見せられている部分もあって、切迫感がない。私たちはそれこそ3・11やコロナなどで、本当の危機を知ってしまっている。なのにドラマの中の人たちはずいぶんのん気だなと感じ、白けます」(田幸さん)
そして、吉田さんはこう見る。
「日曜劇場はやっぱり、日本の民放ドラマの中でいちばんお金をかけて大作を作れる枠のはず。でも、ディザースター(災害)ものとしては、映像がショボくないですか? 関東地方の一部がすでに沈没しましたけど、高層ビルが沈み、地面が割れて……となっても迫力がない。私が期待しすぎたのかな? Netflixで世界同時配信するくらいだったら、もっと頑張ろうよっていう気がしますね。
そして、天海啓示(小栗旬)が裂け目に落ちて助けられていましたけど、“裂け目に落ちたシーン、撮らなかったんかい!”っていう(笑)。ブツ切れ感もあります。
勝手な推測ですけど、今、軽石が問題になっているじゃないですか、福徳岡ノ場の海底火山の噴火による。まさに現実とリンクしますよね。体験したことがないことが起きている怖さがあると思うんです。あまりにリアルに作っちゃうとクレームが来たり、誰かのトラウマになってしまう懸念もある。だからキャストを危険なシーンにあまり絡めず、お茶を濁す感じのCGにあえてとどめているのかもしれないですね(笑)。
代わりにたくさん描いているのが、官僚たちによる未来推進会議のシーン。“官僚同士、あんな仲良くやるわけないだろう”って思いますけど(笑)」
ここまではぴたっと意見が一致していたが、2人の見解がわかれた作品も。
「『アバランチ』(月曜夜10時~カンテレ・フジテレビ系)は、実はいちばん期待してたんですけどね……」
とは、吉田さん。3年前の事件によって警察を辞めた羽生誠一(綾野剛)。しかし山守美智代(木村佳乃)によって集められた“アバランチ”のメンバーとして日本の権力に挑んでいく。
「月曜10時という新設枠。そして開始直前までいろんな情報を隠し、謎めいていて。監督(藤井道人)も映画畑の人ということで。一体、どれほどまでに新しいものを見せてくれるのかと期待値だけが上がってしまった。
でも開けてみたら“これ、どっかで見たことありますねぇ”の寄せ集めでした。警察内部の話なんですが、復讐のためにみんなが動き出す……みたいな。前にカンテレでやっていた『DIVER-組対潜入班-』('20年)ですよね? 要は警察の中で一応、指示を受けてはやっているけれど本人たちは警察じゃない、そして巨悪を倒す、みたいな。まだ他にも、この手の作品はあった気がしますね。そして、悪玉のラスボスが渡部篤郎という抜け感もカンテレっぽい(笑)」
ただキャストの中に嫌いな人物はいないと吉田さん。
「むしろ適材適所ですよ。そして、映像や音の入れ方なんかはカッコいい。ただ、最初にぶち上げたわりにねぇ(笑)。作り手が、あんまりドラマ見てないだろうなって気がしますよ。途中でエピソード0に戻る作品も、これまでいくらでもありましたし。これから第2部に突入していきますけど、それほどまでに新しく、素敵な仕掛けが待っているかは疑問ですね。まあ、どうなるかはわからないので最後まで見ますけど」
一方、田幸さんが挙げたのは『真犯人フラグ』(日曜夜10時30分~日本テレビ系)と『婚姻届に判を捺しただけですが(ハンオシ)』(火曜夜10時~TBS系)。
『真犯人フラグ』は相良凌介(西島秀俊)の妻(宮沢りえ)と子が失踪。その容疑が凌介に向けられてしまう。
「『真犯人フラグ』はどこかとっ散らかっていて、いかにも秋元康さんの企画作だなという感じです。もちろんキャッチーなうまさはあって。『あなたの番です』('19年)はヒットしましたし。放送中の『じゃない方の彼女』(月曜夜11時6分~テレビ東京系)も秋元康さんの企画作ですけど、こちらは男性のベタベタの妄想がてんこ盛り(笑)。でも、だからこそ、一定の視聴者に受け入れられるところもあると思うんです。
でも、『真犯人フラグ』はSNSでの考察狙いが見え見えで。そして、役者さんを殺しちゃっている感じがするのも残念ですね。
西島秀俊さんの主演ということで、楽しみにしていた人も多いはずなんですけど、この役だと西島さんの良さが出ていない。他にも芳根京子さん、桜井ユキさん、迫田孝也さん、柄本時生さんなど、芝居できる人たちをたくさん投入しているんですけど、なんだか生かされていない気がします」
『ハンオシ』は、祖母の遺した借金を背負うことになった大加戸明葉(清野菜名)と、社会的メリットのために百瀬柊(坂口健太郎)が偽装結婚をする、というストーリー。
「いろいろと中途半端な印象があって。ヒロインの相手役がデリカシーのない男性というのも二番三番四番煎じ。“がっかり”というよりは、“やっぱり面白くなかった”という感じかもしれません。
TBSの火曜夜10時のドラマは『恋はつづくよどこまでも(恋つづ)』('20年)が当たりすぎたせいで、以来ずっと“恋つづ病”にかかっている気がします。役者さんたちも、苦労しているように見えますね。まったく違う作品で挑んでみるなど一度、その呪いを解かないことには厳しいような気はします」
もちろんドラマの見方は十人十色。そして最終回を迎えてみるまでは、どう転がるかはわからない。心揺さぶる今後の展開を期待しています!