「“これが最後かも”とできる検査や治療はすべてやりました」仕事に没頭し、気がついたら40歳を過ぎー。それでも子どもを諦めなかった小松が挑んだ7年間の不妊治療とは……。
42歳で不妊治療をスタート
40歳を越えての出産が珍しくなくなった現在、'21年の2月に49歳で第1子を授かった女優の小松みゆき。40歳を越えての“挑戦”について、本誌の不妊治療記事でもおなじみの『西川婦人科内科クリニック』の西川吉伸院長との対談で語ってもらった。
西川 出産されてから約10か月になりますが、子育てはいかがですか?
小松 楽しいです! 子どもができると寝不足になって大変ということを聞きますが、私は年齢的に睡眠時間も短くなってきていますので(笑)全然、苦ではないですね。
西川 それはよかったです。結婚されたのは38歳ということですが─。
小松 はい。遅いと怒られそうですけど。
西川 いえいえ、その人それぞれの事情もありますしね。
小松 私の夫は8つ年下で、彼が20代、私が30代のとき出会って、30代のころずっとお付き合いしていました。自分の20代を振り返ると、仕事に没頭していて結婚や出産を考えもしなかったので、男性はもっとそう思っているのかな、って。
彼が結婚したいと思う年齢までは、私からは言えないなと思っていたら、あっという間に私が38歳になって……。
西川 最近は、奥さまが年上というご夫婦は多いですよ。うちのクリニックにも多くいらっしゃいます。
小松 不妊治療を始めて前向きになれたのは、夫のほうが若いからなのかなと思いました。私が、例えば40歳で子どもを産んでも、夫が年上だと子どもが成人するまで現役で働けているかわからないじゃないですか。
西川 そういうメリットもありますね。
小松 なので、子どもが生まれて20年後も夫が働いていられる年齢だな、と思ったので不妊治療を頑張ってみようという気持ちになったんです。
西川 42歳で不妊治療を始めたそうですが、妊娠についての知識はありました?
小松 なかったです……。いずれは妊娠できる限界の時期が来ることや、高齢出産が35歳からと言われていることも知っていましたけど、自分ならまだ産めるだろうという、根拠のない自信がどこかにありましたね。どうしてもやりたかった舞台のお仕事が、42歳まで続いていたということもあったんですけど。
西川 結婚適齢期というものはありませんが、妊娠適齢期というものはありますからね。中学生や高校生で、避妊や性感染症については教えますけど、いつまで妊娠できるかは、今までは教えてきていませんでしたから。
小松 そうなんですよ! 私たちの時代、性に関して学ぶときは男女別々に教室を分けられて。今思えば、間違いじゃないのかな、って。一緒に相手のことや妊娠について学ばなくてはいけないのに、どうして分けるのかなと当時、友達と話していました。
不妊治療への理解が定着しない日本
西川 男性の場合は、老化とともに造精機能も衰えて精子の質も落ちますが、何歳になってもつくることはできます。でも、女性は持って生まれた卵子を毎月排出し、減っていくだけです。また、卵子は女性の実年齢と同じで、老化していきます。
小松 そういったことも教えてもらっていないですからね……。
西川 でも今はだんだん啓発が進んできたので、ブライダルチェックなどを一緒に受けて、人生のどのあたりで子どもを持ちたい、と計画を立てられるご夫婦が増えてきましたね。
小松 検査を受けて、問題を発見できるチャンスができたことは、私からするとうらやましいです。もし自分も検査を受けていたら、不妊治療のやり方も変わっていたかもと思います。
西川 そうですね。結婚前のお付き合いしていた時期に、いろいろとできたと思いますよ。治療を始めたときは、どんな方法でトライされていました?
小松 排卵時期を狙って性交するタイミング法から始めて、その後、自然周期での体外受精でした。
西川 タイミング法はご自分で希望して?
小松 いえ、診ていただいた医師から提案されました。42歳でタイミング法は遅いですよね(笑)。
西川 来られる患者さんの中には“タイミング法で”とおっしゃる人もいるんですよ。ですから、小松さんもそれを望んだのかなと。
小松 勉強した今なら言えますけど、40代でタイミング法なんて言ってる場合じゃないですよ! 私は声を大にして言いたい(笑)。
西川 そういうことがわからない人はたくさんいらっしゃいます。そんなに知識のある人ばかりではありませんから。
小松 今は40歳前後でも昔に比べて肉体的には若いけど、生殖器的にはそこまで変わらないので、勘違いしている部分がすごくありますよね……。
西川 日本の性教育というもののあり方も含めて、それは産婦人科の責任でもあると思います。
小松 国や企業も、もっと考えてほしいなと思います。私たちの時代は、バブル世代の少し後で、男性と同じように女性も働け、産むより働けというのが当たり前になっていた時期で……。働かないと職を失うという環境の中、働いてきた世代だと思うんです。
西川 企業がもっと支援しないと、不妊治療と仕事の両立は進んでいかないでしょうね。
保険の効かない“妊活オプション”
小松 私が治療に通い始めたころは、会社にお勤めしている女性にとっては、行きたいけれど行けないという人も多かったと思います。当時、早く閉まってしまう病院も多く、会社を休まなければ、治療を受けられないということも普通でしたから。
西川 休むことで誹謗中傷される可能性もありましたしね。
小松 不妊治療をしていることを言えない人もたくさんいましたよね。でも、今は少しずつよくなっているとは聞きます。まだ頑張ってほしい部分はありますけど(笑)。
西川 国も'21年の1月から助成金制度の見直しなどをして、助成額や回数を増やしていますし。
小松 下世話な話になってしまいますけど、不妊治療は、ものすごくお金がかかるんですよね。私の場合は自由診療ということもあって、1000万円以上かかりました。検査も早いうちからしていれば、そこまでかからなかったかもしれません。
西川 小松さんは45歳で着床前診断(PGT-A)※1をした4つの胚盤胞を凍結保存したそうですが、それまで流産は?
小松 凍結する前、43歳、44歳のころに化学的流産※2をしました。1回は胎嚢が見えたのですが、心拍までは見えなかったんです。
西川 それはつらかったですね……。
小松 そうですね……。でも、それがあったので、もう少し頑張れば妊娠できるのかな、と思ったところもあるんですけど。
西川 それで、さまざまなオプションの検査も受けられたのですか?
小松 そうです。やっぱり、可能性が上がるかもしれないなら、すべてオプションをつけてください、って。アシステッドハッチング(胚が着床しやすいようにアシストする方法)や、培養するときにヒアルロン酸の入った液につけて着床率を上げる方法とか。
西川 エンブリオグルーね。
小松 そうです! それも数万円かかりましたけど。もうこれが最後かもしれないと思ったら、できることはすべてと思ってしまって。
西川 そういったオプションは、厚生労働省で高度先進医療に選ばれないと、自由診療に扱われ、保険が利かないんです。来年、人工授精や採卵、胚移植や凍結移植が保険適用になったとしても、オプションをつけると混合診療になってしまいます。そうなると、すべてが自由診療になってしまう。
小松 混合診療については、議論にならないのでしょうか?
西川 声を上げている人はいるのですが、まだまだ難しい状況ですね。
小松 着床前診断もオプションだったんですね。私、自由診療だったので、何がオプションかわからなくて(笑)。
西川 オプションです。それに、治療法としてできるようにはなりましたが、いい受精卵を戻しても2回着床しなかった、または2回流産を繰り返したという条件を満たさないと、受けることができません。
小松 でも、経験した身からすると、すごく安心できたんです。染色体に問題がない受精卵があって凍結保存しておけば、移植を焦らないですみますから。
西川 異常のない受精卵であれば、年齢に関係なく妊娠する確率は70%。流産も本来ならば50%くらいの確率が10%くらいに抑えられます。ただ、今は条件もありますし、自由診療なのですごくお金がかかります。検査できる人たちには朗報ですが、誰もが受けられる検査ではないですね。
※1移植前に受精卵(胚盤胞)の染色体を調べる検査で、流産率を下げ、胚移植あたりの妊娠率、生児獲得率を向上させる技術
※2尿や血液の検査で妊娠反応が出たものの、超音波検査で胎嚢が確認できる前に流産してしまった状態
不妊治療患者の半分以上が鬱傾向に
西川 46歳でいったん治療をお休みして、47歳から再開したとき、子宮内膜ポリープと子宮内膜炎が見つかったそうですね。
小松 見つかったのはそのときですけど、おそらくずっとあったのだと思います。
西川 子宮内膜の問題は、ここ何年かで反復着床不全といって、クローズアップされてきています。妊娠の成否について、内膜の状態が30%関わっていると。
小松 結構な確率ですね。
西川 高齢になれば、卵子の質の比重が高くなりますけどね。でも、戻す子宮をベストの状態にして戻すほうがいいですから。
小松 本当にそう思います。
西川 妊娠しやすい状態をつくることは、非常に大切だと思います。うちのクリニックでも、2~3回受精卵を戻して結果が出なかったら、内膜についての検査をしているんです。小松さんは流産や子宮内膜炎など、7年間、不妊治療をされてきて、いろいろとつらいことを経験されていますね。
小松 つらい……という感じは自分でそんなにないんですよ。採卵のときも、麻酔なしでもそんなに痛みを感じませんでしたし(笑)。
西川 フィジカル的な感覚もですが、不妊治療をされている方は、半分以上が鬱傾向になられるんですよ。そういうのはなかったですか?
小松 まったくなかったと思います(笑)。何か、すべてを楽しんでいた感じです。採卵されるときもたくさんの機械に囲まれて、モニターを見ているのも面白かったし、看護師さんや検査技師さんが一生懸命やってくださっているのを見ているのが、すごく面白かったなと。
西川 すごくポジティブですね(笑)。
小松 だって、こういった治療を受けなければ、絶対に知らない世界じゃないですか。
西川 その性格も、ある意味治療を頑張れた理由のひとつかもしれませんね。
小松 ありがとうございます(笑)。
西川 最後に、40代で小松さんと同じように治療を頑張っている人にメッセージをいただけますか?
小松 やれるところまでやったと思えるまで続けるほうがいいと思います。アドバイスになっているかわかりませんが、誰に言われても、やめたくないものはやめられないですし。
ご本人の性格もあると思いますが、やり切ったと思えるなら後悔はしないと思います。
西川吉伸(にしかわ・よしのぶ)……西川婦人科内科クリニック院長。医学博士。医療法人西恵会理事、日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会会員、日本受精着床学会会員、大阪産婦人科医会代議員ほか
《取材・文/蒔田稔》