「議員の政治的な実力ではなく、資質が問われた1年でしたね。政策や政治的なビジョンを議論する以前の次元の低い問題ばかりが起きた」
政治に詳しいジャーナリストの大谷昭宏さんは呆れた口調で話す。今年も各地で政治家の不祥事が相次ぎ、多くの『お騒がせ議員』がカメラの前で頭を下げた。
有権者を裏切る身勝手さ
「政治とカネ」よりもその人の人間性が表れるようなケースが目立った。暴言や女性問題、コロナ禍の緊急事態宣言下での飲み会の参加やノーマスクで議会に出席。さらには無免許運転で当て逃げをしたり、盗撮で逮捕されたり……。
貴重な1票を投じた有権者たちの思いを踏みにじるような行為の数々。辞職勧告された議員も少なくない。
その1人に大分県臼杵市の若林純一市議がいる。
若林市議が起こしたのは「鼻マスク」騒動だ。
続くコロナ禍。感染拡大を防ぐため、公共の場でのマスク着用はマスト。だが、同市議はマスクから鼻を出した状態で委員会などに出席。委員長からマスクを正しく着用してから発言するよう求められてもそれを拒否した。
それどころか11月30日の議会には「ノーマスク」で参加。議長から注意されても無言を貫き、退廷を命じられても無視。議会が中断した。市議は記者の質問に対し、「退廷させられるだけの理由とは思えないので退席しなかった」と憤りをみせており、平行線をたどっている。
臼杵市のマスク騒動は続きそうだ。
さらに日本中を怒りの渦に巻き込み、その進退が注目された木下富美子前東京都議。
逃げ回った末の辞職
今年7月、都議選最中に無免許運転で人身事故を起こしていたことが発覚。さらに免停期間中なのに6回も無免許運転をしていたという。
都議会は事情を尋ねようと召喚状を送付したが体調不良を理由に本人は現れなかった。さらに2回にわたって辞職勧告を決議したが雲隠れを決め込んだ。
しかし、11月22日、ついに辞職を表明した。だが問題はその際の会見。木下前都議は「仕事がしたくて、議員継続を望んでいるにもかかわらず仕事をさせてもらえない」「理不尽な現実に悩んだ」などと恨み節をさく裂。物議を醸した。
その様子は'14年政務活動費をめぐる問題で会見を開いた野々村竜太郎兵庫県議(当時)を思い出させた。
地域政党「自由を守る会」は12月1日、会見を開き、木下前都議に支払われる予定のボーナス、約115万円の差し止めを求める住民監査請求を提出したと発表した。
同党代表の上田令子都議は、
「彼女は会見で自分を客観的に認識できていないと思いました。議員をなんらかの身分、特権のように勘違いをしていると思いました。それに犯罪行為に関する反省もなく権利ばかり主張していた。ご自身が果たすべき義務、果たさなければならなかった責任があったにもかかわらず自分の主張ばかり。
誠意がまったく見られず自己弁護に終始していたと感じました。それに自分は働きたいのに、“都議会のみなさんによって議員バッジを取り上げられた”というような話しぶりは被害妄想もあるのではないかと感じるほどでした」
今後、木下前都議に対し、公の場所での説明を求めるのか尋ねると、
「それは求めません。彼女は反省もしていないし、都民の利益を損なっている自覚もない。会見はいいからまずは都民の税金を返してほしい。
私の元にも多くの都民から“早く辞めさせろ”などの意見が寄せられていました。彼女のしたことは政治、都政に対して多大な迷惑をかけて政治に対する不信感を与えました」
木下前都議は、辞職して終わりだと思っているかもしれないが終わったわけではない。
親子2代で『お騒がせ』
そして、もう1人。親子2代『お騒がせ』になってしまったのが東京・北区区議の榎本一被告だ。11月上旬、覚醒剤取締法違反(使用)の疑いで逮捕、起訴されていた。
「まさか、ってみんなが思っていましたよ。気のいい青年で困り事にはすぐに対応してくれて、区民からは信頼されていたのに」(後援者の80代女性)
榎本被告は1999年に初当選し、現在6期目。同区の自民党議員団に所属していた。
「普段と変わったところもなく、薬物使用にはまったく気づかなかった」(後援者の男性)
誰もが困惑していた。
「真相はわかりませんが複雑な環境の中で育ってきたことがなんらかの影響を与えていたのかもしれません」(前出・大谷さん)
榎本被告の父親は故・田中角栄元首相の秘書を務めていた故・敏夫さん。そして母親の三恵子さんはロッキード事件で角栄有罪の決め手となった人物だった。
「1981年、ロッキード事件の公判中に三恵子さんが検察側証人として出廷しました。そこで“榎本は5億円の受け取りを認めた”と爆弾発言をしたんです」(元全国紙社会部記者)
三恵子さんは自らの正義を貫き、証言した動機を「蜂は1度刺したら死ぬ。私もその覚悟」と説明。『蜂の一刺し』はロッキード事件を象徴する言葉になった。
「敏夫さんは三恵子さんと離婚。その後の彼女はヌード写真を出したり、蜂の格好をしてバラエティー番組に出たり。当時はびっくりしました」(前出・大谷さん)
一躍時の人となった母親を少年時代の榎本被告はどのように見つめていたのか。前出・大谷さんは推測を述べた。
「彼は政治の世界に入ったことが間違いだった。『蜂の一刺しの息子』と言われ続けてきて精神的な負担も大きかったのではないでしょうか」
そんな榎本被告を支えたのが父・敏夫さん。
「演説会に行くといつも敏夫さんは後援者を回って“息子のことをよろしくお願いします”って頭を下げていました。彼がちゃんと治療をし、戻ってきたら支えたい。まだ若いしやり直せる」(後援者の男性)
親子そろってお騒がせの榎本被告。だが、母親の一刺しは息子に影響を及ぼしていたのかもしれない。
度重なる不祥事。『お騒がせ議員』は現在、増えているのだろうか。
「政治家の出来が悪いのは今に始まったわけじゃない。有権者がいいかげんなやつに1票入れたおかげで議会は大変なことになった。だから1票の行き先を見極め、その重みに改めて気づくための機会だともいえるんですよ」(前出・大谷さん、以下同)
なにより『お騒がせ議員』たちを選んだのは紛れもない私たち有権者だ。
「特に父親らの地盤を継いでも別の場所に住んでいる2世、3世議員や選挙区に血縁・地縁がなくても党の方針で投入され立候補した人たちは代々、そこに住んでいないので自分が何かやらかしたら地元に顔向けできないって気持ちはない。
国会議員だけでなく、地方議員に対しても私たちは厳しい目を向けていかなければならない。来年は参院選、統一地方選も続くので候補者をしっかりと見てほしいですね」
当選無効騒動の議員はいま
「いつでも見られているプレッシャーはあります」
昨年の東京都知事選挙に出馬、特攻服で踊ったり、歌ったり。ど派手な選挙活動で世間の注目を集めた埼玉・戸田市議のスーパークレイジー君(本名・西本誠)議員。候補者の中でも際立つ選挙戦の様子はSNSなどで拡散され、知名度は一気に全国区へ広がった。今年1月の埼玉・戸田市議選では初当選を果たした。
「市内のどこに行っても声をかけられるので、いつも自分の行動や言動は見られている、と意識していますね。いい意味でも悪い意味でもプレッシャーになっています」
そう説明するのはスーパークレイジー君議員。特に若者からも多くの注目を集め、「会いたい」と議会を傍聴する小学生や「市長かと思っていた」と声をかけてくる若者も後を絶たない。子どもたちや政治に関心がなかった層が興味を持って接してくるというのだ。
そんな同議員が『お騒がせ』になったのはその派手な選挙スタイルだけではない。
当選後の今年2月、「公職選挙法の求める居住の実態がない」として市民から同市選挙管理委員会に対して異議申し立てが提出されたのだ。
「戸田市に居住していなかった」との疑惑をめぐり、双方の言い分は平行線をたどった。
だが、同市選管は「当選無効」を決定。同議員は不服とし、審査を申し立てたが選管は決裁を棄却。最高裁で争われることに。
しかし、10月15日、東京高等裁判所は同議員の訴えを棄却、敗訴が決定した。
「上告し、今月19日に審理が始まります。早ければ今年中、遅くとも今年度中には僕の進退は決定します。ですが、もしもっと裁判が長引くようでしたら当選1年をめどに辞職する考えです。スッパリと辞めて、再びリベンジしますよ」(スーパークレイジー君議員、以下同)
実は当選直後からなんらかのトラブルは起きると想定していたという。
「当選直後に“辞めてくれ”と代わる代わるに言われていましたしね」と明かす。
渦中の1人として『お騒がせ議員』についてどのように考えているのか尋ねると、
「まず、自分がとやかく言える立場ではありませんが僕の場合はまだ信頼を取り戻せますからもっとちゃんとしていかなければいけない。それに僕がなんらかの問題を起こしたら“やっぱりな”と思われると思うんで」
複雑な家庭環境で育ち、少年院にも入った。政治家としてその経験を生かし、青少年の更生支援や子どもの貧困対策、家族の問題などに取り組みたい考えだという。
「そのためにも政治家としてはもっと上を目指したい。僕の過去は決してプラスには受け取られません。でも、そんなやつでもやり直すことができている、という姿を見せたいと思うんです」
さらには「派手なパフォーマンスで目立つだけではダメ、これから1年、2年後が勝負」と話す。
「当選無効の問題に決着がついても政治活動に終わりはありません。自分の反省点もたくさんあるし、近所の子どもが1歩ずつ進んでいくように、息子のような存在として見守ってくれたらうれしいですね」
不祥事・お騒がせ政治家2021(一部)
<1月>
●兵庫県姫路市 松岡廣幸市議(無所属)
市役所職員への暴言や威圧的な発言があったとみられる。同市の特別委員会では松岡議員の発言が威力業務妨害にあたる可能性があるとして、姫路市に対して刑事告発を求める考えで一致した。
<2月>
●兵庫県尼崎市 光本圭佑市議(兵庫維新の会)
政治ポスターがアニメ『鬼滅の刃』のデザインを流用しているのではないかとの指摘が相次いだ。所属する日本維新の会兵庫総支部「兵庫維新の会」は厳重注意処分とした。
●松本純 衆議院議員(自民党)
緊急事態宣言中に東京・銀座のクラブで飲酒をしている様子が報道され、離党処分となった。「軽率な行動」と認め謝罪した。
<5月>
●静岡県富士宮市 野本貴之市議(国民民主党)
小学生の女児のスカートの中を盗撮したとして県迷惑行為等防止条例違反(盗撮行為)の疑いで逮捕。その後、別の女児に対しわいせつな行為をしたとして強制わいせつの疑いで再逮捕されている。
●森夏枝 衆議院議員(日本維新の会)
今年5月、一部週刊誌により、同党に所属する議員を誹謗中傷する文章を作成していたことが発覚、謝罪した。
<7月>
●山梨県韮崎市 輿石賢一市議(協伸クラブ)
産業廃棄物処理を無許可業者に委託。産業廃棄物法違反の疑いで逮捕された。
<9月>
●山添拓 参議院議員(日本共産党)
昨年11月、秩父鉄道の線路に無断で立ち入ったとして書類送検された。
<11月>
●山崎真之輔 参議院議員(立憲民主党)
一部週刊誌により不倫が報道される。女性からの告発内容は否定せず、謝罪と深く反省していると述べた。