マスクが手放せず、友人と楽しくおしゃべりするのもままならない日々、“声の出にくさ”に悩む人が増えている──。

「自粛生活中は、声を出さずに長時間過ごす日もありましたよね。そうした日が長く続くと声帯の筋肉が衰え、しわがれて痰(たん)が絡んだような“老け声”になってしまう可能性があります」

 そう話すのは、フリーアナウンサーとして活躍する寺田理恵子さん。

寺田理恵子さん

人に会って声を出す機会が減ると、言葉が出にくくなるなどの認知機能の低下やうつ症状を招くこともあります。特に50代の女性は、更年期などで心身に大きな負担を抱えがちなので、元気な声が出にくくなります。

 私が主催している朗読教室の受講生は中高年の女性が中心なのですが、みなさん共通の悩みを抱えていますね。昨今のコロナ禍のストレスも加わり、声や心身に不調を感じる人も増えているのではないでしょうか」

 そんな声の悩みを解決するのが「音読」だ。音読を毎日の習慣にすることで活力が漲(みなぎ)るという。

「文字を声に出して読むと、それだけに集中するので、雑念が入らずストレスが発散できます。集中力がついて読解力や理解力も高まります。脳も刺激されますし、口や頬を動かすので顔のたるみも改善します。何より、自分の声が“明るくていい声”だと気分も上がりますよね」

 音読習慣は、とても手軽でいいことずくめの健康法だ。

 仕事を通して音読の魅力を伝える寺田さんも、かつて音読に救われたひとり。

「51歳のとき、親の介護や子育て、夫の死など、さまざまな出来事がありました。そのせいでふさぎ込んでしまい、家族以外と会わない日々が続いていたんです。すると、新聞の文字が頭に入らなくなって会話中も言葉が出づらくなって。いつの間にか、認知機能が急激に落ちていたんですね」

 すぐに医療機関を受診すると、“更年期”や“老化”という診断を受けたそう。

「大病ではなく安心しましたが、年齢の壁を感じました」と、寺田さんは振り返る。

「夫の死と向き合って2年がたったころ、生島ヒロシさんに仕事復帰のきっかけをいただいて。そこでまず私が取り組んだのが、“新聞の音読トレーニング”。続けていくと、心身ともにみるみる元気になったんです。私が身をもって感じた“音読の力”を、ぜひみなさんにも体感してほしいです」

発声練習のポイントは正しい姿勢と腹式呼吸

 年齢を感じさせない若々しい声を手に入れるには、基本の発声が肝心。

「ポイントを押さえて発声練習を続けるだけで、声の響きが変わります。重要なのは“姿勢”と“呼吸”。まず、肩幅程度に足を開き、背筋を伸ばして立ちます(座りの場合は座骨を立てる)。顔は正面を向き、目線はやや上向きに。顎は突き出さないようにしましょう。肩の力を抜き、上半身をリラックスさせたら準備完了です

 呼吸は“腹式呼吸”を意識する。

「腹式呼吸は息を吸ったときに横隔膜を下げてお腹をふくらませるので、たくさんの空気が吸えます。腹式呼吸は自律神経を整えてくれるので、ストレス発散にもつながります。音読や発声だけでもメリットがありますが、あわせてスクワットなどで身体を鍛えると、よりパワフルな声が出るようになります

 姿勢と呼吸を整えたら、いざ実践!

 まずは、声に出して下の「あいうえお交錯表」を読んでみよう。

「あいうえお交錯表」
あいうえお
いうえおあ
うえおあい
えおあいう
おあいうえ
  ↓
かきくけこ
きくけこか
くけこかき
けこかきく
こかきくけ
  ↓
以降、サ行〜ラ行まですべて練習を

「安定した声量で1ブロックをひと息で読み切りましょう。ア行がひと息で言えるようになったら、続けてカ行、サ行とブロックを増やしていきます。口を大きく動かすので、頬の筋肉と舌の体操にもなります」

 頬のリフトアップと嚥下(えんげ)機能の向上にも効果的な練習方法で、ウォーミングアップに最適。

 そして、音読をするときは「作品の世界をイメージするのがコツ」と、寺田さん。

「1回目は内容を把握するために棒読みでもOK。2回目は、その文章から得た情景や、セリフを言っている人物をイメージして音読しましょう。さらに“なぜ自分がそう表現したのか”まで考えると、脳の刺激になりますよ」

 作品を選ぶときは、“自分が気持ちよくなれる文章”を選ぶのがポイント。

「言い回しが独特な歌舞伎の名ゼリフやニュース記事など、なりきって読むと違う自分になれておもしろいですよ」

 楽しむのが継続のコツ、と寺田さん。さっそく音読を始めて、いつまでも若々しい声を保ちましょう。

声は意識して発声しないと、どんどん低くなっていき、いわゆる“おば声”を招くと語る寺田さん

(取材・文/大貫未来(清談社))

《PROFILE》
寺田理恵子 ◎東京都出身。元フジテレビアナウンサー。現在は朗読教室・アナウンススクールで講師を務めるかたわら認知症サポーターとして朗読ボランティアなども行う。近著に『「毎日音読」で人生を変える』(さくら舎)。

疲れたときにおすすめの音読

『心の飛沫』(宮本百合子)

 胡坐(あぐら)

ああ 草原に出で
ゆっくりと楡(にれ)の木陰
我が初夏の胡坐を組もう。

空は水色の襦子(サティン)を張ったよう
白雲が 湧(わ)いては消え 湧いては消え
飽(あ)きない自然の模様を描く。
遠くに泉でもあるか
清らかな風のふくこと!

私は、蟻(あり)の這(は)い廻る老いた幹に頭を靠(よ)せ
牧人(まきと)のように
外気に眼を瞑(つむ)って 光を吸う。

耀(ひかり)や熱に 魂(たましい)がとけ
軽々と情景に翔(と)ぶ この思い。

(出典:宮本百合子『宮本百合子全集 第十七巻』新日本出版社)

■音読のポイント

「とっても気持ちのいい詩ですね。青空の下、草原の中で木陰にいる自分を想像します。私は題名の『胡座』からヨガや瞑想(めいそう)中の自分を思い浮かべました。そんな場所で思わず出る“ああ”は、一体どんな声なのか……。きれいに読む必要はないので、想像の中のさわやかな情景に身を置き、読んでみましょう」