火災があったビル前には、たくさんの花が供えられている

「そのときは店の開店準備でバタバタしていたから、気がついたときにはビルから煙が見えて“あっ、これはヤバい”って思った。でも、まさかこれほど大きな事件になるなんて……」

 現場近くにある飲食店の店員は声を詰まらせた。

 17日午前10時20分ごろ、JR大阪駅に近い大阪市北区曽根崎新地の8階建てのビルで火災が発生。火の出どころは4階にある心療内科の『働く人の西梅田こころとからだのクリニック』だった。

 別の目撃者によると、

「ふと見たら、もう消火活動に入っていて、現場には消防車、救急車、パトカーなどが何台も駆けつけていた。中から運び出された多数の人や、野次馬も集まってごった返していて……。壮絶な光景だった」

 炎そのものは約30分で消し止められたが、現在までのところ、一酸化炭素中毒によって28人が病院に搬送されて、うち24人が亡くなっている。ほとんどが4階の同クリニックにいた人たちだ。

放火殺人の可能性も

「搬送されている61歳の男性患者が、クリニックのストーブ付近に紙袋を置いて、それを蹴り飛ばすと、中から油のような液体が出てきて、そこに引火したという目撃情報がありました。

 その後、警察はその男性を容疑者と特定し、この火事で大阪市内の病院に搬送された谷本盛雄容疑者による犯行の疑いがあると発表しました。ですが、瀕死の状態のため、動機はまだわかっていません」(地元紙社会部記者)

警察は、この火事によって心肺停止の状態で大阪市内の病院に搬送された谷本盛雄容疑者(61)による犯行の疑いがあると発表しました。

 翌18日も火災現場は騒然とした状況が続いていた。警察が現場検証したり、亡くなった人への献花が行われたり、マスコミや野次馬が駆けつけたりといった大混乱の状況だった。

 そこへ、1人の40代男性が献花に現れた。

「亡くなったかどうかはまだわからんけど……院長先生や犠牲になった人たちに花を手向けにきたんです」

 院長先生とは、同クリニックの西澤弘太郎院長のこと。西澤院長の安否の確認は、まだ取れていない。

 聞けば、2週間前から同クリニックへ毎日、通っているという。

「昨日は夕方5時に来る予定やったんだけど、テレビを観とったらここが映ってとんでもないことになっとるでしょう。僕もあの時間に来とったら、危なかった。運がよかったというか、なんというか……」(同・男性、以下同)

 なぜここまで多くの被害者が出てしまったのか。それは出火した場所に原因があるという。

あそこで出火したら逃げられない

「エレベーターを上がると、非常階段が隣り合わせにあって、その奥にクリニックの入口があるんだけど、そのあたりにストーブがあったと思う。

 だから、そこで火をつけられたら、その火を突き抜けていかない限り、脱出はできんしょう。炎を避けようと、反対の奥のどん詰まりのほうに逃げても、出口はない。だから、こんな悲惨なことになったんでしょう」

 パニック障害を患っているこの男性は、いくつかの病院を転々として、ようやく同クリニックに辿り着いたという。

「他の病院では、医者とよくケンカしたりしてたからねぇ。この手の病気は、先生や病院との相性が合わないとダメなんですよ」

 彼にとって、西澤院長はとても優しくて、いい先生だった。

「だいたい1回、5~10分の診療時間。僕が昨日あった出来事をずーっと話して、それを院長先生がうん、うんと言いながら優しく聞いてくれていた」

出火元となった4階のクリニック

 しかし、前述した通り、相性が合わないと、

「病気がなかなかよくならないことを病院のせいにしてしまう患者もいて……。なかには怒鳴ったり、暴れたりする人もよく見かける。

 僕はこのクリニックに通い始めてまだ日が浅くて、顔見知りの患者さんもまだおらんから、火をつけたのが誰なのかはわからん。もしかしたら、そういった逆恨みみたいなもんがあったのかもしれんね」

 この男性はたまたま難を免れたが、すでに多数の命が奪われ、まだ生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている人もいる。凶行の背景に何があったのか、事件の真相究明が待たれる。