タモリ

 来年3月でTBS『新・情報7daysニュースキャスター』(土曜午後10時)を降板するビートたけし(74)が、その理由を「来年は後期高齢者だから10時からの生放送は身体がきつい」と12月18日の同番組内で語った。

 では、たけしと並び称される大物お笑い人・タモリ(76)はどう考えているのだろう?

「欲がない」タモリ

 たけしより1学年上で既に後期高齢者だが、テレビ朝日『ミュージックステーション』(金曜午後9時)を33年半、同『タモリ倶楽部』(金曜深夜0時20分)を39年、NHK『ブラタモリ』(土曜午後7時30分)を13年も続けている。

 タモリを早くから大いに評価し、親しかった故・大橋巨泉さんは56歳でセミ・リタイヤし、仕事の大半を辞めた。タモリもセミ・リタイヤや引退を考えているのだろうか。

「タモリさんは健康状態に問題が生じない限り、現役を続けます。彼は自分からは仕事を降りない人なんです」

 筆者の取材に対し、そう断言していたのは『ミュージックステーション』初代プロデューサーで今年3月に急逝した元テレ朝取締役制作局長の皇達也さん。『タモリ倶楽部』の企画者でもある。

 では、タモリは仕事への執着が強いのかというと、「それはまったく違う」と皇さんは否定した。

「タモリさんと付き合った人なら誰でも同じことを言うでしょうが、彼には欲というものが一切ないんです。お金についてだけでなく、仕事面もそうで、任せた仕事はきっちりやってくれるものの、自分を売り込むようなことは決してしない」(皇さん)

 かつてタモリは「やる気のあるものは去れ」とよく口にしていたが、あれは単なるギャグではなく、本人のイズムでもあるようだ。

 タモリの無欲を表す分かりやすいエピソードがある。タモリのテレ朝での本格的な初レギュラー番組は1981年に日曜日の夕方の時間帯で始まった『夕刊タモリ! こちらデス』で、好評だったものの、この時間帯に報道番組が置かれることになったため、1年間で終了を余儀なくされた。

 代わりにテレ朝側が用意したのが、翌1982年スタートの『タモリ倶楽部』だった。皇さんが「しばらく深夜で遊んでいてほしい」と頼むと、タモリは喜んで引き受けた。本当にタモリが好きに遊べる番組だったからだ。

 だが、皇さんのほうは申し訳なく思っていた。局の都合で日曜夕方から金曜深夜に動いてもらったからである。

 このため、その5年後の1987年、『ミュージックステーション』の2代目司会者にタモリを起用することが局内で合意に達すると、皇さんはホッとした。勇んで本人に伝えた。

 ところがタモリの答えは意外なものだった。

タモリの番組=長寿化しやすいワケ

「『タモリ倶楽部』があるし、私じゃなくてもいいんじゃないですか」(タモリ)

 ゴールデンタイムの番組の司会就任を渋る芸能人はまずいない。皇さんはぼう然とした。

 本人は無自覚かもしれないが、無欲であることがタモリの番組が長寿化しやすい理由にもつながっているのだろう。番組のメインを務める人間がギラギラしていたら、観る側は疲れてしまう。油のしたたるステーキを続けて食べるのはつらいのと同じ。タモリは食べ飽きないコメの飯だ。

 振り返ると、2014年3月まで32年も続いた『笑っていいとも!』が終了する際もタモリは淡々としていた。あれほど長く続き、フジテテレビに大きく貢献した番組でありながら、誇らしい顔をするわけではなく、未練も口にしなかった。

『笑っていいとも』ギネスブック認定会見('02年)

 最終回スペシャルとして放送された同31日夜の『笑っていいとも! グランドフィナーレ 感謝の超特大号』での別れの挨拶もどこかクールなものだった。

「え~出演者、スタッフのおかげで32年間無事にやることが出来ましたが、まだ感慨というものがないんですよね。ちょっとホッとしただけで…」(『笑っていいとも! グランドフィナーレ』でのタモリ)

 人気は落ちていない。ビデオリサーチによるタレントの人気度調査の最新版(2021年8月度)では20位のダウンタウン・松本人志(58)、19位の佐藤健(32)を抑え、18位。

 10代男子が選ぶ知性派タレント部門では松丸亮吾(26)と並んで4位に入った。各番組側が降板を言い出すことはないはずだ。

 現役を長く続けるに当たって、残された問題は健康面だけだが、タモリはずっと不摂生な生活とは無縁だったことで知られる。酒もタバコもやらない。もっとも、それは健康のためではない。単にどちらも好きではなかったからだ。

 タモリは今年9月、アンバサダーに就いた乳酸菌飲料の発表会でこう語っていた。

「今まで健康に気遣ったことがないんです」(タモリ)

 76歳になるまで健康に対する欲もなかった……。しかし、後期高齢者となったことから、やらなければならないと思っていることがあると言った。

「第一は運動することですかね。それが一番気を付けていること。(具体的には)やっぱり散歩ですね」(同・タモリ)

 運動を真剣にやろうとする気が感じられなかったが、「スポーツジムに通う」などと言わないところがタモリらしさなのだろう。

 タモリは「お医者さんから『水分不足ですね』って言われたので、それ以来は注意して水分を摂るようにしているんです」とも語ったものの、それ以外に健康面の問題はないそうなので、これから先も長く現役を続けるだろう。

 最近の民放は若い視聴者の獲得に躍起で、そのために若手芸能人を盛んに起用しているが、タモリは若い視聴者にも高齢者にも人気がある。後期高齢者の星だ。

高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立