火災があったビル前に多くの献花(12月21日撮影)

「事件のあった4、5日前の午前9時ごろ、空き家だと思っていた家から容疑者が作業服で出てきて、自転車で出かけようとしとったんよ。それで“ここに住んどんの?”と聞いたら、“はい”って。とても優しい感じの人やったわ。まさか、あんなことするなんて……」

 大阪市西淀川区を流れる淀川からすぐそばにある谷本盛雄容疑者(61)の自宅。その近所の住民はこう振り返った。

 12月17日午前10時20分ごろ、同市北区の雑居ビル4階の心療内科『働く人の西梅田こころとからだのクリニック』で放火事件が発生。同病院の患者ら27人が心肺停止状態で救急搬送され、うち25人が死亡。谷本容疑者を含めて2人が重体という、大惨事となった。

「同院に通っていた容疑者が、クリニックの入口付近にあったストーブにガソリンを入れた紙袋を蹴って火をつけました。11月末、ガソリンスタンドでガソリンを10リットル購入していたことから、計画的な犯行と見られています」(全国紙社会部記者)

自宅で放火の実験か

 事件を起こす30分ほど前、容疑者は現場から3キロメートルほど離れた同市西淀川区の自宅でボヤを起こしていた。

 別の住民はこう話す。

「事前に実験したんだろうね、たいした出火じゃなかったから、すぐに鎮火したけど。その後、自転車で30分ほどかけて現場に向かったみたいやわ」

 のちに自宅から、19年7月に起きた『京都アニメーション放火殺人事件』について報じる新聞記事の切り抜きも見つかったことから、この事件を参考にしていたとみられている。

 容疑者は、ボヤを起こした一軒家を30数年前に購入。妻、長男、次男と4人で住んでいた。

「当時から近所づきあいをまったくしない家でね。容疑者はスラッと背が高くて、おとなしい感じの人でした。酒に酔っている姿や、おかしな行動はいっさい見たことはなく、近所とのトラブルもなかったですよ」(近所の住民)

 他の住民も、

「“詩吟の教室に通っている”と聞いた。若いのに珍しい人がおるな、静かな人やなと思うた」

 だが15年ほど前、容疑者一家は1.5キロメートルほど離れたマンションに引っ越したという。同マンションの住民によると、

「いつの間にか旦那さん(容疑者)がいなくなって、奥さんとお子さん2人になっていたんです」

 引っ越しから2年後、容疑者は妻と離婚。

「その後、容疑者が妻に復縁を迫るも、拒否。孤独を募らせた容疑者が無理心中を企てて、長男を刃物で刺しています」(前出・社会部記者)

 当時の捜査関係者によると、長男をはじめに殺害し、元妻と次男も道連れにしようとしていたと供述したという。長男は一命をとりとめ、容疑者は殺人未遂で逮捕。懲役5年の刑になったが、3年ほどで出所している。

 容疑者は一体どんな人物だったのか。大阪市此花区に生まれ、父親は板金工場を経営していた。

「そこらを遊び回る元気いっぱいの子ではなく、おとなしかった。そろばん塾に通っていましたね」(容疑者が通った小学校の後輩)

 父親の仕事に憧れて、兄とともに実家で板金工として働いた。だが30年ほど前に父親が他界すると、実家の跡を継いだ兄とのいさかいが多くなり、別の板金工場で働くことになったが……。前出した通り、一家心中の事件を起こしてしまう。

過去にもあった“火災”事件

 実は出所から数年後、容疑者が住んでいたと思われるマンションで火災が起きていた。

「丸々1部屋が焼けていました。その火元になった部屋の住民男性がいま考えると、年齢や背丈が容疑者と似ているんだよね。その男性は“コンビニに行って、帰宅したら布団が燃えていた”と言っていたようです」(同マンションの住民)

 容疑者の行先行先で火災が起きているのは、単なる偶然とは到底思えないが……。

 捜査関係者によると、谷本容疑者は一酸化中毒による蘇生後脳症の状態で、事情聴取ができるような回復は難しいという。事件の真相究明は、暗礁に乗り上げている。