歌手の鬼束ちひろ(41)が逮捕された。都内の路上で救急車を蹴ったことによる器物損壊の現行犯だ。
抑えられない鬼束ちひろの「鬼」
11月28日、一緒にパチンコをしていた友人女性が倒れ、救急車を呼んだところ、通行人に嫌みを言われたという。それは「ギャンブル中毒者なんて助けるな」「救急車を呼ぶのに税金が何万かかるか知ってんのか」「そのまま野垂れ死にさせろ」という内容だったとも報じられた。
もちろん、通行人の代わりに(?)攻撃された救急車側にとってはたまったものではないが、鬼束に同情的な見方もある。そんななか、ミソをつけたのが朝日新聞のサイトだ。彼女の職業を「自称シンガー・ソングライター」と紹介したことに疑問の声が続出。「自称」を削除する対応がとられた。
実際、今年2月に新曲もリリースされている。また、代表作の『月光』は芸人のあばれる君がコントのBGMに使っていることでも有名だ。前出サイトの担当者には、度重なるお騒がせで消えた人に思えていたのかもしれないが、そんな“あばれるちゃん”のことを世間は忘れていなかった。
2012年にはツイッターで「あ~和田アキコ殺してえ。」「なんとか紳助も殺してえ。」(原文ママ)とつぶやき、謝罪。異性関係では、彼女にストーカー行為をしていた男性が逮捕されたり、同棲中にDV行為をしていた男性が逮捕されたりした。
また、筆者には個人的な思い出がある。今から20年前、彼女が『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)で起こした舌禍騒動でのことだ。ペットのハムスターを夏は熱射病で亡くし、冬は凍死させてしまったという流れのあと、今はメダカを飼っているとして、
「水槽掃除をするたんびに、減っていくんですよ(苦笑)」
と、語った彼女。これを筆者が『JUNON』で連載していた「今月の名言」の失敗談集に入れようとしたところ、担当者から動物虐待ではないかと問題化していると聞かされ、ほかの人の発言に差し替えたのである。
いわば“あばれるちゃん”キャラの暴走に巻き込まれたかたちだが、本人もそのキャラを持て余しているように見える。前出の「殺してえ」騒動の際も、謝罪の前にこんなツイートをしていた。
「えんじょう????何それ。あたしいつもこういうハメになるなぁ。フツウにしてるつもりなんだけど。ネットってこわ~」
通行人の嫌みにキレるくらいなら「殺してえ」も言わないほうがいいと思うが、自分のなかに棲む「鬼」を抑えられないのが、彼女にとっての「フツウ」なのだろう。その「フツウ」と世間の「フツウ」にはズレがある。ただ、だからこそ『月光』のようなフツウじゃない傑作も生まれるわけだ。
そういえば、今回の謝罪では直筆文の書き損じも話題になった。「ご迷惑おかけしました」と書いてから「迷惑」と「おかけ」のあいだに「を」を無理やり雑に書き入れ、そのまま公表したのだ。
これについて『ワイドナショー』(フジテレビ系)では東野幸治がこんなコメントをした。
「鬼束さんらしくてなんかいいな、ともちょっと思ったり」
なんとなく共感する人もいるのではないか。こうしたズレが個性的な創造につながるところも、芸能の面白さである。
とはいえ、逮捕までいくと、芸能生命にも関わってくる。自分のなかの「鬼」とうまく付き合いながら、活動を続けてもらいたいものだ。『月光』を使っているあばれる君のためにも。