昨年来のコロナ禍の影響から、通常より1ヵ月遅れて、11月1日にスタートした、NHK連続テレビ小説(通称・朝ドラ)通算第105作『カムカムエヴリバディ』。
以前も書かせていただきましたが、朝ドラは年度前期が東京NHKの制作(通称・A制)で、後期は大阪NHKの制作(通称・B制)となっています。『カムカムエヴリバディ』はB制となるワケですが、このB制はいつも野心的な作品を送り出しているという特徴があるんですね。
例えば、史上最年少・最年長ヒロインはいずれもB制ですし、朝ドラに男性主人公を19年ぶりに復活させたのもB制でした。
そして今回は、初のヒロイン3人交代制(登場順に上白石萌音、深津絵里、川栄李奈)という試みに挑んでいます。現在は視聴率的に少々苦戦しているようですが、変な“外圧”に負けず、是非とも面白い作品に仕上げていただきたいものです。
さて、そんな朝ドラには様々な“法則”がある……と、以前指摘させていただきました。今回は、その続編をお送りしたいと思います。
法則1:キーパーソンは、“お父さん”!
『カムカムエヴリバディ』で、ヒロインのお父さん役は、甲本雅裕。最近も『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京系)の刑事役などでクセの強い演技を披露されていた方だけに、朝ドラでどんなお父さんを……と筆者は勝手に期待していたのですが、実直な和菓子職人という役どころでした。
ただこの実直という点がポイントで、朝ドラではこうしたお父さんの性格が、ヒロインの人生へ、陰に日向に影響を及ぼすことが多いのです。
例えば前作『おかえりモネ』のお父さん役は、内野聖陽。若い頃はトランペット奏者を目指していたということが、娘の百音(清原果耶)が音楽と出会うキッカケとなり、中学で吹奏楽部を立ち上げることになる、という具合。
第98作『半分、青い。』のお父さん(滝藤賢一)の場合も、その漫画好きが影響して、娘の鈴愛(永野芽郁)が漫画家を目指すキッカケになっていましたね。
また、ヒロインに対して強烈な影響を与える変人お父さんも多く、例えば第90作『花子とアン』のお父さん(伊原剛志)は逃亡生活者でしたし、第92作『まれ』のお父さん(大泉洋)は一獲千金を夢見る男、第96作『ひよっこ』のお父さん(沢村一樹)は何と記憶喪失でしたからね。
こうした朝ドラのお父さん像について、筆者が教鞭をとる日大藝術学部で、テレビドラマの表現研究を専門としている教授たちと議論したことがあります。その結果、導き出した仮説は以下の通り。
(1) 父さんはコメディリリーフ(笑わせる役どころ)にしやすいから
(2) 近年は40~50代の男優に人気者が多いための見せ場作り
(3) 変な父を、ヒロインにとって「自分はしっかりしなきゃ」という反面教師的存在とするため
(4) 父が大事にしてきたことをヒロインが受け継ぐという価値観への理解・共有・継承の意味合い
……という感じ。いかがでしょうか? 少なくとも、若い女性が主人公になることの多い朝ドラでは、お父さんの存在がカギとなっていること自体が、一種の“約束ごと”になっているのは確かなようです。今後も朝ドラのお父さんには注目です。
法則2:ヒロインはムチャしがち(特に物語序盤)
『カムカムエヴリバディ』では、自転車が得意でない安子(上白石萌音)が、恋心を寄せる稔(松村北斗)の元へ、フラフラしながら自転車に乗り、転倒しかける、というシーンがありましたね。朝ドラではヒロインが、こうしたムチャをするシーンが、特に物語の序盤に登場するという法則があります。
過去の作品で、この“ムチャ”の典型例となっていたのが「高い木へ登ること」と「水(川、池、海)に落ちること」。これについては一昨年、筆者が構成を担当した『朝ドラ100作』を記念した特別番組でも俎上に乗り、実際、番組でも検証してみました。
「ヒロインの木登りシーン」については、第6作『おはなはん』で初登場。以下、確認できただけでも第36作『はね駒』、第56作『あぐり』、第58作『天うらら』、第74作『純情きらり』、第80作『つばさ』、第90作『花子とアン』、第93作『あさが来た』と8作もありました。
「ヒロインが水に落ちるシーン」のほうも、第46作『君の名は』、第67作『まんてん』、第76作『どんど晴れ』、第83作『てっぱん』、第88作『あまちゃん』、第89作『ごちそうさん』、第91作『マッサン』、第94作『とと姉ちゃん』と、こちらも8作で登場。
このほかにも、高い所から大雪の上に落ちる第17作『雲のじゅうたん』のように、ヒロインがムチャなことをして、危ない目に遭うというシーンは、確かに朝ドラの物語の序盤によく登場します。
これについて番組で取材したところ、実際に朝ドラの制作担当経験のあるプロデューサー氏はこう答えてくれました。
「半年にわたって放送される朝ドラのヒロインは、真面目でスキのない人物では愛されなく、少しドジで思い切りのいい、ムチャをする人物として描いたほうがいいということはあります。そのため、ヒロインのキャラクターを紹介する物語の序盤で、少しムチャをして痛い目に遭うシーンを用意し、どこか憎めない、お転婆キャラを演出しているのは確かでしょうね」
法則3:第二・第三の男が人気を博す!
朝ドラは、2010年3月スタートの第82作『ゲゲゲの女房』から、放送開始時間をそれまでの午前8時15分から15分早め、午前8時ちょうどスタートとなりました。
それと相前後して採用されたのが、朝ドラの“複数イケメン制”です。これは、後にヒロインの伴侶となる男性以外に、心をときめかせる人物(当然の如くイケメン)を複数配置するという制度(?)。
役どころとしては、仕事上のパートナーであったり、ヒロインを公私で支える人物だったりが多いですね。半年の間、ほぼ毎朝放送される長丁場の朝ドラにあっては、飽きずに見せていくためにも、イケメンの複数化は2010年代に入ってますます必然になったのでしょう。そして、これによって人気を博すことになったのは、実は第二・第三のイケメンのほうなのです。
その火付け役となったのは、2011年10月スタートの第85作『カーネーション』に登場した周防龍一(綾野剛)。妻子ある紳士服職人で、ヒロインの糸子(尾野真千子)の洋装店で働くことになり、糸子は彼に秘かに恋心を抱いて……という設定でした。実はこの周防さん、わずか2週間ほどの出演だったのですが、人気が沸騰。先述の特番『朝ドラ100作』でも、朝ドラ史上忘れられないキャラとして堂々ベスト5入りしています。
また『あさが来た』に登場した五代才助(ディーン・フジオカ)も。
偶然出会ったヒロインのあさ(波瑠)に好意を抱き、事業に奮闘する彼女へ様々な助言を与えた人物でした。この役によって、ディーン・フジオカは一躍人気を博し、大出世作に。そして今年の大河ドラマ『青天を衝け』で再び五代役を演じることにも繋がっています。
このほか、『あまちゃん』の福士蒼汰、松田龍平、第95作『べっぴんさん』の松下優也、高良健吾、第97作『わろてんか』の高橋一生、『半分、青い。』の中村倫也、志尊淳、間宮祥太朗、『おかえりモネ』の永瀬廉などなど、第二・第三の男たちが人気を獲得する例はたくさんありますよね。
これについて我が日藝の教授陣は、ヒロインにとって夫や恋人という制約から解き放たれた位置にいる男たちのほうが生き生きと見えるという心理が働くからではと指摘されていました。マァ実際、不倫のはじまりって、そういうことかもしれませんしね(笑)。
以上、今回は3つの“朝ドラの法則”を検証させていただきました。また機会がございましたら、さらなる法則について掘り下げてまいりたいと思います。
小林 偉(こばやし つよし)Tsuyoshi Kobayashi メディア研究家
メディア研究家、放送作家、日本大学芸術学部講師。東京・両国生まれ。日本大学藝術学部放送学科卒業後、広告代理店、出版社を経て、放送作家に転身(日本脚本家連盟所属)。クイズ番組を振り出しに、スポーツ、紀行、トーク、音楽、ドキュメンタリーなど、様々なジャンルのテレビ/ラジオ/配信番組などの構成に携わる。また、ドラマ研究家としても活動し、2014年にはその熱が高じて初のドラマ原案・脚本構成も手掛ける。