「青缶」の愛称でも知られるニベアクリーム。高品質で人気がある一方、いわゆる“混ぜテク”にも使われがち

ニベアクリームと〇〇を混ぜるとシミが消える」といった虚偽広告がネット上で出回っている事態をめぐり、12月3日にニベア花王が公式ツイッターで注意喚起を投稿した。

 同社はニベアの名前を使った悪質なネット広告への関与を否定し、《他の製品を混ぜると、ニベアクリーム本来の特長や成分の働きなどがそこなわれてしまう可能性があります》と呼びかけている。

私も同様の広告を目にしたことがあります。なかには明らかにレーザー治療をした患者の画像を使って、商品のシミ消し効果を騙っているような広告もありました

 そう教えてくれたのは、うるおい皮ふ科クリニックの院長、豊田雅彦先生。

お話を伺った豊田雅彦先生

 冒頭で紹介したような虚偽広告以外でも「化粧品と〇〇を混ぜて使用すれば美容効果アップ!」といった情報はネットやメディアなどでも度々拡散されており、誤った情報を鵜呑みにした患者から肌トラブルの相談を寄せられることも多いという。

私も化粧品の開発を手がけていますが、別の商品と混ぜて使われてしまうと、どんな化学反応が起こるかわからないので、ゾッとしますね」(豊田先生、以下同)

 そもそも異なる化粧品を混ぜて使うことには、どのような問題があるのだろうか。

第1に化粧品本来の機能が低下してしまうことが考えられます。化粧品を製造販売するためには国の厳しい認定が必要で、単体で使用することが最も効果的にも品質的にもベストな状態です。

 そこに何かを混ぜてしまうと、成分が変化して品質が劣化したり、効果が薄れたりするだけでなく、肌トラブルの原因になってしまうこともありえます

 とはいえ、化粧水のあとに乳液、クリームを順に使用したり、スキンケアのあとに日焼け止めを塗ってから化粧をしたりする“重ね塗り”は一般的によく行われる。このような方法も危険なのだろうか。

ひとつの商品を肌につけたうえで次の商品を使うという方法であれば、基本的には問題ありません。ひとつひとつの商品を順序だてて使用する重ね塗りと、事前に混ぜ合わせて成分が変化した化粧品を使用することとは大きな違いがありますね

肌トラブルを招く危険な“混ぜテク”

 ここからは具体的にネット上で見つかった“混ぜ合わせレシピ”について検証していこう。まず気になるのが、化粧水や美容液にスキンオイルを混ぜて使用する方法。ある美容情報サイトでは「保湿効果や浸透力アップ」と謳われているが……。

化粧品の“混ぜテク”は品質の変化が懸念点。手のひらで混ぜ合わせる過程で、雑菌が入ってしまう心配も

そもそも水と油は混ざり合わないので、あまり意味のない方法だと思います。保湿剤として化粧水を使って、保護剤としてオイルやクリームでフタをするというのが保湿の基本の考え方。それを混ぜ合わせても効果が上がるとは考えにくく、むしろ保湿剤の肌への浸透を油分が阻害することにもなりかねません

 ファンデーションにオイルを混ぜて使用する方法もベースメイクテクとしてよく見かけるが、どうなのだろうか。

「ファンデーションというのは、油性の基剤に水分や顔料を混ぜてつくられていますよね。そういう繊細な配合比で完成している商品にさらにオイルを混ぜることで、使用感が悪くなったり、ファンデーションの水分が分離して化粧崩れしやすくなる可能性があります。

 また、オイルにもファンデーションにも防腐剤が入っていて、その微妙な配合が変わってしまうことで化粧品自体が劣化や変質しやすくなり、それを使うことが肌荒れや皮膚トラブルの要因になる場合もあります」

 ほかにも、化粧品の混ぜテクでもよく使われるオイルだが、使用する際には注意が必要だと豊田先生は付け足す。

抗酸化作用が比較的強いといわれるオイルもありますが、基本的にオイルは非常に酸化しやすいもの。特に紫外線によって、肌に悪影響を及ぼす過酸化脂質に変化します。毛穴の黒ずみや、くすみ、シミの原因になることもあるため、なんにでもオイルを混ぜることは避けたほうがいいでしょうね

 異なる色のファンデーションやコスメ同士を混ぜ合わせて自分好みの色をつくるというのも、よくある化粧テクニックのひとつだが……。

「これもやはり化粧品の成分比が変わってしまう可能性がありえます。一般的な商品は基本は単体で使うことが前提なので、混ぜたときにどうなるかということまではテストされていません。

 好みの色をつくることも化粧の楽しさかもしれませんが、その結果、肌トラブルが生じたり、微妙な混色で顔色がくすんで見えてしまったりするのは本末転倒ですよね」

 クリームや化粧水、乳液に日焼け止めを混ぜる方法もネット上で多く見られた。冬場とはいえ紫外線が気になる人は多いが、このような使用法はどうなのだろうか。

クリームタイプの日焼け止めと乳液なら形状も似ているので、手っ取り早く混ぜて使ってしまう人もいるようですが、実際にこのパターンで肌荒れを起こして来院する患者さんも多いです。また、肌トラブルにはならなくても、日焼け止めの効果がきちんと発揮されるかは疑問が残ります。

 自分ではきちんと混ぜたつもりでも、実際にはムラになっていて紫外線を通してしまうこともあります」

身近にある食品も肌トラブルの原因に

 化粧品同士の混ぜ合わせ以外で特にトラブルが目立つのは、オロナインH軟膏と化粧品を混ぜて使用するケースだと豊田先生は指摘する。

家庭によくある医薬品でニキビなどに使用する人も多いようですが、オロナインはそもそも消毒用軟膏。湿疹や化粧下地には使用しないでくださいと説明書にも明記されています。

 ところが“ニキビ予防のつもりで化粧下地に混ぜました”といった患者さんもいて、殺菌作用で皮膚の常在菌のバランスが崩れて肌トラブルにつながっているケースも多いです

 ほかにも、食品と化粧品を混ぜ合わせる美容テクにも注意が必要だ。砂糖を洗顔料に混ぜてみたり、ハチミツやレモン汁、豆乳などで化粧水を自作する方法もよく見かける美容法のひとつだが……。

ハチミツの殺菌成分や大豆イソフラボンの美白効果など、食品の効用としてそういったデータがあることは知られています。ただ、直接肌に使用して同様の効果が得られるかは疑問です。

 むしろ、近年の研究では皮膚を通して食物アレルギーが起こる『経皮感作』という現象があることもわかっていて、危険を伴う行為といえます

 よりよい効果を求めるあまり、つい何かをブレンドしたい誘惑に駆られるが「混ぜるな危険」は化粧品にもいえること。シンプルに使うことこそベストなのかもしれない。

お話を伺ったのは……豊田雅彦先生●医学博士、皮膚科専門医、アレルギー専門医、うるおい皮ふ科クリニック(千葉県松戸市)院長。著書は『図解で解決! 頑固なかゆみもアトピーも1分肌活で必ずよくなる』(三笠書房)など。
豊田先生がプロデュースした高濃度水素含有乳液『うるおいリッチHミルク』は好評発売中。

(取材・文/吉信 武)