カラダや頭が“ととのう”と、今サウナが大ブームに。入浴法やグッズなどを紹介する書籍やサウナ専門誌まで。サウナはより高温になり、冷ます水風呂はより低温に……。一般的なサウナは80〜90度だが、150度という超高温も。先鋭化したサウナではたして健康になれるのか。医師が解説する。
正式なフィンランド式には水風呂はない
近年、よく耳にするようになった言葉“ととのう”。ここ数年大ブームとなっているサウナ用語だ。《サウナ→水風呂→外気浴》を最低3セット行うことにより、もたらされる“ととのう”とは、人によって感じ方はさまざま。
“カラダはフワフワしてるんだけど、気分や頭はシャッキリ”“カラダが軽くフワフワになって多幸感がある”などとサウナー(サウナ愛好家)は言う。都内在住のサウナーは、
「ブームでサウナは先鋭化しています。通常、サウナは90度〜100度くらいが一般的でしたが、今は120度も珍しくなく、中には150度のサウナも。水風呂はマイナス温度のところはざら。入ってて死ぬんじゃないかなって思うこともあります(笑)」
120度オーバーの超高温サウナに入り、マイナスの水風呂に飛び込む。その温度差たるや。医師に“ととのう”について話を聞いた。
「サウナそのものに対しては昔から研究論文はたくさんあります。対象は正式なフィンランド式のサウナ。結論を先に言うと、サウナはいろいろな病気に効くというものが多い。例えば血圧を下げる、関節の痛みが緩和する。また、意外でしょうが、心臓が悪い人も症状が緩和する、呼吸機能が若干よくなるなど。科学的な調査のみを集めたメタ解析でそのような結論が出ています」
そう話すのは、新潟大学名誉教授で医療統計の第一人者と呼ばれる医学博士の岡田正彦先生。
発祥といわれるフィンランドの一般的なサウナは、サウナストーブ(熱源)の上にサウナストーン(岩盤)を並べ、空気とサウナストーンを熱する。温度は80〜90度程度。
では、流行(はや)りのサウナは医師から見て……。
「私は反対です。ここまで申し上げた科学的な調査というのは、そのような過激なことは決してしていない。100度を超えるほど温度を上げて調べたというような調査はありません。もともと危ないものだと研究者も認識して、研究対象にしていないということだと思います。
また、正式なフィンランド式には水風呂はないということですので、サウナに入り、休憩で10度以下の水に入るというのは、研究という視点でいうと未知の世界であり、私は危ないと思います」(岡田先生、以下同)
連日、救急車が出動
事実、ツイッターで、“サウナ 救急車”を検索すると、毎日のように“報告”が。
《サウナ○○○(店名)に救急車。サウナでぶっ倒れたか》
《今日は銭湯行ってサウナ入って水風呂入ったら目眩(めまい)がしてしまい、(中略)致し方なく救急車初体験》
《サウナ後の水風呂から出て外気浴に行こうとしたら、ひどいめまい。(中略)全裸で救急車呼ばれる自分がよぎったわ…ととのうどころか死ぬ思いしました》
前出のサウナーの男性も、「健康だった20代前半のときに行きつけのサウナに入り、水風呂から出たら、頭から気が抜けていくみたいな感覚になり、目が回って真っ白に。気づいたら倒れていました」
昔から風呂で倒れた、最悪の場合は突然死したというケースも少なくない。そしてこのようにサウナで倒れる人も。
「風呂で倒れる、突然死したという調査は日本でもたくさんあります。どの調査でも共通していることがあり、これはサウナにも当てはまることですが、何か重大な病気が起こった人の半数はお酒を飲んでいた。お酒を飲んでいなければそれほどリスクはないということになりますが、それはあくまで調査にあったような正式なフィンランド式のサウナでの話です」(岡田先生、以下同)
ととのうサウナにエビデンスはない。
自律神経がかわるときに起きやすい
「私も風呂で気分が悪くなったという人をたくさん診てきましたが、いきなり身体を冷やすこと、寒冷に身をさらすことは、やはりハイリスクと考えます。そのようなサウナの入り方は、正式なサウナと別次元の話です。
また、それほどリスクはないと言いましたが、どの論文も“リスクはゼロではない”としています。少なくとも心筋梗塞や脳卒中などになったことのある人はやめたほうがいいと思います」
“ととのう”では、サウナと水風呂では交感神経が優位になり、外気浴で一気に副交感神経が優位になるという。温冷を繰り返す行為は、交感神経・副交感神経といった自律神経を、過剰なまでに刺激しているといえないか。
「問題は大いにあると思います。過激なサウナに対するエビデンスは何もないわけですが、自律神経がかわるときに病気が起きやすいということは従来、広く知られています。
例えば心筋梗塞は、風呂でリラックスしているようなとき、また朝目覚めるころに集中して起こります。昼の交感神経優位の緊張状態から、夜に寝るときの副交感神経優位の状態にスイッチするときです。朝はその逆ですね」
1日の時間帯によって病気の発生が大きく違うのは……。
「自律神経の切り替えのタイミングが危ないということを示唆しています。エビデンスがないので、そういったことから類推するしかないわけですが、わざわざその切り替えを繰り返すことは決して安全だと思いません」
“ととのう”のが、三途(さんず)の川までの道の舗装、になってはいけない。